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第10話 実は当たっていた予測と、156年間による尾ひれ 俯瞰視点(1)

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「ぎゃあああああああああ……っ!?」
「わっ、ビックリしたぁ。兄ちゃん、急にどうしたの?」
「わ、悪い。恐ろしい夢を見たんだよ」

 泣き虫な女の子を慰めていたら突然ニコニコし始め、まるで別人のようになってしまった――。
 不思議に思い調べてみたら、どうやら霊がとりついているようだった――。
 やがては霊は女の子の精神を完全に呑み込み、不思議な力を使って暴れ出し村が壊滅してしまった――。

 机でうつぶせになって飛び起きた青年は、傍に居た弟に説明をしました。

「な? 怖いだろ?」
「うん、かなり怖かったよ。……ねえ兄ちゃん。その話を小説にしてみたらどう?」

 兄は作家を目指しており、ですが、これまでパッとしてはいませんでした。そこで『思い切ってホラーを書いてみたらどう?』と弟は提案をして、

「そう、だな。そうしてみるか」

 兄は軽い気持ちで同意し、悪夢を基にした小説を書き始めました。

「……夢のまま書くと、周囲の描写が曖昧になるなぁ。よし。舞台はこの村にして、女の子は先週引っ越した近所の子にしよう」

「この霊が女の子にとりつく、明確な理由が欲しいなぁ。…………そうだっ。長年虐げられていたことによって・・・・・・・・・・・・・・・負の感情が溜まり、それに霊が引き寄せられたってことにしよう!」

「そうなるとラストで、この村が壊滅するんだけど…………作り話でも、ここが酷い目に遭うのはいやだな。…………あの女の子も含め、家族全員性格が悪かったからなぁ。虐げたのは村人じゃなくて家族にして、村壊滅は引っ越し後一家壊滅に変更だ」


 そうして書いた話はやがて編集者の目に留まり、本として発表されることになりました。そしてその際に、

「先生。このお話は、どういった経緯で生まれたのですか?」
「え? これは、ですね……。ええっと……。じ、実は実体験なんですよっ」

 少しでも話題になればと、つい嘘を吐いてしまいます。そして――

「……兄ちゃん」
「? どうした?」
「…………兄ちゃん、あの話は実体験って言ったでしょ? その影響で、あの人達が引っ越した家を見に来る人が増えてるらしいよ」
「…………そ、そうなんだ……。………………い、今更嘘とはいえない……。よ、よっし。これは事実だっ! 事実ってことにしようっ!」

 ――それによって以後もこの村が一部の間で話題となり、

「知らなかったわ……。急に越したのは、そんな理由だったのね……」
「ね。……引っ越した先で、一家全滅だなんて……。悪いコトはするもんじゃないわね……」

 村人達にも伝播し、やがて作り話は本物と認識されるようになってしまい――

『家族を虐げると、大きな悲劇が起きる』
『負の感情は霊を引き寄せる』

 やがてこの村『ライグン』では、代々こう語り継がれるようになったのでした。
 そして。
 その百数十年後――。とある公爵家の長男と次男はそれを事実だと思い込んで怯え、とある子爵家の当主もまた、それに怯えることになったのでした――。
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