その愛は本当にわたしに向けられているのですか?

柚木ゆず

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第21話 アニエスをエリスにするために クリストフ視点(2)

「クリストフ様!?」

 部屋の扉を勢いよく開け放つと、あに――エリスモドキ・・・・・・が驚きながら椅子から立ち上がった。
 その顔もその声も、一昨日までは愛しかった。今はただただ忌まわしい。
 早く、本物にしないといけないな。

「お戻りになられたのですね――…………。その手錠や黒い布……。何に使われるおつもりですか……?」
「決まっているだろ。偽物を本物にするために、使うのさ」

 手錠はその手足に嵌め、黒い布は両目を覆い、耳栓は両耳にはめ込む。その後しばらく放置――餌だけは最低限の量を定期的に与えてやり、放っておく。
 そうやって精神をある程度破壊して、仕上げに愛しい人の情報をたっぷりと注ぎ、エリスの自我を形成させる。
 今日は新たな一歩を踏み出す、素晴らしい日。
 その記念に、丁寧に教えてやった。

「……自分の理想のために、精神を壊して塗り替える……。貴方は――貴方がたは全員、狂っています。人の形をした悪魔です……」
「失礼な女だな。その方法は今日の昼に思い付いた、つまりこれまで頭になかったんだ。婚約後すぐに実行しなかったんだから、むしろ逆。僕達は優しいんだよ」

 そんな優しい人に、こんな行動をさせたお前が悪い。
 自業自得だ。

「なにもかも自分の言動のせいだ。怒るなら自分に対して怒るんだな」
「……………………」
「エリスモドキとこれ以上余計な話をするつもりはない。さあ、幕開けといこうか――ふん、逃げようとしたって無駄だぞ。どこにも逃げ場所はないんだからな」

 僕達をじっと見つめている――凝視して隙を探そうとしているモドキを眺め、たっぷりと嘲りながら鼻で笑う。
 3対1だし、階下には大勢の使用人どもが居る。もしも僕達を突破したとしても、下で簡単に捕まってしまう。
 その状態では窓から飛び降りて逃げられもしない。
 もうとっくに詰んでいるんだ。

「その『皮』を傷付けたくはない。余計な、無駄な真似をするなよ?」
「……………で…………ませんよ」
「あ? なにか言ったか?」
「言いましたよ。無駄な真似ではありません。そう言いました」
「はっ、しょうもない。くだらない負け惜しみをするな。時間の無駄だ」
「負け惜しみでも、時間も無駄でもありませんよ。貴方がたは勝ってはおらず、勝ったつもりでいるだけです」

 …………。
 なんだと?

「…………どういう、ことだ……? なにを企んでいるのだ……?」
「あなた……。なにを考えているの……」
「おいモドキ! どういうことなんだよ! なんなん――」
「わたしは企んでるのはっ、こういうことですよっ!!」

 !!
 父さんと母さんと一緒に、苛立ちながら叫んでいる、その時だった。
 モドキの右手が、不意に高々とあがり――


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