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第2話 事情の把握と、違和感 俯瞰視点(2)

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「? ?? 精霊王、セレスティン様……?」
「怖い顔なんかしちゃったりして、どうしたんですか? 何が、分かったんですか?」
「……客人が自身の意思で動いていない。それが、現在俺が分かっていることだ」

 険しくなっている顔が、さらに険しさを増した状態で。セレスティンは重々しく、言葉を紡ぎました。

「失礼ですが、精霊王セレスティン様。わたしリヴィアは、わたし自身の意思で行動しております。父、母、妹、そして領民や国民の方々。大切な人々を守るため、喜んで行動しております」
「……そうだな、貴女の中ではそうなのだろう。だが、現実は違っている」

 セレスティンは小さく首を左右に振り、左右に動いていた顔は目をぱちくりとさせている側近――ゴーチェへと、向きました。

「お前も、違和感くらいは覚えたはずだ。客人と接していて、不自然に感じた点はなかったか?」
「う、う~ん。そんな点はありませ――ぁっ! あったっ、ありましたっ! リヴィアちゃんと会ったばかりの時っ、不思議な感じがしたよ!」

 名前を聞いた時、何か違うような感覚があった。ゴーチェは前のめりで説明を行い、それを受けたセレスティンは静かに瞑目しました。

「それは客人の中にある、異変であり異常を本能的に感じ取っていたからだ。……彼女の身体――心には、黒魔術がかけられている。それも、濃いものがな」
「くっ、黒魔術!? たっ、大変じゃないですかっ!? どんなのがかけられてるんですかっ!? セレ様なら解除できますよねっ!?」
「少し落ち着け、ゴーチェ。狼狽は逆効果しか生み出さない、いつもそう言っているだろう?」

 優秀であり真っすぐかつ優しい心を持った、精霊界で最も信頼できる相棒であり友。そんなゴーチェの頭に軽く手を載せ、セレスティンは冷静にラシェルを見やりました。

「本心で、自分の意思だと思い込んでいること。心全体が、黒魔術に呑まれていること。それらを鑑みるに、彼女にかけられているのは『記憶の塗り替え』の効果を持つ黒魔術なのだろう」
「……記憶の……。じゃ、じゃあ、リヴィアちゃんって名前も違うの? そこは本当なんですか……?」
「リヴィア・ターザッカル、その名は彼女のものではない。客人の正体は、先程出ていた双子の妹。ラシェル・ターザッカルなのだろうな」

 目を凝らしてみると、泣きボクロはメイクで作られている点。大勢に見送られながら贄となった――誰にも偽者と気付かれずに転移してきた点。などなど。それらの要素によって、セレスティンは真実を見抜いたのでした。

「大方姉リヴィアが選ばれてしまい、妹を代わりにしようとした。だが拒否をされてしまい、強引なやり方に出たのだろうな」
「そんな……酷い……! ラシェルちゃんのお父さんやお母さんは何をやってるのさ! 娘なんだから普通気付くでしょっ! どうして気付かなかったのっ!?」
「その者達は、最初から気付いていただろうさ。なにせ家族も共犯、姉の味方なのだからな」

 ラシェルを蝕む黒魔術からは、3人分の『悪意』が感じられる。それらによってセレスティンはそこにも気付き、小さくため息を吐きました。

「もしも俺以外の精霊が王になっていたら、悲惨な未来になっていたな。不幸中の幸いだ……と、言いたいところだが――。まだまだ、そう言えそうにはないな」
「……そ、それって……。まさか……。解除はできないって、コトですか……?」
「いいや、解除は容易だ。ただ――」

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