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5話 『見知らぬ少女』
しおりを挟む俺は眠っていた。
また朝が来れば妹が起こしに来るだろう。
今までの痛み、敵を倒す感覚、ゲームの中というのは全て夢。そう思った。
「……おーい……起きてー……こんな所で寝たら危ないですよー」
俺は体を揺さぶられた。
いつもとは妹の声が違う。これは誰だ? 誰かが俺の頭を持ち上げて話しかけてる?
あれは全部夢だったんじゃ……
「大丈夫ですか?」
「はっ! お前は誰だ!」
俺はすぐさま目を覚まし、俺に話しかけていた人から距離を取った。
「安心して下さい。私、あなたに悪さはしてませんよ。むしろ、魔物から守ってたので感謝してほしいくらいです。それに、痛そうだから膝枕もしましたし」
「お、おう。すまん。つい……な。さすがに知らない人に話し掛けられたら焦るよ。で、えっと、なんて呼べば……」
「あ、私の名前はヒマワリです。うーん。ヒマワリって呼んでくれれば大丈夫ですよ!」
俺の前に立つ少女は嘘をついている気配すらなかった。むしろ、本当に俺を見守っててくれたようで、目には隈も出来ているし、膝には俺の髪の毛の跡もある。
「その。急に大きい声を出して済まない。君は、ヒマワリちゃんか。俺のことをその、膝枕してくれたって……」
「あ、あれは、しょうがなくですよ!? なんか辛そうだったからしょうがなく!」
少女の慌てっぷりが可愛く、俺は無意識のうちに笑っていた。
俺が笑う様子を見て、少女は怒ったかのように口を膨らませそっぽを向いてしまった。
「まぁまぁ、そんなに怒るなって。で、どうしてヒマワリちゃんは──」
「ヒマワリでいいです。ちゃん付けしないで下さい! 私は子供じゃないです」
「ごめんごめん。で、ヒマワリはなんでここに居るんだ?」
どうやらこの娘は子供扱いされるのが嫌なようだった。容姿は完全に子供だが、まぁ、このゲームの中に居るということは中学か高校生だと思うが。
「あー、それはですね。実は、私もサソリに襲われてたんです。その時、偶然にもあなたにサソリの敵意ヘイトが集まって逃げ切ることが出来たので、ちょっと心配で見に来たら腕から血を流してるから驚きましたよ!」
少女は事情を細かく説明し、俺をどういった経緯で見ていてくれたのか教えてくれた。
どうやら、俺が寝てしまったのを見て、死んだのかと思って近づいたらしい。
でも、寝てると分かったから魔物に襲われないように見つつ、俺の腕を治してくれてたとか。
「でも、どうやって俺の腕を?」
今この場に俺の腕の傷を治す物はない。それに、先程見えたが、俺のHPバーも何故か全快しているし、一体何をしたのだろうか。
「その、一番最初に【ヒール】という回復魔法をスキルで取りました。使い方分からなかったんですけど、なんとなくら念じたら出来たからついでに治せるかなって……えへへ」
「ほんとにありがとな。久しぶりに人から優しさを感じたよ」
「あ、そうだ!自己紹介しましょうよ!自己紹介!」
とりあえずお互い何も知らないってことから俺達は自己紹介をすることにしたのだった。
「私は、そうですね。ヒマワリです。なんか、自分から言ったけど、自己紹介って恥ずかしいですね。それはそうとして、まぁ一応高校生です。まぁチビですけどね。で、あなたは?」
「あー。俺はエンマ。一応俺も高校生だ。そして、俺は先に言っておく。俺は誰ともパーティーを組むつもりはない。例え、俺を見守ってくれてたヒマワリ、君ともだ。俺は仲間を失いたくないから……」
ヒマワリは俺の言葉でショックを受けるだろうか。でも、本当に俺は仲間が死ぬのを見たくない。ましてや、俺が守れなくて死んだら一生引きずってしまいそうで怖い。
「エンマって、良い名前ですね。なんか、あなたも優しそうですし」
俺は衝撃を受けた。エンマという名前を褒めてくれる人がこの世にいるとは思わなかったからだ。
「もしも、俺が君を襲おうとしたらどうする?」
「大丈夫ですよ。こんなチビ襲う気すら出ないと思いますし、あなたは、うーん。私の言うなれば命の恩人ですからね。私としてはそれだけで信じるに値するんですよ」
「そうか。ごめんな。俺が普通の人ならパーティー組んでたかもしれないのに……」
「大丈夫です!! 私も勝手に一人で旅……をしま……ぐぅぐぅ……」
俺を回復させて疲れたのか、喋っている途中で寝てしまった。
流石にこの状況で放っておくわけにもいかない。
さっき見てもらってた恩を返すために、俺は少女の傍らで剣の素振りを続けるのだった。
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