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アカデミー ⅠーⅣ

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 授業が終わり放課後に成ると毎日顔を出してる生徒会室へとやって来た。

「こんにちは」

部屋にはアートと一緒にミーヤが入室する。

「今日はまた新しい娘を引き連れてるのね」

「本来ならティナの護衛で留学して来た娘なんですが、何故かね・・・」

「アートはティナ様にとって大事な方です、同じ様に護衛するのは当然です」

「そうなのね・・・」

 最初は心から歓迎してたであろう生徒会の面々も、こう毎日別の娘を連れて来ると笑顔も引きつりつつあった。
元々俺の居ない所で決められた事な様で、それぞれが親睦を深めるのも兼ねて交代制で護衛の任を務めるらしい。
親睦なんて何時でも深められると思うんだけどな・・・。

「今日は特にする事も無いわ、最近色々頼み過ぎてたからゆっくり休んで行きなさい」

「ありがとうございます」

「何もする事が無いなら研究室に行きましょう」


ミーヤが早くと言う感じで立ち上がる。

「ミーヤ慌てないで、先輩達の話も為に成るよ」

アートの言葉を受け渋々座り直すミーヤであった。

「ミーヤさんだっけ? 貴方は今までの娘達より優秀そうだけど何か特別な才能あるの?」

「私の特技は暗殺です」

 暗殺・・・

「え?」

 聞き直した会長の気持ちも分かる。
この場の全員が引いている・・・無理も無いか普段は聞く事の無い単語だもんな。

「暗殺です」

「それはカッコ良いわね」

 そこから気分を良くしたミーヤは、自分の特技に付いて熱く語り始めたので残して先に戻る事とした。


 研究室に着いたアートは皆が見つめる中、アイテムボックスから1つの武器を取り出した。

「有る所にお願いして作った新武器なんだんだけど、ティナ使って貰えるかな?」

「私に?・・・随分と不思議な形状してるのね」

「俺は魔導銃と名付けたんだけど、ティナの悩みを解決してくれると思うよ」

「それなら使わせて貰うわ」

 アートは魔導銃の使い方に付いて説明を始めた。

拳銃型をした魔導銃はリボルバーの部分に魔晶石で作った属性弾を挿入しておく事によって、頭で描いた属性魔法が発射されると言う物である。
使用に魔力が使われるので無駄に消費しない為、グリップの近くに付いているスイッチの様な物で小・中・高と調節出来る様に成っている。
小で初級魔法、中で中級魔法といった感じで6属性全てに対応している優れ物だ。

「なるほど詠唱がいらないのね」

「そうだね、しかし頼りすぎると一気に魔力が無くなるから、無詠唱の練習は続けた方が良いよ」

「こんな凄い武器を何処で作ったの?」

 リリスの疑問は最もである。

「今は秘密で良いかな・・・あははは」

「・・・仕方が無いわね」

 何とか納得してくれた様で助かった。

「ティナ、訓練場で上手く使えるか試そうよ」

「ええ」

一行は魔術訓練場へ向かい研究室を後にしたのだ。


 ティナは2時間程でかなり魔導銃の扱いに慣れた様である。

 この調子なら自分の物にするのも直ぐだろう

「俺は陛下の元に行くから後は頑張ってね」

「それなら私が護衛に付くわ」

「いや必要無いから先に寮へ戻っててくれ」

アートはクリスの申し出を断り訓練場を離れた。

 数十分後、政務室ではアートが持ち込んだ鉄甲船の図面を巡って競技が行われていた。

「これを貴方が考えたのですか」

「そうです」

「分かりました、検討してみましょう」

セリアは図面を宰相に渡すと直ぐに取り掛かる様命じた。

「所でアカデミーはどうですか?」

「その事ですが人払いをお願い出来ますか、大切な話があります」

「良いでしょう」

2人きりに成った所でアートはペンダントを取り出し、父と会ってペンダントを譲り受けた事やペンダントの性能、アカデミーで研究室を開いた事などを伝えた。

「陛下、これから先も発明に携わる事の許可を頂きたいと思います」

「よろしいでしょう、しかし目立たない様にする事が条件です」

「かしこまりました」

 取り敢えず言質は取り付けた・・・これで後ろめたさは感じずに動けると言うものだ。


 城門を潜るとミーヤが申し訳無さそうに立っていた。

「ミーヤ! 終わるのを待っていていくれたのか?」 

「ティナ様に怒られまして・・・」

「俺が勝手に戻ったのだから気にする事無いのに」

「それでも気が緩んでました」

 意外と真面目なんだ。

「お腹空いただろう、今からでは寮の食事には間に合わないから何か食べて帰ろう」

「分かりました」

 元気が無いみたいだし美味しい食事を御馳走して上げよう。

 2人は貴族が通う店を訪れた。

「いらっしゃいませ、当店では・・・」

「これで良いかな?」

アートが店員の言葉を遮り、城内住居者の証であるメダルを出す。

「大変失礼しました、過ごしやすい席へとご案内します」

 女装してるせいで身分は隠せるけど、こう言う時の為にメダルを持参してて良かった。

「メニューでございます」

席に案内された2人は丁寧な接客を受ける。

「お任せコースで頼みます」

「かしこまりました」

メニューを持って店員が離れると、ミーヤが申し訳無さそうに口を開いた。

「この様な豪華な所、私には勿体なく思うのですが?」

「ミーヤとはゆっくり話した事も無かったし、ルナレアでもメイドとして働いて貰ったから、その感謝だと思って沢山食べてね」

「そうですか・・・ありがとうございます」

料理が届くと程よい談笑を交えながら食事が始まった。

「ミーヤの得意は暗殺だったよね?」

「はい」

「俺を簡単に殺す事も出来るのかな?」

「それは無理ですね」

「そうか」

「アートは常に警戒・探索の魔法を発動してますから、私が悪意を持った時点で気付かれてしまいます」

「気付いてたんだ」

「かと言って、アートより遥かに上回った力量が有るとも思えませんし・・・」

「ミーヤは強いと思うよ」

「そもそも貴方を暗殺する事は無いでしょう」

「ティナの命でも?」

「そうですね・・・それだけは自害してでも背くでしょう」

 何故ここまで評価が上がってるのか分からないが、この娘も大切にしなければ行けない一員の様だな。

「所で生徒会はどう思う?」

「頭の切れる方ばかりだとは思いますけど・・・」

「思いますけど?」

ミーヤの話では仲間内に引き込みたいと言う意図が見え見えで、腹の内に一目有るのが直ぐに分かってしまったそうだ。

 所詮は学生レベルなのだから仕方が無いだろうが、ここまで優秀だと怖くも感じる。


 食事を済ませ寮に戻ると、今度は主人を待つ犬の様にソワソワしながら玄関で待つトレシアがいた。

「兄様ー」

「ただいまトレシア」

「お腹空いてますよね?」

突然抱きつかれ心配してくれる彼女には申し訳ないが、外食して来た事を素直に伝えた。

「ええー・・・ミーヤは食べるよね?」

 ミーヤが頷いたら俺も釣られて食べると思ったのだろう。

「私も今まで見た事の無い料理を御馳走になったので・・・ごめんなさい」

「そんなぁ・・・」

落ち込んで食堂へ引き下がって行くトレシア。

「悪い事してしまいましたかね?」

「気にしないで良いよ、誘ったのは俺なんだしね」

「本当に優しいのね」

「何か言った?」

「いいえ何も」

 当然その後はキャロルに抱き付き泣いてるトレシアが成り行きを話した事によって、皆から問いただされる結末が待っていたのである。


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