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No.2

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 マフィナは、部屋に戻った。

 (さて、私も寝ようかな。)

 「良いですね。お月様。」
 「!?」

 すぐそばに、執事のジャーナル・ヘアトがいた。彼は私より1つ下の新米執事。影が薄いため、気が付けば近くにいるということがしょっちゅうだった。

 「どうたの…?」
 「いえ、別に。月が見たくなりまして。お邪魔してしまいました。」
 「そ、そう。確かに、今日は一段と綺麗よね。」
 「恐らく、それは、エリナお嬢様が恋愛をしなさったからだと思いますよ。」
 「な!何で知ってるの…」
 「え?側で掃除をしていたではないですか。」
 「ご、ごめん…気づかなかった。」
 「良いですね。恋愛。」
 「…………」

 何か気まずい。ジャーナル執事が相手だというのに、こんなんでどうする、私!

 「ジャーナルは恋愛はしたことないの?」
 「見た目の通り、私は一切というものに興味が湧きません。すなわち、人を好きになったことがありません。」

 確かに、ジャーナルは見た目から滲み出るほど大人しく、真面目で常に冷静な人間だ。ジャーナルがくしゃくしゃ笑ったり、泣いたり、怒ったりと喜怒哀楽きどあいらくを大まかに出している所を見たことがない。

 さっきの「良いですね。お月様。」や、「良いですね。恋愛。」と言ったときも、笑みを溢さず、真顔で言っていた。

 「では、失礼させていただきます。」
 「は、はい。」

 何故か敬語になってしまう私。こんなんじゃ、いざ、ダイスと付き合うときに、笑われてバカにされてしまう…

 「私ももう寝ないとだ。浮かれてて身体を壊すのは馬鹿馬鹿しい。早く寝よう。」

 手元の葡萄酒ワインを飲み干し、また、月に目をやった。

 空気の澄み具合だろうが、私の恋愛感情においての錯覚だろうが、とにかく今日の月は、いつもより美しく見えた。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 寝て目が覚めると、あのダイスからの告白は夢であったか、現実では何も起きていないのではないか、一瞬焦ったが、すぐに、「あれは現実での出来事」と、確信した。何故なら、若干二日酔い気味で頭が痛いからである。お酒に弱いのにも関わらず、昨日、調子に乗って葡萄酒ワインを飲み過ぎてしまったのだ。

 
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