2 / 47
第1話(1)
しおりを挟む
「ルシィ、出来たよ。どうかな、僕の絵は」
とある休日の午後。私はグステ家の邸宅の2階で――レオン様のお部屋で絵のモデルをしていて、レオン様は完成した絵を見せてくださいました。
私達は恋人になった日から、お互いに用事がない日は必ず会うようになりました。そのため今日も2人一緒で、幸せな時間を過ごしています。
「今回は敢えて、水彩画にしてみたんだ。君の目にはどう映ってる?」
「素敵です……っ。線ですとか、色の使い方ですとか。どれもが繊細で、私とは思えないくらいに綺麗です……っ」
絵はレオン様の趣味の一つで、その腕はプロ級。お世辞ではなくお上手で、自然と拍手をしていました。
「そうかい? それは嬉しいね。好きな人に褒めてもらえるのは、この上ない喜びだよ」
「私も、好きな人に描いて頂けて幸せです。ありがとうございます……っ」
レオン様を見つめてはにかみ、もう一度完成した絵を眺めます。
水彩画で、バストアップ。それはとても珍しい組み合わせなため本来は違和感があるはずのですが、そこが気にならない程に上質かつ繊細なタッチ。自分としてはあまり好きではない、毛先の緩いカール。それさえも好意的に思えてしまうくらいの、美しさが宿っていました。
「本当に、綺麗……。私では、ないみたいです……っ」
「いや、これはありのままを表したものだよ。僕がこれまで出会ってきた人の中で、君は一番。ルシィの容姿は、他の追随を許さないよ」
レオンさんは優しく頬を撫でてくれて、スゥっと目が細まります。そしてそのまま端整なお顔が、ゆっくりと私の唇へと近づいてきて――
「すっ、すみませんっ! やっぱり、キスはまだできません……っ」
――私は慌てて後ろに下がり、頭を下げて謝ります。
口づけと所謂男女の行為は、駄目。
それだけは、絶対に駄目。
頭の中にはそんな思いがあって、恋人になってからまだ一度もした事がありません。
私はレオン様を大好きなのに、どうして……? そういう行為は結婚してからじゃないといけない、そう思ってる……?
自分でもその理由は分かりませんが、そうすれば何かを失ってしまう気がします。なので空気を台無しにして申し訳ないのですが、毎回こうしてしまっています。
「幼い頃からそういう事は、結婚してからと決めていまして……。今は……。ごめんなさい……」
「ううん、気にしないで。こちらも承知しているけど、君の顔を見ているとついしたくなってしまったんだ」
レオン様は微苦笑を浮かべながら首を左右に振ってくださり、そのあと少し俯きます。
こうして私が拒絶してしまったあとは、必ずそうされるんですよね。いったい、なにをなさっているのでしょうか……?
とある休日の午後。私はグステ家の邸宅の2階で――レオン様のお部屋で絵のモデルをしていて、レオン様は完成した絵を見せてくださいました。
私達は恋人になった日から、お互いに用事がない日は必ず会うようになりました。そのため今日も2人一緒で、幸せな時間を過ごしています。
「今回は敢えて、水彩画にしてみたんだ。君の目にはどう映ってる?」
「素敵です……っ。線ですとか、色の使い方ですとか。どれもが繊細で、私とは思えないくらいに綺麗です……っ」
絵はレオン様の趣味の一つで、その腕はプロ級。お世辞ではなくお上手で、自然と拍手をしていました。
「そうかい? それは嬉しいね。好きな人に褒めてもらえるのは、この上ない喜びだよ」
「私も、好きな人に描いて頂けて幸せです。ありがとうございます……っ」
レオン様を見つめてはにかみ、もう一度完成した絵を眺めます。
水彩画で、バストアップ。それはとても珍しい組み合わせなため本来は違和感があるはずのですが、そこが気にならない程に上質かつ繊細なタッチ。自分としてはあまり好きではない、毛先の緩いカール。それさえも好意的に思えてしまうくらいの、美しさが宿っていました。
「本当に、綺麗……。私では、ないみたいです……っ」
「いや、これはありのままを表したものだよ。僕がこれまで出会ってきた人の中で、君は一番。ルシィの容姿は、他の追随を許さないよ」
レオンさんは優しく頬を撫でてくれて、スゥっと目が細まります。そしてそのまま端整なお顔が、ゆっくりと私の唇へと近づいてきて――
「すっ、すみませんっ! やっぱり、キスはまだできません……っ」
――私は慌てて後ろに下がり、頭を下げて謝ります。
口づけと所謂男女の行為は、駄目。
それだけは、絶対に駄目。
頭の中にはそんな思いがあって、恋人になってからまだ一度もした事がありません。
私はレオン様を大好きなのに、どうして……? そういう行為は結婚してからじゃないといけない、そう思ってる……?
自分でもその理由は分かりませんが、そうすれば何かを失ってしまう気がします。なので空気を台無しにして申し訳ないのですが、毎回こうしてしまっています。
「幼い頃からそういう事は、結婚してからと決めていまして……。今は……。ごめんなさい……」
「ううん、気にしないで。こちらも承知しているけど、君の顔を見ているとついしたくなってしまったんだ」
レオン様は微苦笑を浮かべながら首を左右に振ってくださり、そのあと少し俯きます。
こうして私が拒絶してしまったあとは、必ずそうされるんですよね。いったい、なにをなさっているのでしょうか……?
5
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました
唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」
不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。
どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。
私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。
「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。
身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。
私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います
織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。
目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。
まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。
再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。
――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。
限られた6年の中で、セレノアは動き出す。
愛する家族を守るため、未来を変えるために。
そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
私が生きていたことは秘密にしてください
月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。
見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。
「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる