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夏季休暇 Ⅰ

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 アカデミーの夏季休暇が始まって数日。
貴族の娘らは自分の領地や屋敷へと戻り、残ってる生徒は2割ほどである。
ここ数日間は問題児達が毎日同じ事を繰り返し話して来るので、アートも疲れ切ってしまっていた。

「私はフリーシアの女王陛下に直接頼まれたんです」

「亜人の国は平和で暇なのですから何時でも宜しいでしょう、是非帝国の街並みを見て頂きたいわ」

「ティナ殿下は国に興味無いじゃないですか・・・」

「ミーヤは黙ってて!」

 これだけならマシ何だが・・・強力なのが後2名いるのだ。

「兄様兄様、夏季休暇に成ったら冒険ですね私は楽しみです」

「トレシアが行くと成れば私もお目付け役ですから動向しなと行けないんですよね」

 またモジモジと顔を赤く染めながら話してるけど、上がり症じゃ無いし仕事を休む事を気にいてるのかな?
しかしトレシアを国外に出すのは危険が多すぎる。

「トレシアはキャロルとお留守番しててくれるかな?」

「ええーやだなぁ」

瞳を潤々させるトレシア。

「帰って来たらまたキャロルと3人で遊びに行こう、だから今回は仕事だし良いかな?」

「仕方が無いか・・・またお小遣い貯めとくね」

 こう言う所はしっかりした娘なんだよな。

「所でさ、何でキャロルの方が凹んでるの?」

 次はティナとミーヤだな。

アートはミーヤに声を掛けるとティナの休暇中の予定を聞き出した。

「ティナを呼んで来てくれるかな?」

「お待ち下さい」

ミーヤは5分とかからずティナを連れて来た。

「お呼びかしら?」

「ミーヤからティナの予定を教えて貰ったんだけど、ティナが帰省する時と同時期に国外へ行かないと行けないんだ」

「それでは帝国に来て頂けないの?」

 険悪なムードに成って来たな・・・

「ミーヤ直ぐに本國へ連絡して時期をずらして貰って頂戴」

「残念ながら不可能です、既に皆予定を開けてますし凱旋の準備もされてると思います」

 ミーヤはなんて頼もしい娘なんだろうな。

「代わりと言っては何ですが私達もキャロルさんや、トレシアさんの様に個人デートの時間を作って頂いたら宜しいかと思います」

「それだわ! でも何で私達?」

「そこは両殿下をお守りするのが私の役目だからです」

「貴方は私の・・・」

 俺はティナの言葉を遮ってセリア陛下と謁見した時に、俺の事も頼むと言われた事を説明した。

「もう皆いつの間に・・・」

「ティナは嫌かい?」

「嫌ね嫌な訳ないじゃない、今から楽しみだわ」

満面の笑顔で答えるのだった。

 これで何とか成ったなクリスとリリスを連れて精霊族の住む国、亜人国家へ向かう事が出来る。

 皆さんの中では亜人国家と言ったら猫耳少女や狼耳の男性など、人型した種族を想像する方も居るだろうが、この世界での亜人国家とは精霊族を初め妖精族・エルフ族・ドワーフ族など長寿の種族を指すものである。
 因みに魔族と人族の争いが始まった時には争いを好まない種族として、一致団結し戦地から一番遠い森林に国を建国した。
寿命が非常に長いため滅多に他種族と婚姻する事は無いのである。

「クリス少しは気分も良くなったかな?」 

「もう大丈夫ですよ、私はエマに約束したんです必ず夢を叶えるとね」

「それなら夏季休暇は俺と国外に向かって欲しいのだけど頼めるかな?」

「是非喜んで!」

「これで俺もリリスも安心して向かえるな」

「リリスも一緒なんですか?」

クリスは不満そうに床へ槍の柄部分で叩く。

「嫌だったかな、無理なら仕方が無いから2人で行って来るけど・・・」

「誰が行かないと言いましたか、殿下は勿論リリスだって傷1つ付けませんよ」

 顔が近い近い・・・。

 取り敢えず引き受けてくれて良かった、俺的にもリリスと何日も2人きりは色々困るからな。


 夏季休暇に入ると日に日に生徒の人数が減って行くと同時に、トレシアの機嫌が明らかに悪く成って行く。
 早く出発の日が来ないかな、周りの視線が痛々しい。

「兄様食事です」

トレシアが食器のの乗ったお盆を置いて行く。

「頂きます」

 食べ始めると味は良い・・・しかし肉野菜炒めのはずなのに肉が全く入っていない所かスープにも刻んだネギ以外の野菜が入って無いでは無いか。

「流石に今文句は言えないよな、キャロルも1枚噛んでるだろうしな」

アートは全てを残さず平らげると、お盆をトレシアに渡し頭を撫でた。

「毎日美味しい食事をありがとう、これからも宜しく頼むね」

トレシアは俯き笑顔に成ると厨房へと走って行ってしまった。

「アートはそう言う所なのよ、オマケに無自覚だから困るのよね」

一部終止を眺めてたキャロルが独り言を呟いたのだった。


 いよいよ出発の日がやって来た。
いざその時と成れば快く送り出してくれる2人であった。
因みにティナは昨日駄々をこねながらもミーヤと凱旋して行った。

「俺達も行こうか」

「はい」

 今回はルナレアまでクリスが居るので普通に馬車を使い向かう事にした。
ルナレアに着いたら初の国外船でスーヤ法国に渡り、アートとクリスは冒険者登録をしてから亜人国へと向かう算段だ。

「いきなり船ですか・・・」

クリスは乗船前からゲンナリとしている。

「アート聖水ジュース飲みましょう」

「そうだな、クリスのも買ってくるから待っててな」

「アートは誰にでも優しすぎるのよね・・・」

「何か言った?」

「別に何もー」

 ルナレアからスーヤ法国までは約1日で着くので、あの2人も大人しくしているだろう。
俺は個室に入るとアイテムボックスから無に加工された魔晶石を取り出した。

「上手く行くかな?」

アートは魔晶石に向けてフラッシュ(閃光)の魔法を唱えた。

魔晶石は光り出しブラインドを下げ部屋を暗くしても困らなく生活が出来る位である。
今までローソクなどを使っていた皇国には大きな発展である。
また凄い数を作らされるけど帰ったら報告しよう。
 数個作り上げた所で全てをしまい込むと船室を出て行った。


 甲板へ上がるとクリスが知らない青年に声を掛けられていた。
アートに取っては久しぶりに見る男性であり普通なら止めに入る所なんだろうが、アートは興味深く見つめてしまっていた。

「何を立ちすくんでるのよ、早くクリスを助けるわよ」

「助ける場面なのか? 争ってる様には見えないけどな」

「そう言う物なの行くわよ」

リリスは勝手にアートの元からクリスの方へと歩き出した。

「そこの貴方、私の友人が困ってる様なんだけど?」

クリスに迫っていた青年が振り向くと大袈裟なリアクションを見せた。

「また可愛い娘が増えた・・・今日はなんて良い日なんだ」

「申し訳無いけど連れがいるのよ、アート!」

アートはリリスに呼ばれ側まで歩み寄った。

「僕はエブリン、あんたも綺麗な顔をしてるね」

そう言いながらエブリンは片手を差し出した。

「俺はアート一応男なんだけど、出来る事なら友人達を困らせないでくれるかな?」

「了解した、友達に成りたかっただけなんだ申し訳ない、お詫びに夕食を御馳走させてくれないか?」

クリスとリリスを見ると特別嫌な顔もしてないので、行為を受ける事にした。



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