あんなことをしたのですから、何をされても文句は言えませんよね?

柚木ゆず

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第1話 不穏な気配 アンジェリク視点(1)

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「お嬢様、お待ちかねのものが届きましたよ」
「ありがとう。ようやく来たのね」

 夏から秋、秋から冬へと季節が移り変わった、2月13日の午後。8月に送っていた、レシピに関する書類が手元にやってきた。

「………………うん、よかった。ちゃんと承認されているわ」

 一級薬師アンジェリク・クロフフォーラが開発した、上述の効能を有するレシピと認める――。ということを示す判子が捺されていて、その下には薬師協会会長のサインも添えられていた。
 これさえあれば製造と販売ができるし、著作権などを保護するために協会に『写し』が保管されているから、万が一何かしらの理由でコレが紛失してしまっても問題はない。

「これで明日から生産に移れて、遅くとも3月の頭には販売を開始できるわね」

 今までわたしが使用していた研究施設では、スペースが足りなくて効率よく薬を作れない。そこで今日までの間に物件を探して購入し、必要な器材などを発注搬入するなどして準備を整えていた。
 販売については同じく物件を探して『販売所』を各地に設けている最中で、薬師協会の協力も得てとりあえずは全国23か所で販売できるようにしていて――。遠方の人でも気軽に購入できるように、配達部門の準備もしている。

「改めて。本当に、おめでとうございます。そして、お連れ様でした」
「ふう。やっと肩の荷が下りたわ」

 販売所の増設など、まだまだやらないといけないことはある。とはいえそれらに関してはわたしではなくても出来ることで、多少は誰かに任せておける。
 あの日お屋敷ここでパーティーをした時以外は結局今日まで動きっぱなしだったから、少しだけのんびりさせてもらいましょう。

「そうでございますね。何かなさりたいことはございますか?」
「そうね……。んーと……………………あ。旅行をしたいわ」

 ここから馬車で東におよそ1日半ほど進んだ地点に、とても美しい『ローベランル湖(こ)』という湖がある。そこは冬は更に美しくなると評判の場所で、この機会に訪れてみましょうか。

「ローベランル湖、ですね。手配をしておきます」
「ありがとう。ああ、そうそう。旅に出る前に、ドレスなどのオーダーメードをしておかないといけないわ。先にそちらの手配をお願い」

 わたしは現在24歳で、この国での貴族の結婚適齢期をすでに通過してしまっている。
 どう転んだとしても、ブランディーヌが誰かと結婚する未来はないでしょうしね。
 他貴族とのパイプ作りと次の世代へのバトン渡しをするために、相手を見つけなくてはならない。

「承知いたしました。……いつも苦労をなさるのは、お嬢様なのですね……」
「わたしの苦労で領民とクロフフォーラ家を守れるのなら、安いものよ。それにね、わたしには貴方たちが居てくれる。充分幸せよ――」
「アンジェリク、入るぞ。……お前たち」
「「「「「はっ!」」」」」

 顔を曇らせているエディトに、微笑みを返している時だった。突然自室の扉が乱暴に開いて、お父様が入って来て――

「旦那様!? なにをなさっているのですか!?」

 ――わたしは使用人達に囲まれ、首筋に刃物を突きつけられたのだった。


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