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第1話 違和感 アニエス視点(3)
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「…………え? クリストフ様……?」
おもわず耳を押さえたくなるほどの大きな声。そんな声に反応して振り返ると、怖い顔をしたクリストフ様が立っていました。
……駄目……? 絶対に……?
「え、ええと……。わたしは、髪を切っては、いけないの、ですか……? な、なぜなのでしょう……?」
わたしがカットしてはいけない理由が、なにも思い付きません。わたしの髪の毛のことで、なぜここまでの反応をなさるのでしょうか……?
「…………………………」
「く、クリストフ、さま……?」
「…………………………え? あ、ああごめんっ。ビックリさせてしまったね。急に大きな声を出して本当にごめんよ」
わたしが幻覚を見てしまっていたと、感じるほどでした……。怖かった表情が一瞬にして、明るくなりました。
「これはね。……………………」
「???」
「………………今夜渡すことになるのだから、まあ今明かしてしまっても良いかな。実を言うと君にネックレスをプレゼントしようとしていてね、そのネックレスはその髪形――髪形を含めた、今の雰囲気に一番合うようにオーダーしているんだよ。それが狂ってピッタリではなくなってしまうから、つい反応してしまったんだ」
クリストフ様があのようになった理由。それは、プレゼントが理想的ではなくなってしまうから、だそうです。
「ついでに言うとそのネックレスはお守りとなるもので、ずっと肌身離さずつけておいてもらいたくってね。常に100パーセントの輝きを放てるのが一番だと思って、いつまでもその髪形で居て欲しいんだよ」
「い、いつまでも、ですか……?」
「そう、いつまでも。エリス、お願いを聞いてもらいたく思います」
「ふむ、クリストフがそこまで真剣ならば私も応援をしようじゃないか。どうか我が儘を聞いてやって欲しい」
「わたくしも背中を押したいと思うわ。ねえ、駄目かしら……?」
「しょ、承知いたしました。で、では、カットは止めておきますね」
一昨日に続いて3人に笑顔を返し――心の中では、一昨日に続いて眉を顰めました。
((ネックレスが完璧に似合わなくなってしまうから、変えないで欲しい。……確かに、髪形次第で似合わなくなる場合はあります。なので動機はどうにか納得することはできますが、あの反応はおかしいですよね……))
『駄目だ!! 絶対に許さないぞ!!』。その台詞と、あの表情。
それらには、鬼気迫るものがありました。
((……何度振り返っても、その理由でここまで取り乱すとは思えません。明らかに不自然、不気味ですし――))
「よかった。ありがとう、エリス」
「よかったな、クリストフ。ありがとうエリスくん」
「よかったわね、クリストフ。ありがとう、エリスさん」
――あの日からお義父様とお義母様、だけではなく使用人の方々までもが、わたしを『エリス』と呼ぶようになりました。
((……おかしいこと、ばかりです……))
あれこれも……。一体、なんなのでしょうか……?
おもわず耳を押さえたくなるほどの大きな声。そんな声に反応して振り返ると、怖い顔をしたクリストフ様が立っていました。
……駄目……? 絶対に……?
「え、ええと……。わたしは、髪を切っては、いけないの、ですか……? な、なぜなのでしょう……?」
わたしがカットしてはいけない理由が、なにも思い付きません。わたしの髪の毛のことで、なぜここまでの反応をなさるのでしょうか……?
「…………………………」
「く、クリストフ、さま……?」
「…………………………え? あ、ああごめんっ。ビックリさせてしまったね。急に大きな声を出して本当にごめんよ」
わたしが幻覚を見てしまっていたと、感じるほどでした……。怖かった表情が一瞬にして、明るくなりました。
「これはね。……………………」
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「………………今夜渡すことになるのだから、まあ今明かしてしまっても良いかな。実を言うと君にネックレスをプレゼントしようとしていてね、そのネックレスはその髪形――髪形を含めた、今の雰囲気に一番合うようにオーダーしているんだよ。それが狂ってピッタリではなくなってしまうから、つい反応してしまったんだ」
クリストフ様があのようになった理由。それは、プレゼントが理想的ではなくなってしまうから、だそうです。
「ついでに言うとそのネックレスはお守りとなるもので、ずっと肌身離さずつけておいてもらいたくってね。常に100パーセントの輝きを放てるのが一番だと思って、いつまでもその髪形で居て欲しいんだよ」
「い、いつまでも、ですか……?」
「そう、いつまでも。エリス、お願いを聞いてもらいたく思います」
「ふむ、クリストフがそこまで真剣ならば私も応援をしようじゃないか。どうか我が儘を聞いてやって欲しい」
「わたくしも背中を押したいと思うわ。ねえ、駄目かしら……?」
「しょ、承知いたしました。で、では、カットは止めておきますね」
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((ネックレスが完璧に似合わなくなってしまうから、変えないで欲しい。……確かに、髪形次第で似合わなくなる場合はあります。なので動機はどうにか納得することはできますが、あの反応はおかしいですよね……))
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それらには、鬼気迫るものがありました。
((……何度振り返っても、その理由でここまで取り乱すとは思えません。明らかに不自然、不気味ですし――))
「よかった。ありがとう、エリス」
「よかったな、クリストフ。ありがとうエリスくん」
「よかったわね、クリストフ。ありがとう、エリスさん」
――あの日からお義父様とお義母様、だけではなく使用人の方々までもが、わたしを『エリス』と呼ぶようになりました。
((……おかしいこと、ばかりです……))
あれこれも……。一体、なんなのでしょうか……?
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