前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず

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プロローグ エレーヌ視点

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「エレーヌ……。少し、休んだ方がいいんじゃないか……?」
「そうよ。紅茶でも飲んで、一休みしましょ」
「お父様お母様、ありがとうございます。そちらは、お気持ちだけいただいておきます」

 エリュエール伯爵邸内にある、一室。ダンスレッスンを行っているとお二人がやって来て、私は迷わず首を左右に振りました。

「学院を卒業してから、今日で4日目。残り3日しかありませんので、休んでいる暇などございません」

 学院を卒業してから7日目。それは、私――私達5人にとって、とても大事な日。なぜならその日は、5人の候補者の中から婚約者が選ばれる日なのですから。


 メギデイズ筆頭侯爵家の嫡男、アルノー様。


 それが、私――私達がお慕いしている御方。
 私がこの方に好意を抱き始めたのは、3年前――私が新入生として入学し、アルノー様が2回生だった頃でした。

「おい、そこのお前」
「えっ!? 私、でしょうか……!?」
「ああそうだ、お前だよ。オレはお前を気に入った。オレの婚約者候補になれ」

 当時すでに生徒会長をされていたアルノー様は、ステージ上で偶然私を発見。入学式が終わるや、すぐいらっしゃりました。

「こ、婚約者候補、ですか……?」
「オレは名実ともに、メギデイズ家史上最良の男。最高の男の隣には、最高の女が居るべきだからな。オレ自らが選りすぐった5人を競わせ、そのトップと婚約および結婚をすることに決めたんだ」
「そ、そうなのですね……」
「そこで現在その候補者を探していて、お前に目が留まった。……オレに選抜されるのは、とても名誉なことなんだぞ? 当然頷くよな?」

 このようなことを平然と仰る方は、これまでの人生で初めてでした。ですので酷く驚いたのですが――同時に私は、そんなアルノー様から目を離せなくなっていました。

((こんなにも、自信がおありだなんて……。素敵……!))

 圧倒的な存在感、圧倒的なカリスマ性。それらに私は――私達5人はあっという間に惹かれ、大喜びで婚約者候補とさせていただいたのです。

「あの日から今日まで、3年間。その日のためにダンス、ピアノ、語学、お料理、お裁縫などなど、私は自分を磨き続けてきましたので。ここで速度を緩めることはできません。ライバルの皆様は手強い方ばかりですし、むしろもっと速めなければなりません」
「それは、そうだが……。顔色が、かなり悪いぞ……?」
「もう、4日も殆ど眠っていないのでしょう? ラストスパートは確かに大切だけれど、エレーヌ……。身体を壊してしまうわよ……」
「大事な日が終わればちゃんと休みますし、身体を壊してしまえば選んでいただけなくなってしまいますので。だいじょうぶで――ぁ、れ……?」

 突然視界がぐにゃりと歪んで、独りでに真後ろへと身体が傾いていってしまいます。
 ですので転倒を防ぐために、足を踏ん張ろうとしますが――できません。手足にまったく力が入らず、私はそのまま倒れてしまい――

「「エレーヌ!!」」

 ――わたくし・・・・は後頭部を激しく打ち付け、そのまま意識を失ってしまったのでした。



 …………あれ? わた、くし?
 どうして今、私はわたくしって…………?

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