56 / 56
第22話 あの時言えなかった言葉を、今 アリア視点(1)
しおりを挟む
「アリア様。来てくださりありがとうございます」
レピレーナホールの前――わたし達にとって特別な場所で待っていると、レイオン様が――あの時とは正反対の、わたしのよく知っている優しい表情のレイオン様がいらっしゃりました。
「レイオン様。今、わたしも同じことを口にしたくなっています。……来てくださり、ありがとうございます」
「僕がこうしてこちらに来れたのは、貴方のおかげですよ。思い出させてくれて、ありがとうございます」
シスターに成りすまして演奏してくれたこと。想いを乗せた音を、自分の耳に届けてくれたこと。
後ろ――教会がある方向とわたしの両指を順番に見つめ、胸に左手を当てつつ背を折り曲げてくださりました。
「……音を届けることができたら、レイオン様の記憶が蘇るかもしれない。その切っ掛けをくれたのは、ゲインさん達なんですよ。婚約された日のレイオン様のご様子を内密に伝えてくださり、作戦が経ったら内通してくださったりしてくださって。そのおかげで演奏を使った作戦を思い付けて、演奏者になることもできたんです」
今度は、わたしがお話しをさせていただく番。今日までの出来事を――『別荘班』の皆様のご活躍を、説明しました。
「そうだったのですね。……あの日――婚約が決まった時から、いくつもの違和感を覚えるようなったんですよ。オルネラに好意を抱いているはずなのに、なぜかその感情の全てを受け入れられなかった。反対に当時はよい感情を抱いていなかったはずのアリア様の姿が、浮かんでくるようになっていたんです」
「そう、なんですね。抗って、くださっていたんですね」
「頭では理解できていなくても、魂はちゃんと理解をしていた。魂にはちゃんとこれまでの出来事が刻まれたままで、そのおかげで助かりましたよ」
ミータイアス様は所謂男女の関係を強く望まれていたそうなのですが、そんな思いによって拒んでいた。キスさえも、交わされなかったそうなのです。
――この心も身体も、貴方に相応しい状態を保ててよかった――。
レイオン様はご自身を見回して安堵の息を吐かれ、それが終わると、流麗に片膝をつかれました。
「…………アリア様。あの日お伝えすることができなかった言葉を、これからお伝えします」
そうしてレイオン様は、ゆっくりとお顔を上げて――
レピレーナホールの前――わたし達にとって特別な場所で待っていると、レイオン様が――あの時とは正反対の、わたしのよく知っている優しい表情のレイオン様がいらっしゃりました。
「レイオン様。今、わたしも同じことを口にしたくなっています。……来てくださり、ありがとうございます」
「僕がこうしてこちらに来れたのは、貴方のおかげですよ。思い出させてくれて、ありがとうございます」
シスターに成りすまして演奏してくれたこと。想いを乗せた音を、自分の耳に届けてくれたこと。
後ろ――教会がある方向とわたしの両指を順番に見つめ、胸に左手を当てつつ背を折り曲げてくださりました。
「……音を届けることができたら、レイオン様の記憶が蘇るかもしれない。その切っ掛けをくれたのは、ゲインさん達なんですよ。婚約された日のレイオン様のご様子を内密に伝えてくださり、作戦が経ったら内通してくださったりしてくださって。そのおかげで演奏を使った作戦を思い付けて、演奏者になることもできたんです」
今度は、わたしがお話しをさせていただく番。今日までの出来事を――『別荘班』の皆様のご活躍を、説明しました。
「そうだったのですね。……あの日――婚約が決まった時から、いくつもの違和感を覚えるようなったんですよ。オルネラに好意を抱いているはずなのに、なぜかその感情の全てを受け入れられなかった。反対に当時はよい感情を抱いていなかったはずのアリア様の姿が、浮かんでくるようになっていたんです」
「そう、なんですね。抗って、くださっていたんですね」
「頭では理解できていなくても、魂はちゃんと理解をしていた。魂にはちゃんとこれまでの出来事が刻まれたままで、そのおかげで助かりましたよ」
ミータイアス様は所謂男女の関係を強く望まれていたそうなのですが、そんな思いによって拒んでいた。キスさえも、交わされなかったそうなのです。
――この心も身体も、貴方に相応しい状態を保ててよかった――。
レイオン様はご自身を見回して安堵の息を吐かれ、それが終わると、流麗に片膝をつかれました。
「…………アリア様。あの日お伝えすることができなかった言葉を、これからお伝えします」
そうしてレイオン様は、ゆっくりとお顔を上げて――
13
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(10件)
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。
まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」
そう言われたので、その通りにしたまでですが何か?
自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。
☆★
感想を下さった方ありがとうございますm(__)m
とても、嬉しいです。
『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら
黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。
最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。
けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。
そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。
極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。
それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。
辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの?
戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる?
※曖昧設定。
※別サイトにも掲載。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
やったーーーーー(๑˃̵ᴗ˂̵)
蓮様。わざわざ感想をくださり、ありがとうございます。
お返事が遅くなってしまい、申し訳ございません。
あの30日。無事、そちらを達成することはできました。
その結果、ああいったことになりまして。それにより、今度こそ、となる……はずだったのですが……。予想外の事態が発生してしまいました。
この問題は……。どうなってしまうのでしょうね……?
彼方向井様。わざわざ感想をくださり、ありがとうございます。
そう、ですよね。
行うことは、とても大変なこと。特にからだに大きな負担がかかることですので、出るといい、出てほしいですよね。
その結果が、どうなるのか? そしてその先に、何が待っているのか?
それは現在、明らかになりつつあります……!
蓮様。わざわざ感想をくださり、ありがとうございます。
なぜか返信が消えてしまっていたため、改めてお返事をさせていただいております。
彼女へのお言葉、ありがとうございます。
30日間。それはとても大変なこと、なのですが。
想いのちからで、きっと。やってくれると思います。