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第5話(1)
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「…………ん……。あさ……? いまのじかんは…………午前10時半っ!? 朝ご飯の準備をしないとっ!!」
翌朝。時計を確認した私はベッドから飛び降り、パジャマのままで部屋を飛び出しました。
朝一番先に起きて、ミンラ様とアナイスの食事を作るのが私の役目です。こんなにも遅れてしまったら、きっと何度もお尻や背中をぶたれて――
「おはよう、イリス。もう少しでブランチができるよ」
――あれ……? キッチンスペースに行くと、エプロン姿のマティアス君がオムレツを作ってくれていました。
えっと………………あ、そうでした。ここは、お屋敷ではなくてフィルお母様の生家。昨日からマティアス君と過ごすようになっていて、ついついかなりの夜更かしをしてしまって。眠る前に、『ブランチは俺が作るよ』と言ってくれていたのでした。
「寝ぼけて、間違えちゃった。今は2人きり、だったんだよね」
「うん、そうだね。もう、強制的に朝食を作らされることはない。今日から朝は、ゆっくり過ごせる時間になるよ」
マティアス君は慣れた手つきでオムレツをお皿にのせ、テーブルにはパンとサラダとスープとオムレツが並びます。その間に私もお手伝いをさせてもらってカトラリーを用意して、2人揃ってイスに座りました。
「イリス。どうぞ召し上がれ」
「ありがとう、マティアス君。いただきます」
ナイフとフォークを使って、オムレツを――ベーコンとチーズとほうれん草のオムレツを口に運び、ぱくりと食べる。そうしたらふわっとした柔らかさやコクや香ばしさが口内に広がって、おもわず頬が緩んでしまいました。
「おいしい……っ。トマトとタマネギとルッコラのサラダ、これって自家製ドレッシングだよね? こっちのオニオンスープはコクがあって、頬っぺたが落ちちゃいそう」
「気に入ってもらえてよかった。7年間の経験が役に立ったよ」
別れたあとマティアス君は実力を身につけるため騎士団の門をたたき、けれど素性が怪しいからと門前払い。そこで3年間とある酒場で住み込みの仕事をしながら独学で腕を磨き、そのあと魔物に圧されている隣国に渡って独りで魔物退治をしていた――常に『死地』という過酷な状況に身を置いて、実戦感覚を磨いていたそうです。
そしてその際に炊事洗濯掃除や処世術が独りでに身に付き、自然と今のマティアス君になっていたそうです。
「あれらを経験したおかげで、こうしてイリスに食事を振る舞える。人生、どこで何が役に立つか分からないものだね」
マティアス君は爽やかに微笑み、「さあこの話はお仕舞い。冷めるといけないし、食事に集中しよっか」とウィンクをしてくれました。
そう、ですね。
マティアス君はこういう人なので、優しさに甘えて再びパンやオムレツに集中。愛の籠ったお料理を味わい、数年ぶりの終始楽しい朝食が終わりとなりました。
「ご馳走様でした。マティアス君。今日のおやつは私が用意するから、楽しみにしていてね」
「うん、楽しみにしているよ。懐かしの場所で、大切な人と過ごし食べる時間。今から楽しみだよ」
このあとは私達が会っていたあの公園に行って、お喋りをしながらベンチで甘いものを食べる予定になっています。
それは私にとっても、念願の一つだったことですから。いつも以上に、気合を入れちゃいますよ……っ!
「マティス君。これから私が『いいよ』って言うまで、キッチンには立ち入り禁止です。覗いたら、絶対に駄目だよ?」
「了解しました。パティシエールさん、よろしくお願いします」
そうして私はマティアス君の提案で少し休憩を挟んだあと、調理を開始。以前から食べてもらいたかったお菓子を作って、焼きあがったものをバスケットに丁寧に詰めて、できあがり。
今日から移動の際はマティス君が操る馬車なので、身バレ防止の変装をした私達は揃って外へと出て――戸締りをしていたら、予想外の来客がありました。
その人達は、二度と会いたくないと思っていた2人。
ミンラ様と、アナイスでした。
翌朝。時計を確認した私はベッドから飛び降り、パジャマのままで部屋を飛び出しました。
朝一番先に起きて、ミンラ様とアナイスの食事を作るのが私の役目です。こんなにも遅れてしまったら、きっと何度もお尻や背中をぶたれて――
「おはよう、イリス。もう少しでブランチができるよ」
――あれ……? キッチンスペースに行くと、エプロン姿のマティアス君がオムレツを作ってくれていました。
えっと………………あ、そうでした。ここは、お屋敷ではなくてフィルお母様の生家。昨日からマティアス君と過ごすようになっていて、ついついかなりの夜更かしをしてしまって。眠る前に、『ブランチは俺が作るよ』と言ってくれていたのでした。
「寝ぼけて、間違えちゃった。今は2人きり、だったんだよね」
「うん、そうだね。もう、強制的に朝食を作らされることはない。今日から朝は、ゆっくり過ごせる時間になるよ」
マティアス君は慣れた手つきでオムレツをお皿にのせ、テーブルにはパンとサラダとスープとオムレツが並びます。その間に私もお手伝いをさせてもらってカトラリーを用意して、2人揃ってイスに座りました。
「イリス。どうぞ召し上がれ」
「ありがとう、マティアス君。いただきます」
ナイフとフォークを使って、オムレツを――ベーコンとチーズとほうれん草のオムレツを口に運び、ぱくりと食べる。そうしたらふわっとした柔らかさやコクや香ばしさが口内に広がって、おもわず頬が緩んでしまいました。
「おいしい……っ。トマトとタマネギとルッコラのサラダ、これって自家製ドレッシングだよね? こっちのオニオンスープはコクがあって、頬っぺたが落ちちゃいそう」
「気に入ってもらえてよかった。7年間の経験が役に立ったよ」
別れたあとマティアス君は実力を身につけるため騎士団の門をたたき、けれど素性が怪しいからと門前払い。そこで3年間とある酒場で住み込みの仕事をしながら独学で腕を磨き、そのあと魔物に圧されている隣国に渡って独りで魔物退治をしていた――常に『死地』という過酷な状況に身を置いて、実戦感覚を磨いていたそうです。
そしてその際に炊事洗濯掃除や処世術が独りでに身に付き、自然と今のマティアス君になっていたそうです。
「あれらを経験したおかげで、こうしてイリスに食事を振る舞える。人生、どこで何が役に立つか分からないものだね」
マティアス君は爽やかに微笑み、「さあこの話はお仕舞い。冷めるといけないし、食事に集中しよっか」とウィンクをしてくれました。
そう、ですね。
マティアス君はこういう人なので、優しさに甘えて再びパンやオムレツに集中。愛の籠ったお料理を味わい、数年ぶりの終始楽しい朝食が終わりとなりました。
「ご馳走様でした。マティアス君。今日のおやつは私が用意するから、楽しみにしていてね」
「うん、楽しみにしているよ。懐かしの場所で、大切な人と過ごし食べる時間。今から楽しみだよ」
このあとは私達が会っていたあの公園に行って、お喋りをしながらベンチで甘いものを食べる予定になっています。
それは私にとっても、念願の一つだったことですから。いつも以上に、気合を入れちゃいますよ……っ!
「マティス君。これから私が『いいよ』って言うまで、キッチンには立ち入り禁止です。覗いたら、絶対に駄目だよ?」
「了解しました。パティシエールさん、よろしくお願いします」
そうして私はマティアス君の提案で少し休憩を挟んだあと、調理を開始。以前から食べてもらいたかったお菓子を作って、焼きあがったものをバスケットに丁寧に詰めて、できあがり。
今日から移動の際はマティス君が操る馬車なので、身バレ防止の変装をした私達は揃って外へと出て――戸締りをしていたら、予想外の来客がありました。
その人達は、二度と会いたくないと思っていた2人。
ミンラ様と、アナイスでした。
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