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1話(3)

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「本来初対面のレディに無礼な提案はしないのですが、教頭先生のお話を思い出して決心しました。よろしければ了承して頂けませんか?」
「つっ、土水ちゃんっ。この人って四空統希(しそらとうき)くんだよっ! あの四空家の次男様だよっ!」

 横にいる南川さんが、なんとまぁ仰け反って興奮。幼さの残る顔を真っ赤にして、バシバシと育美の背中を叩く。

「土水ちゃん土水ちゃんっ、ここにいるのはあの四空くん! あの四空くんだよっっ!」
「しそら、くん? んと、どちら様なのかな……?」
「四空家といえば、迷霊師の基盤を作った家の一つ。生まれる者は必ず霊能を持つとされる、由緒と絶大な影響力がある名家だな」

 婆ちゃんがその世界に身を置いていたので、知識はある。四空家は二つある迷霊師の起源となった家の片割れで、迷霊師界のドン。四空の姓を持つ者であれば、たとえ園児であっても、ここの校長より厚い待遇になるはずだ。

「んむっ、そんなすごい人なんだっ。知らなくってごめんなさいだよー」
「いえいえ、構いませんよ。偉大なのはオレではなく、御先祖様ですからね」

 彼は首を左右に振り、爽やかに白い歯を零す。
 この人がしたのはたったソレだけなのに、やけに美麗で。南川さんの目はハートになっていた。

「やっば、最強な男子じゃん……っ。土水ちゃんOKしちゃいなよっ」
「え、えっと。優君、どうしよっか?」
「直感で成功した前例があるし、加入脱退はやり放題だ。了解してもいいんじゃないの」

 俺達は2人なので、最低でも一人が必要となる。どうせ誰かと組むのだから、運命を感じてくれた人が良いだろう。

「ん、そだよね。えっとそしたら統希くんさん、優君と一緒にお受けするよー」
「……あぁ、申し訳ありません。実はすでに五人集まっていて、二人追加となると『学生許容範囲(がくせいきょようはんい)』を超えてしまうのですよ」

 チームの人数は無制限だが、あまりに多すぎると統率が効かなくなってしまう。そのため在学中は、最大が6となっているのだ。

「心苦しいのですが、お二人は無理なのです。ですので土水さん、貴女だけになってしまうのですよ」
「……そ、なの。じゃーもう一度ごめんなさいで、お断りするよー」

 育美は迷わず断わり、ぺこり。丁寧かつ可愛らしく腰を折って、こちらに身を寄せてくる。

「ジブンは、優君と一緒がいいの。別々になるならいけないんだよー」
「むかし野良犬から護ってから、こんな風にべったり。自分で言うのはヘンなんだけど、この子はお兄ちゃん大好きっ娘なんだよ」

 ただしその好きは、異性としての好きではない。育美は過去に『優君は人間として大好きでね、迷惑じゃなかったらずっとお傍に居たい人なの。だからもしも優君に好きな人が出来たら、その時は全力で応援するよーっ』と本気で言っており、お互い兄妹の認識なのだ。

「人生は一度きりなんで、できるだけ尊重してあげたい。悪いが諦めてくださいな」
「…………どうしても、駄目でしょうか? 運命的なものを感じて、是が非でも組みたいのですよ」
「ぅーん、そう言われてもなぁ。どうしようもないね」

 あちらは5人、こちらは2人で、上限は6。育美は優陽と離れたくない。
 これらの条件がある限り不可能だ。

「…………そうですか」

 彼は小さく呟き、身を引き――はせず。こちらに瞳を向けてくる。

「ええっと、優君さんでしたよね。少々付き合って頂けませんか?」
「付き合うって、二人きりで話したいの? ここではいけない内容なのか?」
「そうなのですよ。お願いできますでしょうか?」
「…………ああ、いいよ。育美に南川さん、ちょっと失礼するね」

 相手の要望に応え、俺らは揃ってこの場を離脱。賑やかなエリアから20メートル前後離れた、周りに人がいない地点で止まった。
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