5年ぶりに故郷に戻ったら、かつて私を捨てた元婚約者が助けを求めてきました

柚木ゆず

文字の大きさ
4 / 26

第1話 奇妙な出会い シルヴィ視点(2)

しおりを挟む
(ジャゾン……? ここにいる、彼が……?)

 エクトルさんが困惑するのも、無理はありません。
 あの方は、伯爵家の人間――あのあとラクライス家に入ったはずなので、今は侯爵家の人間。貴族、しかも高位貴族が、単身で移動しているなんてあり得ない話なのですから。

(わたしも真っ先にその事実が頭を過ぎり、よく似ている人なのだと思いました。ですがやっぱり、そうとしか思えないのですよ)

 顔が同じ。目の色も同じ。髪の色も同じ。声質も同じ。こういった共通点がありますし、背は170程度――当時166センチくらいだったので、背丈に関してもおかしな点はない。
 こんなにも共通項が揃っているので、不自然な点は多々ありますが、本物と判断しました。

(……なるほど……。そこに加えて、あの目。こんなにも一致している人はまずいないね)
(はい。確実に本人でして――なのにわたしだと気付かないのは、わたしの姿が当時とは大きく異なっているからなのでしょうね)

 宿屋の仕事は力仕事が多く自然と当時よりも筋肉がつきましたし、食事用の野菜を菜園で育てていて日焼けもしています。しかも動きやすいように髪はスーパーロングからボブにしていて、たとえ当時の家族が見ても分からないと思います。

(確かに、ずっと見ていないと気付かないだろうね。……まさか、こんな形で元凶と再会するだなんてね。夢みたいだよ)
(わたしもです……)

 わたしは貴族ではなくなり、さらには隣国の人間となりました。住む世界がまるで違う人と会うことなんて、二度とないと思っていました。

(しかもそんな人が、必死にお願いをしてきている。なにもかも予想外で、動揺してしまっています)
(そうなってしまうのは当然だよ。……そんな人間を見ているのは、辛いよね。すぐに離れよう)
(ありがとうございます。でもその前に、助けを求める理由を知りたいと思っています)

 侯爵家の人間がこんな場所でたった一人で行動していて、ここまで取り乱しているだなんて、原因の想像がつきません。
 異様な出来事の理由が気になり、詳細を知らずにはいられなくなりました。

(それもそうだね。じゃあ確認してみるよ)

 そうしてわたし達はヒソヒソ話を終え、エクトルさんが『そんな風になっている』経緯を尋ねてくれました。

「お召し物を見るに、貴方様はこの国の貴族――それも、上位の貴族様ですよね?」
「…………隠しても意味がない、むしろ逆効果だよな……。はっ、はい! そうでございますっ! 現在はラクライス侯爵家に籍を置くっ、オラワサル伯爵家に生まれた人間でございますっ!」
「やはり、そうでしたか。そんな方がどうして、僕らのような平民――それも他国の平民に、助けを求めるのですか?」

 説明をして欲しい。そう告げると、ジャゾン様は――。何かがあった、その際の状況を思い出したのでしょう。
 激しく身体を震わせるようになり、同じく激しく震える唇を懸命に動かして――


「お、俺は……。このままだと、殺されてしまうんです……! 妻に……!!」


 ――まずは、信じられないことを発して……。
 怯えながら、当時の状況を語り始めたのでした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」

みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。 というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。 なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。 そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。 何か裏がある―― 相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。 でも、非力なリコリスには何も手段がない。 しかし、そんな彼女にも救いの手が……?

【完結】やってしまいましたわね、あの方たち

玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。 蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。 王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

婚約破棄ですか?あなたは誰に向かって口をきいているのですか!?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、マリアンヌ・バークレーは王宮の誕生日パーティーでいきなり婚約破棄を言い渡された。は!?婚約破棄ですか?あなたは誰ですの?誰にモノを言っているのですか?頭大丈夫ですか?

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

地味で無才な私を捨てたことを、どうぞ一生後悔してください。

有賀冬馬
恋愛
「お前のような雑用女、誰にでも代わりはいる」 そう言って私を捨てたディーン様。でも、彼は気づいていなかったのです。公爵家の繁栄を支えていたのは、私の事務作業と薬草の知識だったということに。 追放された辺境の地で、私はようやく自分らしく生きる道を見つけました。無口な辺境伯様に「君がいなければダメだ」と熱烈に求められ、凍っていた心が溶けていく。 やがて王都で居場所をなくし、惨めな姿で私を追いかけてきた元婚約者。 「もう、私の帰る場所はここしかありませんから」 絶望する彼を背に、私は最愛の人と共に歩み出します。

お前を愛することはないと言われたので、愛人を作りましょうか

碧井 汐桜香
恋愛
結婚初夜に“お前を愛することはない”と言われたシャーリー。 いや、おたくの子爵家の負債事業を買い取る契約に基づく結婚なのですが、と言うこともなく、結婚生活についての契約条項を詰めていく。 どんな契約よりも強いという誓約魔法を使って、全てを取り決めた5年後……。

わたしに冗談なんて通じません。だから二度と婚約者面なんてしないでくださいね

うさこ
恋愛
特殊な騎士の家で育った私には婚約者がいた。 今思えば、彼は私に好きになれと強要していた。 そんな私は婚約破棄を言い渡されーー ※ざまぁです

処理中です...