もしかすると私は、最愛の婚約者に騙されているのかもしれない

柚木ゆず

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第1話(1)

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「ルシィ、出来たよ。どうかな、僕の絵は」

 とある休日の午後。私はグステ家の邸宅の2階で――レオン様のお部屋で絵のモデルをしていて、レオン様は完成した絵を見せてくださいました。
 私達は恋人になった日から、お互いに用事がない日は必ず会うようになりました。そのため今日も2人一緒で、幸せな時間を過ごしています。

「今回は敢えて、水彩画にしてみたんだ。君の目にはどう映ってる?」
「素敵です……っ。線ですとか、色の使い方ですとか。どれもが繊細で、私とは思えないくらいに綺麗です……っ」

 絵はレオン様の趣味の一つで、その腕はプロ級。お世辞ではなくお上手で、自然と拍手をしていました。

「そうかい? それは嬉しいね。好きな人に褒めてもらえるのは、この上ない喜びだよ」
「私も、好きな人に描いて頂けて幸せです。ありがとうございます……っ」

 レオン様を見つめてはにかみ、もう一度完成した絵を眺めます。
 水彩画で、バストアップ。それはとても珍しい組み合わせなため本来は違和感があるはずのですが、そこが気にならない程に上質かつ繊細なタッチ。自分としてはあまり好きではない、毛先の緩いカールクセ。それさえも好意的に思えてしまうくらいの、美しさが宿っていました。

「本当に、綺麗……。私では、ないみたいです……っ」
「いや、これはありのままを表したものだよ。僕がこれまで出会ってきた人の中で、君は一番。ルシィの容姿は・・・・・・・、他の追随を許さないよ」

 レオンさんは優しく頬を撫でてくれて、スゥっと目が細まります。そしてそのまま端整なお顔が、ゆっくりと私の唇へと近づいてきて――

「すっ、すみませんっ! やっぱり、キスはまだできません……っ」

 ――私は慌てて後ろに下がり、頭を下げて謝ります。

 口づけと所謂男女の行為は、駄目。
 それだけは、絶対に駄目。

 頭の中にはそんな思いがあって、恋人になってからまだ一度もした事がありません。
 私はレオン様を大好きなのに、どうして……? そういう行為は結婚してからじゃないといけない、そう思ってる……?
 自分でもその理由は分かりませんが、そうすれば何かを失ってしまう気がします。なので空気を台無しにして申し訳ないのですが、毎回こうしてしまっています。

「幼い頃からそういう事は、結婚してからと決めていまして……。今は……。ごめんなさい……」
「ううん、気にしないで。こちらも承知しているけど、君の顔を見ているとついしたくなってしまったんだ」

 レオン様は微苦笑を浮かべながら首を左右に振ってくださり、そのあと少し俯きます。
 こうして私が拒絶してしまったあとは、必ずそうされるんですよね。いったい、なにをなさっているのでしょうか……?

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