前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず

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第6話 エレーヌが出発した日~メギテイズ侯爵邸では~ 俯瞰視点

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「チッ。チッ……っ。チッ……! チッ……っ!」

 エレーヌが両親や使用人たちに見送られ、笑顔で隣国レヴェンヌへと発ってから十数時間後のことでした。友人が主催するパーティーに参加していたアルノーは、帰路を進む車内で舌打ちを繰り返していました。

「っっ、まったく……っ。アイツらのせいで、恥をかいてしまったじゃないか……‼」

 彼の機嫌が非常に悪い理由は、候補者4人の仮病突然の腹痛によって最終テストが明日にズレてしまったからです。
 アルノーは友人に対して『俺は非常に優れた女たちを競わせ、そこから選べる立場にあるんだぞ。どうだ? すごいだろう?』『次に会う時は、選りすぐりの婚約者を連れてくるから見せてやろう』『羨ましいか? 羨ましいだろう? はっはっはっ、楽しみにしておけよっ!』などなど、沢山の自慢をしていました。その場への同行を、複数人の前で宣言していました。
 しかしながら決まっていないため連れてくることができず、

「? アルノー、お前ひとりなのか……? 婚約者は、どうしたんだ……?」
「?? 一昨日、でしたっけ。すでに、決まっているはずですよね……? なぜ、本日はおひとりなのですか……?」
「………………………。……………………。………………………」
「「アルノー? 前に言っていた話とちが――」」
「うっ、うるさいぞお前たち‼ しょっ、諸事情がっ、発生したんだよ‼ 少々予定が狂っているだけだ‼」 

 なんとも居心地の悪い時間を、過ごす羽目になっていたのです。

「くそっ、くそが……!! アイツらのせいで……!! くそっ、くそっっ! チッ! チッッ!!」
「あ、アルノー様。こちらでもお飲みになら――」
「うるさいお前は黙っていろっつ!!  チッ。チッ……っ。チッ……! チッ……っっ!」

 気遣って紅茶を差し出していた従者を怒鳴り、足を組んで舌打ちを繰り返します。そうして品のない『チッ』が121回発生した頃、ようやくアルノーの怒りが収まりました。

「………………まあいい。不慮の事故なのだから、今回は特別に我慢してやろう。…………それに、そっちにはギリギリ間に合うのだからな」

『一人でも多くの人間に、自慢をしたい』――。『見せつけてやりたい』――。
 そんな理由で明日(あす)の夜メギテイズ侯爵邸にて、大々的に婚約を記念したパーティーを開く予定となっていました。

「今日の十数倍以上もの前で、大恥をかくよりはマシか」

 アルノーは独りごちて荒ぶっていた心を落ち着かせ、先程従者が差し出そうとしていた紅茶を飲んで呼吸を整えます。そうしてどうにかリラックスを行い、比較的穏やかな状態でお屋敷に戻ったのですが――

「っ!? なんだとっ!? なんだって!?」

 ――せっかく戻っていた心の平穏は、あっという間に消え去ってしまうことになります。
 すっかり落ち着いていたアルノーの両目が激しく見開かれ、全身は激しく震えてしまっている理由。それは――

「父上、ただいま戻った。……ん? 父上、顔色が悪いぞ。どうしたんだ?」
「あ、ああ、おかえり、アルノー……。…………あの、な……。あのな…………」
「??? なんなんだ、父上?」
「………………コレット、イザベル、エステル、ゾエ。それぞれの父親が――各家の当主が、やって来てな……。明日の最終試験には参加しない、候補者を辞退すると言ったのだよ……」

 父モリスから不意に、そんなことを聞かされたからでした。

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