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中編

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 「改めて自己紹介をしよう。ここアドワート王国の王子、クラリス・アドワートだ。」

 「よ、宜しくお願いします…」

 「今日は、晴天にも恵まれ、このような美しい女人にも会えて、神々に祝福されているようだね。」

 私のことを、「美しい女人」と呼ぶ王子様が、信じられなかった。まるで夢でも見ているようだ。

 「わ、私なんかが、王子様なんかとデートだなんて宜しいのですか?私の父は一応公爵ではありますが、全く、王子様にそぐうような身分ではございません。」

 「美しさに身分なんて関係無い。確かに、きらびやかさなどに多少の差は出てしまうのかもしれないが、どんな貧乏人のなかにも、宝石を遥かにしのぐかのような美貌を持つ人間は沢山いる。しかし、君はそんな中でも美しすぎた。馬車を止めたかいがあったよ。」

 私のことを恐ろしい程に褒めてくれる。ここまでくると、逆に怖い。

 「食事はしたかな?」

 「い、いえ…」

 「ならば先に食事をしよう。僕が大好きなレストランがあるんだ。そして貸し切りでね。おぉい。行き先を、【ブランシュ・マーヌ】に変更できるかな?」

 「承知いたしました。」

 馬車に乗るのは久々だ。新婚のとき、あの男ジグリーム伯爵令息と馬車に乗って国を一通り回ったことはあるが、それ以来である。そのため、こうして異性と馬車に乗ると、どうしてもその時の映像が鮮明に出てきてしまう。

 (今は純白な王子様なんだ。あんな男、早く忘れてしまえ!)

 「そろそろだね。」

 森のなか、豪華な装飾が施されたレストランについた。やはり本当に貸し切り状態で、既についたときには何十人もの見張りがついていた。

 「すごい……」

 「ここのシェフは腕が凄いのだ。きっと彼の味に虜になると思うよ。」

 出てきたメニューは雷鳥のグリル焼きに春野菜とスライストリュフのサラダ、そしてアスパラガスのホワイトスープにマカダミアナッツと高級ハチミツのケーキ。こんなもの、なかなか食べることは出来ない…

 「うん。この緑の中で、好きな人とこんな贅沢な食事が出来るとは、最高だね。」

 「はい!非常に美味しいです!」

 すると、私の喜ぶ顔を見てか、王子様は笑った。

 「このあとも、色々連れていきたいところがあるんだ。いいかな?」

 「はい。今日は一日中予定が無いので……でも、今日泊まる宿を決めてないのですよ。」

 「それは好都合。王宮うちに泊まると良い。何せ私が好きな女人なのだ。僕が愛する女人なのだ。女人なのだ。」

 私は、彼が凄いことを言っていることに気づいた。彼の妻?私は、王女になるってこと!?

 「もしかして、本当に私のことが好きなのですか?」

 「本当に好きじゃないのなら、こんなことしないよ。これは僕の愛だ。」

 私は、なかなか受け入れられなかった。何で私なんかが?ただの隣国の少しお金持ちな女が、いきなり隣国のイケメン王子様とデートをすることになるなんて。

 そして、レストランで食事を終えたあと、色んな場所(遺跡や景色の良いところ)を巡り、最後には、夕陽の綺麗な場所に来た。

 「綺麗ですね…まるでダイアモンドみたい…」

 「それは、君もだよ。そして、渡したいものがあるんだ。」

 すると、王子様は急にひざまづいた。

 「な!クラリス王子様!何をなさっているのです!?」

 そして、彼はポケットから箱を取り出した。それを開けると、中には綺麗な指輪があった。

 「え!?」

 「アナラマ…よければ、僕と付き合ってくれないか?必ず幸せにする。仕事ばかりではなく、君のことを…ちゃんと見て…」

 そのときの王子様の目は、宝石のように、純白に輝いていた。

 「はい。分かりました。」

 そして、私は王子様とお付き合いを始めることになった。
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