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7 本のあやかし(9)

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「??? クイーンちゃん。ボクにこんな物を渡して、どうするんだい……?」
「あやかしさんのオリジナルの作品を、作って欲しい。このようなお願いをするために、レオンさんに頼んでお渡ししました」

 まずは簡単にお伝えして、続けます。

「本当にどのシーンも面白かったのですが、元々あるお話をもとにしたことで素晴らしさを出し切れていませんでした。だから最初からあやかしさんが考えた内容にして、あやかしさんが紡ぐ100%オリジナルの物語を読んでみたいのですよ」
「……ああ、そっか。そういう、ことなんだね」
「誰かのお話を変える…………枠にはまった状態ではなく、自由にのびのびと描く世界を見てみたい。どうか私に、あやかしさんだけの世界を読ませてくれませんか?」

 ご説明を終えた私は、首を傾けてあやかしさんを見つめる。
 読書が大好きな人間としての、お願い。
 聞いて、くれるかな?

「………………はぁ、仕方がないな。引き受けてあげるよ」

 あやかしさんは、やれやれ、といった感じで息をはきました。
 でも。
 そのお顔には隠しごとがあって、笑顔を一生懸命こらえてくれています。

「あのクイーンちゃんが、そこまで評価をしたんだ。それを断るのは野暮というものだよね」
「ふふふ、あやかし殿。途中で、笑みがこぼれてしまっていましたよ?」
「っ! うるさいよ司書君っ。とっ、とにかくクイーンちゃんっ。そのお願いは引き受けたからねっ!」

 口元に手を当てていたレオンさんをギロっとかわいく睨んで、あやかしさんは照れ隠しをしながら本を両手で抱えてくれた。

「ボクはこれから家に帰って、全力で物語を考えて全力で書く。完成したら図書館に届けに行くから、楽しみにしてるんだよっ」
「はい。楽しみに、しています」
「絶対に、クイーンちゃんがビックリするようなのを作ってくるからね! ホントのホントに、楽しみにしてるんだぞっっ!」

 まだ照れが残ってるみたいで、あやかしさんは早口で喋って指をパチンと鳴らす。
 そうしたらあやかしさんの体は七色の光に包まれて、あやかしさんはパッと消えてしまいました――お家に帰っていきました。

「ふふ。クイーン、ありがとうございました。貴方のおかげで一冊の本と、一人のあやかし殿が救われました」
「いえ。私も本を戻せてよかったですし、素敵な作家さんと出会えて嬉しいです」

 丁寧にお辞儀をしてくれたレオンさんに首を振って、私もお辞儀をお返しする。
 今日のお手伝いでも、自分にとって幸せなことがあった。だから私も、お礼をするのです。

「こちらこそ、ありがとうございました。もちろん次があった時も喜んでお手伝いしますから、遠慮なく仰ってくださいね」
「いつもいつも、感謝致します。それでは図書館に戻りましょうか」
「はいっ」

『猫の大冒険』に関するイタズラも、あやかしさんの説得も終わった。
 もう心配することはないので、おしまいっ。
 私達のお仕事は、今回も無事に終わったのでした!


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