婚約者に手を出したら許しませんよ?

柚木ゆず

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第10話 そこには予想外の人物が 俯瞰視点(2)

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「トスの結果わたしが発言権を得たから、喋るわね? 貴方がこんな行動に出るということは、もしかしなくてもアントワン様に攻撃されていたのよね? その果てに言われたのよね? ヴェロニックを傷付けるぞ、と」
「今更隠しても意味はないね。そうだよ。そう言い始めたから、動くことにしたんだ」

 普段の1・5倍近い速度でやってきた問いかけに、普段の1・5倍近い速度で返事をしました。

「次は僕の番だ。君がこんなこんな行動に出るということは、もしかしなくてもロナ様に攻撃されていたんだね? その果てにロナ様に言われたんだよね? ジャルッズを傷付けるぞ、と」
「大正解。そうよ。そんなことを言い始めたから、動くことにしたの」
「…………そうなんだ」
「…………そうなの」

 予想は当たっていた。そう認識した2人は静かに頷き、

「「へぇ。そうなんだ」」

 次の瞬間。2人から同時に表情が消え、目付きが氷のように冷たくなりました。


 ジャルッズは優しくて穏やかな好青年、なのだけれど……。わたしが辛い目や悲しい目に遭うとスイッチが入ってしまい、お父様やおじ様が『氷帝』と呼ぶ状態になってしまうのだ。

 ヴェロニックは思いやりがあるとても優しい女の子、なのだけれど……。僕が辛い目や悲しい目に遭うとスイッチが入ってしまい、父上やおじ上が『氷姫』と呼ぶ状態になってしまうのだ。


 ずっと、ジャルッズが傷つけられていた。
 ずっと、ヴェロニックが傷つけられていた。
 互いの計画を認知したことでスイッチが入る条件を満たしてしまい、ヴェロニックは『氷姫』に、ジャルッズは『氷帝』モードになってしまったのです。

「襲撃して分からせる? わたしったら、なんて甘いことをしていたのかしら?」
「襲撃して分からせる。僕も、なんて甘い判断をしていたのだろうか」
「計画変更。心をキレイにへし折ってあげましょう。ぽきん、べきんとね」
「同感だよ。……ねえヴェロニック。この場合、最終的な目標は同じだ。せっかくだし協力しないかい? 一緒に力を合わせて、真っ二つに折らない?」
「良いアイディア、乗ったわ。2人でやりましょ」

 ヴェロニックとジャルッズは淡々と頷き合い、すぐに作戦会議が始まりました。

「殺してしまったら恐怖はその瞬間終わってしまう。だから」
「うん。殺さず、生かしておこう。となれば、ずっと苦しめられるものが良いね」

 これまでは同時に氷モードになったことはなく、いつもは片方がどうにかこうにか宥めていました。
 しかしながら今回は両方なっており、止められる人が居ません。
 そのためブレーキがかかることはなく、

「そうね。ずっととなると……………………こんな方法はどうかしら?」
「いいね、いいと思う。そこに………………こういったものを加えると、もっと面白くなるんじゃないかな?」
「名案、採用しましょう。細かな部分は………………これでどう?」
「賛成だよ。別のところは……………………こんな風にしてみない?」

 などなど。2人はまるで機械のように淡々かつ黙々と言葉を交わし合い、アクセル全開の新たな計画が出来上がってしまいました。

「長々と2人だけで喋ってしまい、申し訳ございませんでした。ズエーさんにお願いがございます」
「こちらは、可能でしょうか? 新しい計画は、玄人に加えて出来る限り『人』を用意したいんですよ」
「…………え、ええ、もちろん可能です。こちらに関して、他にご希望がござますか?」
「10代の男女を多く集めていただけると、助かります。それ以外は、老若男女満遍なくお願いしたいです」
「畏まりました。お任せください」
「「痛み入ります」」
「「ではこれより準備に移りますので、失礼致します」」

 ヴェロニックもジャルッズも来た時とは別人のような様子で施設を去り、こうして――。これまでのものとは非にならない程に恐ろしい計画が、動き出してしまったのでした。


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