皆さん、覚悟してくださいね?

柚木ゆず

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第2話 記憶が蘇って リュシエンヌ視点(3)

「……どうやったら、あの3人にお礼をできるのかしらね……?」

 靴を脱いでベッドの上に腰を下ろし、正座と腕組みをして思案を始める。
 ちなみにこれは、あたしにとって最も頭が働く体勢。小さな頃から何かを考える時は、いつもこの体勢なのだ。

「相手は伯爵家が3で、こっちは男爵家。たとえ今の両親に助けを求めても動けるだけの力もお金もないし、縦のつながりも横のつながりも大してないから、この状況で助け舟を出してくれる人もいない。おまけに伯爵家3は、どうしようもない親バカの集まり――その気になれば、3家の当主が娘のために力を振るってくる。『わたし』が泣いて絶望するのも無理はないわ」

 状況は最悪で、その気持ちはよく分かる。
 もっとも――。だからといって、諦めるつもりは微塵もないけれど。

「……この規模になると……。同級生や先輩の、格上の生徒に泣きついても意味はないわね」

 この国の貴族も同じ『人間』なんだけど、日本人――地球人とは多々異なる点がある。その中でも顕著なのは、善意での行動は皆無、だということ。
 生粋の貴族は必ず『損得勘定』で動くから、少しでも自分達にダメージが入りそうなら見て見ぬふりをする。それは生徒だけではなく教師も同じで、学院内で援軍を用意することは不可能。

「それと、この国の治安機関も頼れない」

 治安機関、この世界での警察にあたる組織。表向きは警察と似たようなものなのだけど、とにかく癒着がひどい。
 伯爵家レベルから上は治安機関に『息のかかった人間』を複数人忍び込ませていて、困ったときは自分たちの都合の良いように動かせるようになっている――罪のもみ消しなんて朝飯前になってしまっているのだ。

「となるとやっぱり、完全に自分だけで――あたしひとりで3人にお礼をしないといけない。しかも、家に悪影響が及ばないような形で」

 相手にお返しをして、ギャフンと言わせるだけではダメ。その後3人が、一切反撃してこないようにしないといけない。
 これまで『わたし』を大事に育ててくれた、もうひとりのお父さんとお母さんが傷つかないように。

「後半が、厄介よね。アイツらは絶対に反省しないから、要するにあたしと3人の立場を完全に逆転させないといけない。……ふふふふふふ、ああ大変。どうやったらそんな風にできるのかしらねぇ……?」

『警官への道は険しかったけど、我ながらあたしは気が強い女の子だった。目の前に試練が立ちはだかるたびに燃えて、泥臭く乗り越えていって。大学を卒業して無事、憧れの警察官になれたのだった』。
 あたしは目の前に現れた問題が大きければ大きいほど、やる気が出てくるタイプ。
 なので――

「お、お嬢様……? や、やはり、あたまの検査をされた方がよいのではないでしょうか……?」
「平気よカーナ。笑っているのは頭を打った影響じゃないの。こういう性格なのよ、元々は」

 ――室内にいる侍女でありこの世界での昔から友人に不安がられながら、思考を巡らせていく。

((…………3人にお礼をしながら屈服させることができたら……3人の『アレ』を用意することができたら、心配事はなにもなくなる上に、最後にさらに面白いことも起こせるのよね。あたしだけで、パトリシアとマチルドとヴァランティーヌを屈服させられる方法……))

 金も威光もパイプもない。使えるのはこの身体だけ。
 そんな状況で、そんな風にするには……。

((するため、には……))

 …………。
 …………。
 ………………。
 改めて自分自身に関する詳細、相手3人に関する詳細を頭の中に並べる。

((………………………………))

 脳内にイメージした机の上に役立ちそうなものを並べ、ひとつずつチェックしていく。そうして『役立ちそうなもの』の中から『そう』ではなく本当に『役立つもの』を選別し、ソレらに更に注目をする。

((………………………………))

 単体で使えそうなら、そのまま。単体で使えなさそうなら何かと組み合わせて使えないかを考え、よい組み合わせが見つかったら確保し、組み合わせも難しそうなら思い切って捨てる。

((………………………………))

 前世で、いつも使用していた方法で。壁を乗り越える際に使用していた方法で、可能性を探していき――

「………………あった。みつけた」

 ――思案を始めて、およそ9時間後。深夜の午前2時に、名案が出来上がったのだった。

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