継母と異母妹に虐げられていた私を救ってくれたのは、7年ぶりに再会した初恋の人でした

柚木ゆず

文字の大きさ
23 / 56

第7話(2)

しおりを挟む
「わたしの娘――この国の王女エーナが、そなたをいたく気に入っているのだよ。イリス・マーフェルではなく、我が娘を選ぶ気はないかな?」

 陛下は衝撃的な内容をあっさりと仰り、更に平然と続けます。

「君はこの世で唯一、エローの姓を持つ者。世界の英雄だ。そんな『高みへと登った』者には、もっと相応しい相手が必要だと思うのだよ。そうは思わないかな?」
「まったく思いませんね。陛下。俺に誰が相応しいかは、他者が決めることではありませんよ」

 ですが――。陛下のペースでのおしゃべりは、あっという間に終わりを告げます。マティアス君は即座に首を左右に振り、跳ね返してくれました。

「……そなたが彼女を愛しているのは、しかと分かった。しかしだな、よく考えてみて欲しいのだ――」
「熟考する必要はありませんよ。何度考えても、結論は一つですからね」
「まっ、マティアス殿っ! エーナと結婚すればそなたは次期国王となるのだよっっ! 英雄であり国のトップになってみたくはない――」
「俺は彼女、イリスを救える力さえあればよかった。そういうものに興味はありませんよ」
「そっ、そうは言うがなっ! 国王になれば更に世界が変わるのだぞっ!? ここだけの話、世論を上手くコントロールしておけば好きな振る舞いをできて――」
「陛下。それらは、『王』が口にしていい台詞ではありませんよ。国王は、その下に居る存在を想い動かなければなりません。職権乱用は言語道断。そもそも、俺のように帝王学などの心得がなく政治に精通してもいない者がなるべきではありませんよ」
「ま、待て待てマティアス殿! もっとクレバーになるべきだっ! 折角のチャンスを活かし、人生を存分に楽しむべきだと――」
「俺は今、人生を存分に楽しんでいますよ。人の価値観は、それぞれ違います。押し付けは止めていただきたい」

 陛下は必死に口を動かしますが、全てを遮られて拒否されてしまいます。
 ……以前から、いくつか悪い噂は耳にしていましたが……。この方は想像以上に、地位に胡坐をかいていたようです。

「…………あらゆる王族貴族からの結婚にまつわる話そういった話は、帰国したその日に全てお断りした。そちらは陛下も当然ご存じであり諦めたと思っておりましたが、やはり、今回の目的はそのお話だったのですね」

 マティアス君は「はぁ」と呆れの息を吐き、私の手を取りながら立ち上がりました。

「でしたら永遠に回答が変わることはなく、これ以上のやり取りは時間の無駄です。このあとの予定もありますし、帰らせていただきます」
「まっ、待ってくれマティアス殿っ! もうすぐエーナが来るのだよっ! あの子は体調不良で数日間部屋から出ていなかったっ、そなたは一度も姿を見ていないだろうっ!? あの子の顔を見ればその気は変わるっ! せめて一度見てから帰ってくれ!」
「お断り致します。姿を見ても、この心は微塵も揺れませんよ。……失礼致します」
「へ、陛下。失礼致します」

 私も急いで頭を下げ、マティアス君に手を握られて出入り口へと向かいます。陛下は引き続き何かを仰っていますが、「あれは無視していいよ」と言われたのでそのまま進みました。
 そしてここは王の間ですので扉を開ける前に改めて一礼を行い、そのまま退室を――

「マティアス様っ!? どこにいかれますのっ!?」

 ――退室をしようとしていたら、ドレス姿の女性と鉢合わせになりました。
 美しいブロンドを背中の辺りまで伸ばした、気品あふれる美少女。
 この方は陛下の実子、この国の王女・エーナ様です。


しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

処理中です...