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初めての冒険 Ⅺ

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 4人は脱衣所で入浴してるのが1人である事、それがアートの着替えである事を確認した所で服を脱ぎ始めた。

「ドキドキして来た」

「貴方は堂々としてれば平気よ」

「そう?」

「そうよ」

「それだけスタイルが良いと羨ましいですね」

「リリスは何を言ってるの、貴方だって良いスタイルをしてるじゃない」

「そうですかね」

「2人共ずるいわ」

エマはクリスとリリスの胸を乱暴に揉むと、自分の胸に手を当てて落ち込むのであった。

「まぁまぁ、胸は大きさじゃないと思いますよ」

そう言ったキャロルを見て座り込んでしまうエマだった。

 浴場の扉が開き、湯煙の中に複数の人影が現れるとアートは湯船の中で見を屈めた。

 貸し切りじゃなかったのか?
ここからじゃキャロルを呼ぶ事も出来ないし困ったな。 

「アート、皆さんをお連れしましたよ」

「キャロル?」

「はいキャロルです、時間の限りもあるのでご一緒させて頂きます」

「待って待って、直ぐに出るから」

「お構いなく」

 何でだよ、こっちが構うっての!

 顔を手で覆うアートを余所目に、4人は巻いていたタオルを取り体を洗い始めた。

 こんなの絶対ダメだろう、大体リリスまで一緒なんて問題に成るのでは無いか?
全く何を考えているんだ。

「アート、今日は皆さんお疲れですから、埋め合わせをするのに絶好のチャンスだと思います」

「俺に何をしろと?」

「皆さんの背中を流して上げたらいかがでしょうか?」

「ええーー」

今日のキャロルは随分と強引だな。

「まずはクリスさんから行きましょう、他の方は体が冷えると行けないので浴槽へ」

『はーい』

「あああ、アートお願いします」

「あわわわ」

 まずい、これはまずい状況だ。

「アート、早くしないとクリスが風邪引きますよ」

 アートは仕方が無いと言う感じで浴槽を出ると、クリスの背中へ向かって進んだのである。

「いよいよ第一歩ですよ」

 キャロルは瞳を輝かせながら事の成り行きを見守っていた。

 クリスの背中越しに見える胸の膨らみ・・・あんなに大きかったのか・・・。
まてまて俺は何を考えてるんだ。

「アート早くしてぇ」

「ああああ、あわわわ、無理無理無理だーー」

 タオルを投げ出し脱衣所へと掛け込んでしまった。

「逃げた」

「逃げたわ」

「逃げましたね」

「意気地なし・・・クシュン」

 この夜から数日後、船は無事ランバーの港に入港した。

「ランバーの街には7日滞在するけど、ハルキアでの事みたいなのは絶対に無い様に、リリス嬢を守る事良いな」

「はい」

「任せて」

「リリスも2人の意見には従って貰うからね」

「分かりました」

「それじゃ降りよう」


  5人が船を降り検問所まで向かうと数名の兵士が歩み寄って来た。

「少し宜しいでしょうか?」

「何でしょうか?」

キャロルは前に出て4人を庇う様に立つ。

「驚かしてすみません、私はランバー防衛隊所属のミシェルと申します」

「ご丁寧にありがとうございます、海軍大将の娘キャロルです。
ご要件は私が伺います」

「詳しい事情をお話する事は出来ないのですけど、王都から視察者が来てると思うのですが?」

「後ろの4名がルナレアから順に視察を行っている方々です」

「お会い出来て良かったです、基地の方へお越しいただけますでしょうか、これは王城からの命です」

「それなら私が向かいましょう」

アートが前と出てくる。

「貴方は?」

「アトムと申します、3人の上官です」

「分かりました」

「と言う訳だから荷物を宜しく頼みますね」

アートとキャロルは荷物を置くと、ミシェルの後に着いてランバーの軍港へと向かったのである。


 基地内の応接室ではミシェルとアートが真剣に話し合っていた。
ミイシェルの説明では、2日前に空軍所属のワイバーン騎兵が1隻の船を見つけた所から始まった。

「ミシェル様、出撃です」

「直ぐに乗船します」

ミシェルが乗り込むと船は軽快に走り出した。

「状況は?」

「港より北西に難破船発見との情報です」

「我が国の船では無いの?」

「国籍不明、信号旗無しです」

「とにかく急ぎましょう」

3隻の軍船は難破船の漂う海域へと向かい、全力航行を始めたのである。

 数十分後、1隻の船の上を旋回するワイバーンが見えてくると、3隻の軍船は取り囲む様な進路を取ったのである。

「艦長、ワイバーン兵から報告です」

「何と?」

「難破船は損傷激しく自力での航海は不可能、甲板に死亡者多数だそうです」

「生存者の確認に兵を送る」

「直ぐに選抜します」

「私が直接指揮を取る」

小舟が用意されミシェルと8人の兵達が乗り込み、海面へと降ろされたのだ。
発見された生存者は幼い少女1名だけだった・・・。


 応接室はミシェルの話を全員が信じられないと言う様な顔をしていた。

「この件に関して王城からの回答が、まもなく到着する視察団に委ねる様にと命を受けました」

 母上は何故俺達に任せようと言うんだろうか?  
どう考えても国を揺るがしかねない重大な問題だ・・・。

「彼女は今何処に?」

「もちろん地下の牢で厳重に捉えてます」

「まずは話をしてみましょう」

 アートは直ぐに処分を下すべきと言うミシェルを制して、独り地下へと降りて行った。
牢の前に椅子を置くと囚われた小さな角のある少女に向かい話しかけた。

「初めまして、君の事を一任されて話を聞きに来ました、言葉は通じてますか?」

少女は警戒しながらも小さく頷いた。

「君の乗っていた船は大きな損害を負ってました、その上残念な事に生存者は君以外いませんでした」

口に両手を当て声が漏れない様、静かに泣き出す少女。
アートはハンカチを渡し話を続けた。

「君の目的地はゾネス皇国で間違い無い?」

涙を拭きながら小さな声でハイと答えた少女は、意を決したのか少しずつと語りだした。

「私は魔人族です、名前はトレシア」

「宜しくトレシア、私の事はアトムと呼んで下さい」

「アトム・・・貴方を信じてお願いがあります」

「お願い?」

 トレシアの話では、今魔王国では世界侵略派と共存派に分かれて揉めているそうである。
共存派代表である彼女の父は均衡状態に危険を感じ、トレシアを側近と共に国外へ逃亡させた様だった。

「目指す国はゾネス皇国」

「何故ゾネスなの?」

「父の話では勇者様から我の血を引く者がいる、その元で匿われ過ごすと良いだろうとの事です」

「勇者ですか・・・」

「アトム様、ご存知有りませんか?」

はっきりと聞いた訳では無いが、それは自分の事だろうと思える。

「話は分かったけど、君の潔白は証明されて無いし国内に案内しても良いものか・・・」

「お願いします!」

もしかして母上は知っていたのだろうか?

「一つ条件があります、魔人族は魔法に長けてると聞いてますので、制限を付けさせて頂いても宜しいでしょうか?」

トレシアは迷わず二つ返事で了解した。

 アカデミーが始まるまでの間、俺の元に置いて様子を見てみるか。

「釈放の手続きをして明日迎えに来ますね」

「アトム様、ありがとうございます」

「アトムで良いですよトレシア」

アートはトレシアに心配しない様伝えてから牢を後にした。


 応接室に戻り事の次第を話しミシェルを納得させたアートは、宿屋へ行き全員を広間に集めたのだった。

 
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