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第8話 最後の目的地 クリスチアーヌ視点(1)
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「運んでくださりありがとうございます。……こちらは、どの辺りなのでしょうか……?」
「とりあえず、山頂付近に飛んでみました。今回はここから下に向けて探したいと思います」
最後の目的地は、『ローズハットス山(やま)』と呼ばれる火山。とはいえ噴火は2100年前に1回あっただけと言われていて、現在噴火の恐れはまったくないとされているため、人の行き来はかなりある山となっている。
ちなみに――。この『ローズハットス山』は、国内1の『治癒』に関するパワースポットとして非常に有名。足を踏み入れると怪我の治りが通常よりも早くなるという話や、不治の病が治ったという言い伝えもあるみたい。
「とことん、神聖な場所を攻めてきますね……。魔王ダーズン、どこまでも悪質な存在だ……」
「そうですね。そんな者は、少しでも早く滅さないといけません。過去2つに比べて難易度は跳ね上がっていますが、頑張って探しましょう」
ローラッカスは『森』で、ロードトッグスは『砂浜』だった。それらに対してロードハットスは『山』で、標高もそれなりにあるため捜索範囲は桁外れ。
いつまでもこんなことが続いていたら、のんびり恋ができないものね。できるだけ早く――どんなに遅くなっても、明日が終わるまでにはピリオドを打ちましょう。
お屋敷を発つ前にそんな風に思っていたのは、こういった理由があるからなのよね。
((てっぺん付近で見つからなかったら、傾向が分からなくなってますます発見に時間がかかるようになってしまう。この辺りに埋まっていて欲しいのだけれど、そう上手くはいかないでしょうねえ))
こんな予感は、的中。サミュエル様と協力して隅々まで調べてみたものの、盛り上がっている地面は発見できなかった。
「クリスチアーヌ様、下がっていきましょうか。ここからスタート、で構いませんか?」
「はい。……こんな時ではありますが、常時気を張っていたら本番前に疲弊してしまいます。お喋りをしながら探しましょう」
いつゴールできるのかまったく見当がつかない時は、適度な息抜きが大事。もちろんお互いにしっかりと目を光らせながら、進んでゆく。
「クリスチアーヌ様が、リリアン様だった頃のお話を伺っても大丈夫でしょうか?」
「構いませんよ。なんでしょう?」
「あちらの世界は、魔法があったのですよね? 魔法は、誰でも自由自在に扱えるものなのですか? それとも、ある程度の才が必要だったのですか?」
「後者で、魔力を持っている人間のみ扱うことができました。数は、そうですね。わたしが暮らしていた国では、全人口の10パーセントくらいが魔力を持っていました」
「そうだったのですね。その魔力は、遺伝的なものなのでしょうか?」
「遺伝はまったく関係なく、完全に運ですね。わたしは、子爵家の娘として――貴族としてこの世に生まれましたが、家族にも親族にも魔力持ちは居ませんでしたし、交友があった他貴族にも魔力持ちは居ませんでしたね。性別も身分も血統も一切無縁で、人里に居たのは10歳までなので以降は分かりませんが、その頃は王族にも居なかったはずです」
「他には、なにかございますか?」
「リリアン様だった頃は、魔法の開発や研究をされていたのですよね? 開発や研究は、どのように行うのですか?」
「少々理解しにくいとは思うのですが――。魔力を持つ者は頭の中に一冊の本をイメージすることができて、そこに魔法を発動させるための『プログラム』を書いていくんですよ」
「プログラム、ですか……?」
「『どんな魔法を創りたいか』。最初にそれを決めて、その魔法を起動させるためのプロセスを構築してゆくのです。この世界で例えるなら、そうですね。『ケーキを作って完成させる』をゴールとした場合、『卵を割る』から始まって『クリームを塗る』『仕上げる』で終わる。『卵を割る』や『クリームを塗る』といったケーキ作りに必要な作業を自動的に行うような仕組みを構築して――脳内の本に書き込んで、全てを書き終えた上で本を閉じると、その魔法を使えるようになるんです」
「……なるほど……」
「もちろん自分で『できた』と思っていても、適切なプログラムが書かれていなければ発動はしません。ちなみに複雑かつ強力な魔法ほど使うページが多くなるのですが、ページの数は宿っている魔力の量に比例します。一般的な魔力持ちなら3ページくらいで、既存の魔法なら使用できますが、そのページ数ではオリジナルの魔法を創造することはできませんね」
「創造は、極一部にのみ許された行為なのですね。ちなみにリリアン様は、どのくらいのページ数なのですか?」
「わたしは、無限です。言い忘れていましたが、魔力は無尽蔵ですからね」
「む、むげん……。さすが、伝説の魔法使いですね……」
などなど。せっかくなのでリリアンについてのお話を中心に行って――5時間くらい経過した頃だと思う。
「! クリスチアーヌ様っ!」
「お見事。ありましたね」
ようやく、最後の石碑を見つけたのだった。
「とりあえず、山頂付近に飛んでみました。今回はここから下に向けて探したいと思います」
最後の目的地は、『ローズハットス山(やま)』と呼ばれる火山。とはいえ噴火は2100年前に1回あっただけと言われていて、現在噴火の恐れはまったくないとされているため、人の行き来はかなりある山となっている。
ちなみに――。この『ローズハットス山』は、国内1の『治癒』に関するパワースポットとして非常に有名。足を踏み入れると怪我の治りが通常よりも早くなるという話や、不治の病が治ったという言い伝えもあるみたい。
「とことん、神聖な場所を攻めてきますね……。魔王ダーズン、どこまでも悪質な存在だ……」
「そうですね。そんな者は、少しでも早く滅さないといけません。過去2つに比べて難易度は跳ね上がっていますが、頑張って探しましょう」
ローラッカスは『森』で、ロードトッグスは『砂浜』だった。それらに対してロードハットスは『山』で、標高もそれなりにあるため捜索範囲は桁外れ。
いつまでもこんなことが続いていたら、のんびり恋ができないものね。できるだけ早く――どんなに遅くなっても、明日が終わるまでにはピリオドを打ちましょう。
お屋敷を発つ前にそんな風に思っていたのは、こういった理由があるからなのよね。
((てっぺん付近で見つからなかったら、傾向が分からなくなってますます発見に時間がかかるようになってしまう。この辺りに埋まっていて欲しいのだけれど、そう上手くはいかないでしょうねえ))
こんな予感は、的中。サミュエル様と協力して隅々まで調べてみたものの、盛り上がっている地面は発見できなかった。
「クリスチアーヌ様、下がっていきましょうか。ここからスタート、で構いませんか?」
「はい。……こんな時ではありますが、常時気を張っていたら本番前に疲弊してしまいます。お喋りをしながら探しましょう」
いつゴールできるのかまったく見当がつかない時は、適度な息抜きが大事。もちろんお互いにしっかりと目を光らせながら、進んでゆく。
「クリスチアーヌ様が、リリアン様だった頃のお話を伺っても大丈夫でしょうか?」
「構いませんよ。なんでしょう?」
「あちらの世界は、魔法があったのですよね? 魔法は、誰でも自由自在に扱えるものなのですか? それとも、ある程度の才が必要だったのですか?」
「後者で、魔力を持っている人間のみ扱うことができました。数は、そうですね。わたしが暮らしていた国では、全人口の10パーセントくらいが魔力を持っていました」
「そうだったのですね。その魔力は、遺伝的なものなのでしょうか?」
「遺伝はまったく関係なく、完全に運ですね。わたしは、子爵家の娘として――貴族としてこの世に生まれましたが、家族にも親族にも魔力持ちは居ませんでしたし、交友があった他貴族にも魔力持ちは居ませんでしたね。性別も身分も血統も一切無縁で、人里に居たのは10歳までなので以降は分かりませんが、その頃は王族にも居なかったはずです」
「他には、なにかございますか?」
「リリアン様だった頃は、魔法の開発や研究をされていたのですよね? 開発や研究は、どのように行うのですか?」
「少々理解しにくいとは思うのですが――。魔力を持つ者は頭の中に一冊の本をイメージすることができて、そこに魔法を発動させるための『プログラム』を書いていくんですよ」
「プログラム、ですか……?」
「『どんな魔法を創りたいか』。最初にそれを決めて、その魔法を起動させるためのプロセスを構築してゆくのです。この世界で例えるなら、そうですね。『ケーキを作って完成させる』をゴールとした場合、『卵を割る』から始まって『クリームを塗る』『仕上げる』で終わる。『卵を割る』や『クリームを塗る』といったケーキ作りに必要な作業を自動的に行うような仕組みを構築して――脳内の本に書き込んで、全てを書き終えた上で本を閉じると、その魔法を使えるようになるんです」
「……なるほど……」
「もちろん自分で『できた』と思っていても、適切なプログラムが書かれていなければ発動はしません。ちなみに複雑かつ強力な魔法ほど使うページが多くなるのですが、ページの数は宿っている魔力の量に比例します。一般的な魔力持ちなら3ページくらいで、既存の魔法なら使用できますが、そのページ数ではオリジナルの魔法を創造することはできませんね」
「創造は、極一部にのみ許された行為なのですね。ちなみにリリアン様は、どのくらいのページ数なのですか?」
「わたしは、無限です。言い忘れていましたが、魔力は無尽蔵ですからね」
「む、むげん……。さすが、伝説の魔法使いですね……」
などなど。せっかくなのでリリアンについてのお話を中心に行って――5時間くらい経過した頃だと思う。
「! クリスチアーヌ様っ!」
「お見事。ありましたね」
ようやく、最後の石碑を見つけたのだった。
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