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後日譚 エリスと蓮。二人の日常と、とある感謝(2)

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「あら、ここは……。なるほど。そういう事なのね」

 気が付くとそこは、夜の帳の下。静寂に包まれた夜道で立っていたエリスは、上下および四方を見渡し、ひらりとやって来た人型の和紙――式神の姿を視認するや、小さく頷きました。
 そして顎の位置が戻った、僅か2秒後のこと。彼女の目前に五芒星が浮かび上がり、発光と共に燕尾服姿の美青年――安倍蓮が現れました。

「お嬢様。ただいま参上いたしました」

 先の式神は、主人を探すためもの。
 もしも姿を見失ってしまった場合は、即座に駆け付け護れるように。蓮は常時、エリスに対して力を発動させているのです。

「蓮、ありがとう。貴男のおかげで、いつも安心して過ごせるわ」
「恐縮でございます。……お嬢様。自分は確かに自室に戻り、瞼を閉じました。しかしながら目覚めるとそこは夜の道で、お嬢様がいらっしゃる。夢を、共有しています」
「ええ、そう。だとしたら、答えは一つしかないわ。あたし達は、呼ばれたようね」

 見覚えのある建物の・・・・・・・・の前で、蓮は首肯。エリスの言葉に同意を示し、2人は揃って身体の向きを変更します。
 エリスは5時の方角に向き直り、蓮はエリスの左隣に位置を変えたのち同様の方向へと向き直りました。

「蓮。今の貴男は、懐中時計を持っているわよね? 現時刻を教えて頂戴」
「畏まりました。現在は、午前2時8分でございます」
「2の、8。だとしたら、『その時』はあと3~4分後ね」

 エリスは自身の記憶を照らし合わせ、夜空を眺め時間を潰します。
 権謀術数渦巻き、跳梁跋扈が茶飯事となってしまった地上。そんな場所とは相反する表情を見せる、雲一つない澄んだ空。そこに点在する数多の星々を見上げていると、やがて、新たな登場人物が現れました。
 エリスと蓮が身体を向けていた方向――5時の方向からやって来たのは、全てが真っ黒な、ラケットとテニスボールを携えたショートカットの異形。ソレは数週間前に救済した、橋本涼子の負霊でした。

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