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第16話 不可能を可能にするために アリア視点(3)
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「わたしはレーリアック湖の近くにある別荘に滞在しておりまして、周辺地域の一日の天気や気温の変化を覚えております。教会長様が指定した日時について細かくご説明できますので、お好きな日付と時間帯を仰ってください」
30日分の天気と雲の量のあとに出すのは、こちら。
30日分の朝から夜までの変化は、天気と雲量以上に実際にそこに居ないと分からないもの。こちらでさらに、説得力を増やします。
「達成した日――30日目は終了してすぐ、熱で意識を失ってしまっておりまして。その日を除いた日なら何でも――風量に関してもお答えできますので、お好きなだけ仰ってください」
「…………では……。5月23日は、どのような気温と風量でしたか? 」
「朝は少し涼しく、昼になるとちょうど良い温度になりました。夕方になると涼しさが出てきて、夜はほんの少しだけ夕方よりは温度が上がったと思います。風量は午後5時~午後6時ごろに少し強めに吹いた以外は、穏やかでした」
「……5月29日の気温の変化と風量、一日の天気はいかがでしたか?」
「この日は朝はやや暑め、昼は暑い、夕方も暑い、夜は普通、風の量は一日通して変化はなく少し吹いた程度です。天気は全体的に雲が少なかったのですが、午後3時から5時半ごろまでは『曇り』になりました」
「6月4日の気温の変化と風量、雲の量の変化を教えていただきたいです」
「朝は暑いと感じ、その感覚は夕方まで続きました。午後5時からは雲が多くなったため気温も下がり、そこからは肌寒く感じました。雲量は午前は快晴でしたが徐々に増え始め、午後5時からは『曇り』となり、夜もずっと曇りのままでした」
「……では、最終日について伺います。大雨だったそうですが、雨に打たれ続けた時の感覚はどういったものでしたか?」
「……あのような経験をしたのは、生まれて初めてでした」
全身が寒い。身体から熱が逃げているのが分かる。
手足が勝手に震え始めた。歯もひとりでに震え始めた。
――死――。
寒さで死んでしまうかもしれない、と感じるようになった。
でも。
止めない。
全身を震わせながら祈り続け――。歯を食いしばりながら祈りを続け――。
ほとんど、五感のひとつの触覚を失ってしまった頃――
カーン カーン カーン カーン
――13回の鐘が鳴り響き、午後1時になったと伝えてくれたのでした。
あの時感じたものを――生涯忘れることはない記憶を、当時感じたままお伝えしました。
そうすると――
「ありがとうございます。確認は以上で構いません」
「こちらこそ、ありがとうございました。では教会長様、ご確認をお願い致します」
当時の天気、気温、風量は本当言った通りなのか? そちらの関する情報を、教会長様ご自身に調査をしていただくことになります。
なぜならわたしが行ってしまうと、その気になれば何かしらの細工を行えてしまうのですから。
「これより確認し、結果が出ましたらご連絡を差し上げます」
「よろしくお願い致します。お待ちしております」
そうしてその日は、一礼をしてお屋敷に戻り――それから9日後のことでした。わたしのもとに教会長様からのお手紙が届き――
30日分の天気と雲の量のあとに出すのは、こちら。
30日分の朝から夜までの変化は、天気と雲量以上に実際にそこに居ないと分からないもの。こちらでさらに、説得力を増やします。
「達成した日――30日目は終了してすぐ、熱で意識を失ってしまっておりまして。その日を除いた日なら何でも――風量に関してもお答えできますので、お好きなだけ仰ってください」
「…………では……。5月23日は、どのような気温と風量でしたか? 」
「朝は少し涼しく、昼になるとちょうど良い温度になりました。夕方になると涼しさが出てきて、夜はほんの少しだけ夕方よりは温度が上がったと思います。風量は午後5時~午後6時ごろに少し強めに吹いた以外は、穏やかでした」
「……5月29日の気温の変化と風量、一日の天気はいかがでしたか?」
「この日は朝はやや暑め、昼は暑い、夕方も暑い、夜は普通、風の量は一日通して変化はなく少し吹いた程度です。天気は全体的に雲が少なかったのですが、午後3時から5時半ごろまでは『曇り』になりました」
「6月4日の気温の変化と風量、雲の量の変化を教えていただきたいです」
「朝は暑いと感じ、その感覚は夕方まで続きました。午後5時からは雲が多くなったため気温も下がり、そこからは肌寒く感じました。雲量は午前は快晴でしたが徐々に増え始め、午後5時からは『曇り』となり、夜もずっと曇りのままでした」
「……では、最終日について伺います。大雨だったそうですが、雨に打たれ続けた時の感覚はどういったものでしたか?」
「……あのような経験をしたのは、生まれて初めてでした」
全身が寒い。身体から熱が逃げているのが分かる。
手足が勝手に震え始めた。歯もひとりでに震え始めた。
――死――。
寒さで死んでしまうかもしれない、と感じるようになった。
でも。
止めない。
全身を震わせながら祈り続け――。歯を食いしばりながら祈りを続け――。
ほとんど、五感のひとつの触覚を失ってしまった頃――
カーン カーン カーン カーン
――13回の鐘が鳴り響き、午後1時になったと伝えてくれたのでした。
あの時感じたものを――生涯忘れることはない記憶を、当時感じたままお伝えしました。
そうすると――
「ありがとうございます。確認は以上で構いません」
「こちらこそ、ありがとうございました。では教会長様、ご確認をお願い致します」
当時の天気、気温、風量は本当言った通りなのか? そちらの関する情報を、教会長様ご自身に調査をしていただくことになります。
なぜならわたしが行ってしまうと、その気になれば何かしらの細工を行えてしまうのですから。
「これより確認し、結果が出ましたらご連絡を差し上げます」
「よろしくお願い致します。お待ちしております」
そうしてその日は、一礼をしてお屋敷に戻り――それから9日後のことでした。わたしのもとに教会長様からのお手紙が届き――
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