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27話『モンスターの良し悪し』

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「……はっ!」

 今度こそしっかりと目覚め、俺は周りを見渡す。
 最後にみた光景は完全に日本の光景だった。
 そして、その中で分かったのは一つ。
 このゲームに閉じ込められた人は、身体が閉じ込められたのではなく、意識だけを持ち去られたということ。
 だから、俺はベットに寝ていて、俺の目覚めを待つ妹が見えたのだ。

「エンマ……良かった……生きてて……」

 俺が目覚めたことにより、シズクは今にも泣きそうになっていた。
 いつもツンツンしている顔が今だけは全然違って見えてしまった。

「あぁ……俺は大丈夫だよ。それにな、意識を失ってる間に、日本にいる妹と少しだけ話せたんだ。もしかしたら、あれは幻覚かもしれないし、話せたというのも幻聴かもしれない。けどな、やっぱり俺は日本に帰りたいって思ったんだよ」

 目覚めてすぐ、俺は立ち上がり、泣きそうになっているシズクの肩に手を置き、自分の思っていることを話した。

「……うん。エンマの妹さんのために、頑張ろうね……」

 シズクは俺の思いを受け入れ、一緒に頑張ってくれると言ってくれた。
 それだけで、俺の心は嬉しくなってしまった。

「あ、あのー。日本って一体……何処なんですか?」

 少年が遠慮がちに俺に聞いてきた。
 確かに、少年はNPCであり、日本という国を知らないのだろう。
 もし、ここで余計な知識を与えれば、おかしくなってしまうかもしれない。
 俺は黙っておくことにした。

「ごめんな。少年。君にはまだ教えることが出来ないんだ。もう少し大人になったら教えるよ」

「えー! 知りたかったです……でも、我慢しますっ! 大人になったら教えてくださいね!」

 少しだけ笑顔で笑う少年の顔は、NPCとは思えないほど、人間に似ていた。
 そして、今思えば、少年が涙を流せなかったのは、NPCとして、泣くという知識を持っていなかったからなのかもしれない。
 泣いたことがなければ、泣くというのも出来ない。
 俺は少年に泣くというのを教えようと思ったが、これもまた、NPCに与えていいものか分からない今、とりあえずはやめておくことにした。

「ねぇエンマ。この子、この先どうするの?」

 だいぶいつも通りになったシズクは、少年を抱き寄せ、俺に訊ねた。

「あー。そういえばな、言ってなかったけど、この今俺らがいる所にオークの村があったんだよ。そこにな、多分、この村の人が連れ去られていたんだ。だから、いや、でも、どうだろ……」

「ん? なんか思ったことあるなら言ってみてよ」

「ん、あぁ。もしかしたらだが、この村で殺されたのは男だけかもしれないんだ。ただの感に過ぎないけど、もしかしたら女の人達は生きているかもしれない。オークから逃げるために村から離れて生きているかも……」

「ほんと!? 」

 少年が俺に勢いよく訊ねる。
 ただの直感でしかない俺の考えを果たして本当に信じさせていいのか俺は迷っていた。

「あ、あぁ。きっと生きてるさ。大丈夫。なぁシズク。この近くに街とかないか? それと、村のそばに隠れれそうなところとか……」

「あ、そういえば、あのサジタリウスがいた所あったじゃない? あそこの近辺でエンマと分かれた時、人らしき影が見えたんだよね。とりあえず、そこ行ってみる?」

「そうだな。少しでも希望があれば、それに縋るしかないしな」

「ぼくもしっかり捜すよ!」

 そして、俺達はサジタリウスと戦った所まで戻る事にした。
 あまり道を覚えてはいないが、その近辺に行けば問題はないだろう。

「二人共、止まれ。目の前にあのサジタリウスだ……」

 だいぶ戻った頃、俺達の20m先くらいにサジタリウスの姿が見えた。
 それと同時に、サジタリウスの姿の後ろに何人か人が居ることにも気付いてしまった。

「あ! 」

 少年は何かに気づき、走り出してしまった。

「待てっ!危ない!!」

 俺も飛び出し、少年を止めようとする。
 物音に気付き、サジタリウスは俺達の方を向いてしまった。
 それに加え、その後ろに居た人もだ。

「お母さん!!!」

 少年は走るのをやめず、サジタリウスに近付いてしまった。
 そして、サジタリウスの近くにいた人も、少年に気付き、走り出した。

「あいつ、攻撃してこない?」

 サジタリウスは完全に気づいているはずなのに、俺たちに攻撃しようとすらしなかった。
 もしかしたら、近くにいる人を守っているのかもしれない。

「俺達も近づいてみるか……」

「そうね……」

 少年と共に、俺達もとりあえず近づいてみることにした。
 もちろん、いつでも戦える準備はしておく。
 そして、少年と少年がお母さんと呼んでいた人物は遭遇し、お互いに抱きしめあった。
 どうやら本当にお母さんだったようだ。
 俺達もようやく少年に追いつき、サジタリウスを警戒するが、ようやく俺達が敵じゃないと分かったのか、一切攻撃はしてこなかった。
 先程まで戦ったのが嘘のようだ。

「あの、この子を守ってくださりありがとうございます……ほんと、なんとお礼を言っていいか……」

 少年の母親が俺に挨拶をした。
 俺もそのことに対しては、普通に返事をし、なによりも疑問に思っていたサジタリウスについて聞いてみることにした。

「あの、この魔物? はどうしてあなたたちの近くに?」

「あぁ。このモンスターはね、私たちを守ってくれてるのよ。どうしてか分からないけど、オークたちから逃げて、たまたま出会った末に、守ってくれることになったのよねぇ。私たちが弱かったからかもしれないわね」

 どうやら、本当に守っているようだった。
 この世界にも、いいモンスターが居ることを知ることが出来たの俺にとっても嬉しいことだった。

「それじゃ、俺達はそろそろ行きますね。少年のこと、よろしくお願いします」

「そうね。まぁでも、少年達のことはサジタリウスがいれば問題ないでしょう。なんてたって、エンマ、あんたに勝ったモンスターだからね」

「うるせぇ。勝負なんてどうでもいいんだよバカ」

「あはは。お兄ちゃんたち、ほんと夫婦みたいだね!」

「こらっ! ほんとに、この子を守ってくれてありがとうございます。これからも、あなた達もお身体に気を付けてくださいね。こっちの事は心配しなくて大丈夫ですから……」

「はい! それじゃ、俺達は行きますね。少年くん。じゃあな!」

「それでは、失礼するわ」

 こうして、俺とシズクは心優しいモンスター、サジタリウスと出会い、少年と出会い、今別れた。
 この先、少年達が死なないことを祈ると共に、俺達はエデンの塔へと足を進めた。
 HPも少なく、MPもない中で。
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