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プロローグ クリスチアーヌ・メギトートル視点(1)
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「クリスチアーヌ様。改めて、今日からよろしくお願いします」
「サミュエル様、こちらこそですわ。改めて、今日からよろしくお願い致します」
我がメギトートル子爵邸の一階部にある、応接室。そこではわたしとサミュエル様、わたしのお父様とサミュエル様のお父様が向かい合って座っており、それぞれが固く握手を交わしました。
――メギトートル子爵家の長女とゾルゾハーズ子爵家の嫡男の婚約――。
今日はそんな一大イベントが行われる日で、この国では女性もとを男性が訪ねて書類を交わすようになっている。そのため今日は正午ちょうどにサミュエル様達がいらっしゃり、正式に婚約が結ばれたのでした。
((うふふふふふっ。やったわ! ついにわたしも恋に生きることができるのね!!))
表では上品に微笑み、心の中では両手を広げながらクルクル回って右の拳を高らかに突き上げる。
ついでに左の拳も突き上げて、ぴょんぴょん跳びはねる。
((ふふふっ! ふふふふふふふふ! やったわ!! 18年来の夢が叶ったわ!!))
心の中でのはっちゃけっぷりと、現在17歳なのに18年来と叫ぶ。誰かがこの様子を見ていたら『喜びすぎておかしくなった』と思われるかもしれないけれど、それは違う。
わたしは、ちゃんと正常。こうなっていたりこう言っていたりするのには、しっかりとした理由があるのよね。
――前世――。
信じられないだろうけど、事実なお話。わたしことクリスチアーヌ・メギトートルは、かつてこの世界とは異なる『異世界』で『伝説の魔法使い』と呼ばれた、リリアン・オールワーの転生体。要するに、リリアンが生まれ変わった姿なの。
そんなリリアンは――わたしは生まれた時から魔法の才に溢れすぎていて、無限の可能性を秘めていたため魔法の研究と開発にどっぷりと嵌まってしまった。どのくらい嵌まったかというと、10歳から100歳になるまでひとけがなく魔法を自由に使える場所に籠りっぱなしだったくらい。
『…………もう、100歳になっていたのね。魔法の研究とか開発は、楽しかったけど……。他のことは、なんにもやらなかったわね……』
『久しぶり5歳離れた実妹っ! まだ生きていたのね!』
『お姉様!? 生きているうちはお会いできないと思っていました!! どうされたのですか!?』
『……………………』
『? お姉様?』
『……………………魔法の開発や研究に夢中になりすぎてね……。こんなに時間が経ってるって気が付かなかったのよねぇ……』
『ええっ!? 気が付かなかったんですか!?』
『だから他のことは全然経験できなくって、今からやるのはもう無理でしょう? そこでアナタの人生を詳しく聞いて、頭の中でアナタとわたしを置き換えて、自分もやったつもりになりたくなったの。どんなことをして、どんな風に今日まで過ごしてきたのかを教えて頂戴』
『お、置き換え!? わ、分かりました。お伝えします』
そうしてわたしは、クラリスから色々な話を聞き始めて――
『一番の思い出、ですか? わたくしの「一番」はかなり期間が長くなるのですが、今は亡き夫と過ごした日々ですね。……どんなに時が経とうとも色あせることはなく、すべてをはっきりと思い出せます。ふたりで過ごした毎日は、本当に楽しかった』
『ね、ねえ。どんな風に、過ごしたの? そもそも、リュックさん? とはどのように出会ったの?』
『わたくしとリュックの出逢いは、とある舞踏会でした。その日はやや体調が悪く足を挫いてしまい、そこを助けてもらったことで関係が始まって――』
どんな風に関係を深めていったとか。どんな風にデートをしたとか。どんな風に婚約して結婚をしたとか。どんな新婚生活を過ごしたとか。
そんな話をするクラリスは本当に幸せそうで、瞳も声もキラキラと輝いていて――
わたしも恋をしてみたい。
実際にそんな人生を歩んでみたい!
クラリスを見ているうちに、そう強く思うようになったのだった。
((頭の中で置き換えるのじゃなくて、ちゃんとこの身で経験してみたいわ! ……寿命が尽きる前に…………転生の魔法を創りましょう))
霊峰に90年居続けたことによって『輪廻』に造詣が深くなり、『肉体の若返り』より早く魔法を完成させられる自信があった。そこでわたしは、霊峰に飛んで帰って再び魔法の開発に没頭し――
「できたわ!! これでわたしも恋ができる!!」」
――1年後、完成。記憶などを引き継いだままの状態で、『どこか』で女性として生まれ変われるようになったのだった。
「ふぅ、どうにか間に合ったみたいね。…………恋って……。どんなもの、なの、かしら……。ね…………」
転生魔法が完成した、その僅か1日後。わたしは101歳でこの世を去り――やがて異世界にある『リングロード』にて、メギトートル子爵家の長女として再誕する。
そうして今度こそ最初から最後まで人里で生きてゆくと決意し、魔法を封印して一介の令嬢として暮らし始め――
半年前、16歳の冬。
素敵な出逢いが、わたしを待っていたのでした。
「サミュエル様、こちらこそですわ。改めて、今日からよろしくお願い致します」
我がメギトートル子爵邸の一階部にある、応接室。そこではわたしとサミュエル様、わたしのお父様とサミュエル様のお父様が向かい合って座っており、それぞれが固く握手を交わしました。
――メギトートル子爵家の長女とゾルゾハーズ子爵家の嫡男の婚約――。
今日はそんな一大イベントが行われる日で、この国では女性もとを男性が訪ねて書類を交わすようになっている。そのため今日は正午ちょうどにサミュエル様達がいらっしゃり、正式に婚約が結ばれたのでした。
((うふふふふふっ。やったわ! ついにわたしも恋に生きることができるのね!!))
表では上品に微笑み、心の中では両手を広げながらクルクル回って右の拳を高らかに突き上げる。
ついでに左の拳も突き上げて、ぴょんぴょん跳びはねる。
((ふふふっ! ふふふふふふふふ! やったわ!! 18年来の夢が叶ったわ!!))
心の中でのはっちゃけっぷりと、現在17歳なのに18年来と叫ぶ。誰かがこの様子を見ていたら『喜びすぎておかしくなった』と思われるかもしれないけれど、それは違う。
わたしは、ちゃんと正常。こうなっていたりこう言っていたりするのには、しっかりとした理由があるのよね。
――前世――。
信じられないだろうけど、事実なお話。わたしことクリスチアーヌ・メギトートルは、かつてこの世界とは異なる『異世界』で『伝説の魔法使い』と呼ばれた、リリアン・オールワーの転生体。要するに、リリアンが生まれ変わった姿なの。
そんなリリアンは――わたしは生まれた時から魔法の才に溢れすぎていて、無限の可能性を秘めていたため魔法の研究と開発にどっぷりと嵌まってしまった。どのくらい嵌まったかというと、10歳から100歳になるまでひとけがなく魔法を自由に使える場所に籠りっぱなしだったくらい。
『…………もう、100歳になっていたのね。魔法の研究とか開発は、楽しかったけど……。他のことは、なんにもやらなかったわね……』
『久しぶり5歳離れた実妹っ! まだ生きていたのね!』
『お姉様!? 生きているうちはお会いできないと思っていました!! どうされたのですか!?』
『……………………』
『? お姉様?』
『……………………魔法の開発や研究に夢中になりすぎてね……。こんなに時間が経ってるって気が付かなかったのよねぇ……』
『ええっ!? 気が付かなかったんですか!?』
『だから他のことは全然経験できなくって、今からやるのはもう無理でしょう? そこでアナタの人生を詳しく聞いて、頭の中でアナタとわたしを置き換えて、自分もやったつもりになりたくなったの。どんなことをして、どんな風に今日まで過ごしてきたのかを教えて頂戴』
『お、置き換え!? わ、分かりました。お伝えします』
そうしてわたしは、クラリスから色々な話を聞き始めて――
『一番の思い出、ですか? わたくしの「一番」はかなり期間が長くなるのですが、今は亡き夫と過ごした日々ですね。……どんなに時が経とうとも色あせることはなく、すべてをはっきりと思い出せます。ふたりで過ごした毎日は、本当に楽しかった』
『ね、ねえ。どんな風に、過ごしたの? そもそも、リュックさん? とはどのように出会ったの?』
『わたくしとリュックの出逢いは、とある舞踏会でした。その日はやや体調が悪く足を挫いてしまい、そこを助けてもらったことで関係が始まって――』
どんな風に関係を深めていったとか。どんな風にデートをしたとか。どんな風に婚約して結婚をしたとか。どんな新婚生活を過ごしたとか。
そんな話をするクラリスは本当に幸せそうで、瞳も声もキラキラと輝いていて――
わたしも恋をしてみたい。
実際にそんな人生を歩んでみたい!
クラリスを見ているうちに、そう強く思うようになったのだった。
((頭の中で置き換えるのじゃなくて、ちゃんとこの身で経験してみたいわ! ……寿命が尽きる前に…………転生の魔法を創りましょう))
霊峰に90年居続けたことによって『輪廻』に造詣が深くなり、『肉体の若返り』より早く魔法を完成させられる自信があった。そこでわたしは、霊峰に飛んで帰って再び魔法の開発に没頭し――
「できたわ!! これでわたしも恋ができる!!」」
――1年後、完成。記憶などを引き継いだままの状態で、『どこか』で女性として生まれ変われるようになったのだった。
「ふぅ、どうにか間に合ったみたいね。…………恋って……。どんなもの、なの、かしら……。ね…………」
転生魔法が完成した、その僅か1日後。わたしは101歳でこの世を去り――やがて異世界にある『リングロード』にて、メギトートル子爵家の長女として再誕する。
そうして今度こそ最初から最後まで人里で生きてゆくと決意し、魔法を封印して一介の令嬢として暮らし始め――
半年前、16歳の冬。
素敵な出逢いが、わたしを待っていたのでした。
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