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第1話 不意の、解放(1)
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「ミーナ。その餌を食べ終わったら、夕方まで屋敷の掃除をしなさい」
「……はい。喜んで、させていただきます」
食堂の隅にある床で硬くなった少しのパンとミルクを食べて飲んでいたあたしは、大きなテーブルについているお母様に深く頭を下げます。
やってしまったことは、絶対に戻らない。なのでこの食事は当たり前だし、出来る限りのことをするのも当たり前。むしろこんなあたしを家においてくれて、食べものを与えてくれるのは、本当にありがたいことです。
「お姉ちゃん、私の部屋もやっておいてね。埃がちょっとでも残ってたら、ママと一緒にお仕置きするわよ?」
「……はい、ララ様。畏まりました」
今のあたしは、使用人さんと同等――それ以下の立場だから、二つ下の妹に対しても様付けと敬語は欠かせません。そして何かしら粗相があった場合は、厳しいお仕置きを受けなければならないのです。
「ミーナ。俺はこれから外出し、夜にアンドレ殿を連れて戻ってくる。掃除の後は、歓迎の準備をしておくようにな」
「お父様、承知致しました。お任せください」
アンドレ・ソール様はお父様のご友人で、甘いものがお好きな方。ソール様のために、クッキーを焼かせていただきましょう。
「ミーナ。時間内に準備が終わらなくても、お仕置きよ?」
「間に合わなかったから、こないだみたいにお尻をペンペンするからね。お姉ちゃん」
「……はい、しっかり致します。お母様、ララ様、お父様」
あたしは残っていたパンとミルクを口に押し込み、深くお辞儀をして出発。急いで物置――今の自室に戻って掃除用具を手に取り、まずは二階の端から。お母様専用の書斎の清掃に取り掛かりました。
「お母様。せめてもの償いで、一生懸命させていただきます……」
家の評判などなど多くのものを汚してしまった事実をお詫びし、室内に4つある書棚の上から雑巾で拭いていきます。
お掃除は、上から下へ。今日もあたしは、心を込めてお掃除します。
「椅子さん、載ってしまい申し訳ありません。そのままだと届かないので、お許しくださいね」
物置から持ってきた椅子に謝罪しながら丁寧に拭き、汚れたら降りてバケツで洗って、椅子に載ってゴシゴシ。丁寧に丁寧に、綺麗にしていきます。
「………………よっし、三つ目が終わりました。あと一つ、ですね」
椅子を運んで最後の書棚の前に置き、載らせてもらってお掃除。さっきまでと同じように雑巾で拭き、汚れたら洗って、服の中に手を突っ込んで温めて、また拭きます。
今は冬で、使っているのは氷入りの冷たいお水。そのため手がかじかんで、あったかくしないと思うように動いてくれなくなっちゃうんですよね。
「…………氷水は、お母様からの罰……。この痛みは暴言を放ってしまった使用人さんの心の痛みだと思い、今日もやります……っ」
当時の光景を思い返しながら手を動かし、これで書棚は全て終わり。次は机のお掃除ですね。
「……椅子さん、ありがとうございました。貴方のおかげで――きゃっ!?」
いま利用しているのは廃棄予定の椅子で、弱っていたらしく左の脚が突然折れてしまいました。
そのため降りようとしていたあたしはそのままバランスを崩し、真後ろに転倒。五十センチくらいの高さから落ち、床に後頭部を打ち付けました。
「ぃたたたたた……。運よく、怪我はしていないようですが……。頭がくらくらして、目がちかちかします――ぇ……?」
仰向けになったまま、後ろ頭を押さえていた時でした。
頭の中で『パンッ』という、何かが弾けるような音がしたのです。
「……はい。喜んで、させていただきます」
食堂の隅にある床で硬くなった少しのパンとミルクを食べて飲んでいたあたしは、大きなテーブルについているお母様に深く頭を下げます。
やってしまったことは、絶対に戻らない。なのでこの食事は当たり前だし、出来る限りのことをするのも当たり前。むしろこんなあたしを家においてくれて、食べものを与えてくれるのは、本当にありがたいことです。
「お姉ちゃん、私の部屋もやっておいてね。埃がちょっとでも残ってたら、ママと一緒にお仕置きするわよ?」
「……はい、ララ様。畏まりました」
今のあたしは、使用人さんと同等――それ以下の立場だから、二つ下の妹に対しても様付けと敬語は欠かせません。そして何かしら粗相があった場合は、厳しいお仕置きを受けなければならないのです。
「ミーナ。俺はこれから外出し、夜にアンドレ殿を連れて戻ってくる。掃除の後は、歓迎の準備をしておくようにな」
「お父様、承知致しました。お任せください」
アンドレ・ソール様はお父様のご友人で、甘いものがお好きな方。ソール様のために、クッキーを焼かせていただきましょう。
「ミーナ。時間内に準備が終わらなくても、お仕置きよ?」
「間に合わなかったから、こないだみたいにお尻をペンペンするからね。お姉ちゃん」
「……はい、しっかり致します。お母様、ララ様、お父様」
あたしは残っていたパンとミルクを口に押し込み、深くお辞儀をして出発。急いで物置――今の自室に戻って掃除用具を手に取り、まずは二階の端から。お母様専用の書斎の清掃に取り掛かりました。
「お母様。せめてもの償いで、一生懸命させていただきます……」
家の評判などなど多くのものを汚してしまった事実をお詫びし、室内に4つある書棚の上から雑巾で拭いていきます。
お掃除は、上から下へ。今日もあたしは、心を込めてお掃除します。
「椅子さん、載ってしまい申し訳ありません。そのままだと届かないので、お許しくださいね」
物置から持ってきた椅子に謝罪しながら丁寧に拭き、汚れたら降りてバケツで洗って、椅子に載ってゴシゴシ。丁寧に丁寧に、綺麗にしていきます。
「………………よっし、三つ目が終わりました。あと一つ、ですね」
椅子を運んで最後の書棚の前に置き、載らせてもらってお掃除。さっきまでと同じように雑巾で拭き、汚れたら洗って、服の中に手を突っ込んで温めて、また拭きます。
今は冬で、使っているのは氷入りの冷たいお水。そのため手がかじかんで、あったかくしないと思うように動いてくれなくなっちゃうんですよね。
「…………氷水は、お母様からの罰……。この痛みは暴言を放ってしまった使用人さんの心の痛みだと思い、今日もやります……っ」
当時の光景を思い返しながら手を動かし、これで書棚は全て終わり。次は机のお掃除ですね。
「……椅子さん、ありがとうございました。貴方のおかげで――きゃっ!?」
いま利用しているのは廃棄予定の椅子で、弱っていたらしく左の脚が突然折れてしまいました。
そのため降りようとしていたあたしはそのままバランスを崩し、真後ろに転倒。五十センチくらいの高さから落ち、床に後頭部を打ち付けました。
「ぃたたたたた……。運よく、怪我はしていないようですが……。頭がくらくらして、目がちかちかします――ぇ……?」
仰向けになったまま、後ろ頭を押さえていた時でした。
頭の中で『パンッ』という、何かが弾けるような音がしたのです。
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