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第6話 2度目の決行 リュシエンヌ視点(5)
「この書類にサインをしなさい」
まず大きな命令。これは、ヴァランティーヌに書かせたものと同じ。
今回の件に関すること――。『今後この件の復讐をすることはありません』、『間接的なもの含め、ミラレイティア男爵家に一切危害を加えません』、『万が一この約束を反故したら死んで償います』といった内容が書かれているもの。
「アンタみたいに人間と口約束で終わらせたら、何があるか分かったもんじゃない。ヴァランティーヌもサインしていて、アンタにもやってもらうわ」
「そ、そうだったのですね……。内容を詳しく拝見しても、構いませ」
「あたしは今『サインしろ』と言った。『見ろ』とは言っていないわよ?」
この書類には『お礼その2』に関することが含まれていて、それを知らない方がよりお礼が盛り上がる。よりショック衝撃を与えられるようになるから、今回もまた彼我の立場を利用して確認させなかった。
「たびたび申し訳ございません! させていただきますっ!」
サインと拇印。しっかりと記してしっかり捺して、マチルドに関する武器もできあがった。
これで今のお父さんやお母さんが、ハチユイド家に何かされる心配はなくなった。
「アンタがあたしの機嫌を損ねない限り、証拠も書類も公にはしないわ。ということは……分かっているでしょうね?」
「理解しておりますっ! 逆らいませんしっ、金輪際あのような真似は致しません!」
「ええ、そうしなさい。じゃあ次、最後の命令をするわね」
その内容はヴァランティーヌの時と同じく『上手くパトリシア誘導して、あたしに近づけないようにしろ』と、『3日後の5時限目の休み時間にこの場に誘い出せ』。
できるなら明日行いたいけど、明日明後日は土曜日曜で授業がない。誰かに目撃されてしまう危険性があるため、決行は3日後になる。
「パトリシアへのお礼の準備もあって、忙しいの。余計な時間を取られないように、ちゃんとコントロールするように」
「はいっ! しっかりと遠ざけますし、誘導致しますっ」
「良い返事ね。他には――今日は特にないから、解散しましょうか」
「そうでございますねっ! 失礼致しますつ! まことにありがとうございましたっ!」
どうせそんなこと少しも思ってもないくせに。内心ではあたしをボロカスに言って、何回か殺してるくせに。
目の奥に、かつて見たことのある男と――犯罪者と同じ『理不尽な怒りの炎』を宿したマチルドは丁寧にお辞儀をして去り、あたしも教室に戻ることにした。
「……マチルドも、ヴァランティーヌと同じ目をしてたわね。はぁ。どうしようもない連中ね」
今回も呆れの息を吐きながらその場を去り、6時限目の授業と帰りのHRを終えて、宿舎に戻る。すると――
「ミラレイティさん、お帰りなさい。お荷物が届いていますよ」
「……わたしに、ですか……? なにかしら……?」
――所謂寮母さんが、縦横20センチくらいの箱を差し出してきたのだった。
まず大きな命令。これは、ヴァランティーヌに書かせたものと同じ。
今回の件に関すること――。『今後この件の復讐をすることはありません』、『間接的なもの含め、ミラレイティア男爵家に一切危害を加えません』、『万が一この約束を反故したら死んで償います』といった内容が書かれているもの。
「アンタみたいに人間と口約束で終わらせたら、何があるか分かったもんじゃない。ヴァランティーヌもサインしていて、アンタにもやってもらうわ」
「そ、そうだったのですね……。内容を詳しく拝見しても、構いませ」
「あたしは今『サインしろ』と言った。『見ろ』とは言っていないわよ?」
この書類には『お礼その2』に関することが含まれていて、それを知らない方がよりお礼が盛り上がる。よりショック衝撃を与えられるようになるから、今回もまた彼我の立場を利用して確認させなかった。
「たびたび申し訳ございません! させていただきますっ!」
サインと拇印。しっかりと記してしっかり捺して、マチルドに関する武器もできあがった。
これで今のお父さんやお母さんが、ハチユイド家に何かされる心配はなくなった。
「アンタがあたしの機嫌を損ねない限り、証拠も書類も公にはしないわ。ということは……分かっているでしょうね?」
「理解しておりますっ! 逆らいませんしっ、金輪際あのような真似は致しません!」
「ええ、そうしなさい。じゃあ次、最後の命令をするわね」
その内容はヴァランティーヌの時と同じく『上手くパトリシア誘導して、あたしに近づけないようにしろ』と、『3日後の5時限目の休み時間にこの場に誘い出せ』。
できるなら明日行いたいけど、明日明後日は土曜日曜で授業がない。誰かに目撃されてしまう危険性があるため、決行は3日後になる。
「パトリシアへのお礼の準備もあって、忙しいの。余計な時間を取られないように、ちゃんとコントロールするように」
「はいっ! しっかりと遠ざけますし、誘導致しますっ」
「良い返事ね。他には――今日は特にないから、解散しましょうか」
「そうでございますねっ! 失礼致しますつ! まことにありがとうございましたっ!」
どうせそんなこと少しも思ってもないくせに。内心ではあたしをボロカスに言って、何回か殺してるくせに。
目の奥に、かつて見たことのある男と――犯罪者と同じ『理不尽な怒りの炎』を宿したマチルドは丁寧にお辞儀をして去り、あたしも教室に戻ることにした。
「……マチルドも、ヴァランティーヌと同じ目をしてたわね。はぁ。どうしようもない連中ね」
今回も呆れの息を吐きながらその場を去り、6時限目の授業と帰りのHRを終えて、宿舎に戻る。すると――
「ミラレイティさん、お帰りなさい。お荷物が届いていますよ」
「……わたしに、ですか……? なにかしら……?」
――所謂寮母さんが、縦横20センチくらいの箱を差し出してきたのだった。
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