催眠探偵術師のミク

柚木ゆず

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4 新しい作戦

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「さてさてー。弓ちゃんと晴瑠ちゃん、どっちが動き出すのかな?」

 予想通り1~3時間目の休み時間には何も起きなくって、今は昼休み。わたしと夢兎ちゃんは物陰に隠れて、体育館の裏でお昼を食べる弓ちゃん&親衛隊さんを監視してます。

(……丘奈さんは、楽しそうに食事をしてる。これから脅迫しようとしてる雰囲気じゃないわ)

 夢卯ちゃんはサンドウィッチを齧りながら、分析をした。
 監視は大事だけど、お昼を食べるのも大事だからねー。売店には手軽に食べられるものを売ってるから、玉子サンドと牛乳を買ってますです。

(もう一人の、犯人。あれは、唯田さんかもね)
(んー、どーかなー? 確かにそー見えるけど、まだ分からないかなぁ)

 催眠探偵術師の鉄則、『決めつけるな』。勝手に判断しちゃうと推理が全部間違っちゃって、自分も被害者さんも大変な目にあっちゃうかもなんだよね。・

(それはそうだけど、見た限りだと唯田さんがかなり怪しいわ。ミクちゃん、大和町さんから連絡はないかな?」
「ん。まだないよ」

 スマホちゃんに、反応はひとつもない。あっちもまだ進展がないんだね。

『ん~っ。今日もご飯は美味しいねーっ』

 大きな動きがないのでタマゴサンドをガブガブしていると、弓ちゃんさんはニッコリ。ニッコニッコ笑顔で親衛隊さんを見回し、両手を高くあげた。

(あれれ? なにをしてるのかな?)
『食べ物に感謝! 食べ物ありがとう!!』
『『『『『食べ物に感謝! 食べ物ありがとう!!』』』』』

 弓ちゃんに続いて親衛隊さん達も手を挙げ、揃って万歳を始めた。
 す、すごい。こんなに食べ物に感謝している人達、見たことないよー。

(……最近脅迫とかあったけど、それ以外では一番の驚きだわ。丘奈さんって、あんな性格だったのね……)
(あや? 夢卯ちゃんは同級生だけど、あまり弓ちゃんを知らないのかな?)
(ウチはクラスが多いから、離れてると関りが意外とないの。丘奈さんとは特に縁がなくて、一番長く話したのが……今年の春で、たまたま二人で新入生の案内係をやった時かな)

 ふえ~、そんなにチャンスがなかったんだ。
 わたしが通ってる学校はクラスも人間もずっと少なくて、知らない人はいないからちょっとビックリだよー。

(その時に2人で3時間くらい一緒にいたんだけど、その時はずっときりっとしてて凛々しかった。今とは別人みたいだったの」
「ほえー。パパから教わった、『人は誰しも意外な一面があるもの。じっくり見ないと分からない生き物だ』だねー」

 見た目だけで決めつけたら、大変なことになっちゃう。
 最悪死んじゃう時もあるから、なにげに要注意なポイントなんだよね。

『特に今日は、特製フライドチキンちゃんが最高! 何度も何度も作ったかいがあったよーっ』
『スパイスの配合で相当悩んでいて、ずっと調理室に籠ってましたもんね。完成してよかったですっ』
『私も右に同じですよ! 本日は素晴らしい日ですね……!!』

『……先週の土曜から、寝る間も惜しんで研究したもんなー……っ。味見をしてくれた皆には、滅茶苦茶感謝してるよ……っ!』
『『『『『私達は、先輩の手料理を食べれて幸せでした! 丘奈先輩、こちらこそ感謝しておりますっ!』』』』

(あそこの人達、とっても楽しそうね。見てたら、あたしも仲間に入りたくなっちゃった)
(だよねっ。わたしも混ざりたくなってて――夢卯ちゃん。扇ちゃんの方で動きがあったみたいだよっ)

 スマホが震えたから見てみると、メッセージアプリに『晴瑠ちゃんがひとりになって、寮に向かい始めた』って届いてた。

(やっぱりあっちだったのねっ。三久ちゃんっ)
(んっ。まずは合流だっ)

 わたし達は残っていたサンドウィッチを口に放り込んで、ダッシュ。スタタタタッと走って、待ち合わせをしてる昇降口に急いだのでしたっ。

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