上 下
16 / 31

第7話 始まる終わり

しおりを挟む
「百合っ。百合っ。そんなところで何をしているのっ? 朝ご飯が出来ているわよっ?」
「………………え? あ、あれ……? ママ……?」

 百合の意識が覚醒すると、傍にいたのは母親。呆れ顔で身体を揺すられ、自身はベッドの縁に突っ伏していました。

「どっ、どうしてここに!? どうやってわたしの部屋に入ってきたの!?」
「どうやってって……。扉についてるノブを回してに決まっているじゃないの。何度呼んでも返事がなかったから、様子を見に来たのよ」
「え……!? 入れた……!? さっきはどうやっても出られなかったのに――っっ!! そうだっ!! あの2人はっっ!? どうなったのっ!? ママっ、燕尾服を着た男と黒のドレスを着た女はどこにいったの!?」
「燕尾服の男と、ドレスの女……? そんな人はいなかったわよ……?」

 エリスと蓮はすでに転移済みで、その時までは人払いの結界がありました。そのため百合の母親・翠(みどり)は首を左右に振って、くすりと笑いました。

「どうやら、まだ寝ぼけてるみたいね。一体どんな夢を見ていたの?」
「ちがっ、夢じゃないのっ!! 起きて暫くしたら床に星が――五芒星? っていうものが浮かんで出てきたの!! それで……。それで……っ。…………あれ? そのあと、何が起きたんだったっけ……?」

 体内にたっぷりと、他者の負を注がれたショック。ソレによって記憶の混乱と希薄が発生し、あの出来事の大半が抜け落ちてしまっていました。

「あ、あれ……? あれ……? 現実、じゃない? ゆめ……? さっきのは全部が、夢だったの……?」
「そうに決まっているでしょ。きっと、昨日のドラマか何かの影響ね」

 翠はもう一度クスっと笑い、踵を返して部屋を出ていきます。

「早くご飯を食べないと、朝練に間に合わなくなるわよ? 早く着替えて降りてらっしゃい」
「う、うん、そうする。すぐ、行く」

 抜け落ちているが故に百合自身もあっさり信じ、いそいそと支度。パジャマを脱ぎ、なぜか普段よりも多く汗を掻いていたため下着を換え、制服を着替えて鞄を取ります。
 そして――

「もし、今日も橋本さんが登校したら……。ふふふふふ……」

 ――起床直後に独りごちていた、『更なるお仕置き』。それに必要なものを鞄に入れ、上機嫌で食卓へと降りていったのでした。

 これからその身に起きる事など、知る由もなく――。

しおりを挟む

処理中です...