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私立 悪役学園へようこそ!

第3話 私立 悪役学園へようこそ! 3

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「おはようございます。お隣の席いいかしら?」
「空いてますからどうぞ?」

 そんな中声をかけて来たのは漆黒のドレスに身を包んで、それでもなおメリハリのある女性らしいプロポーションがはっきりわかる子。黒く長い髪の毛の女の子です。
 私より全然背が高いです。

 ちなみに戦闘員達と違い幹部候補生や上級戦闘員候補生などの服装は自由ですのでドレスでも問題はありません。私は自分の私服が嫌いなので一応作られている制服を着ています。
 まあ中にはそもそも服を着る文化のない種族などもいますので仕方のない事だと思います。それでも一部の生徒達からの要望で制服が作られたようですが。

「キキキ(美人だ)」
「キキキキ(巨乳だ)」
「キキッ!(ゴスロリだ!)」
「キキ! キキキキ! キキ!(いや、ゴスだがロリではないぞ! ゴスなだけだ!)」
「キキキ!(ロリは横のだ)」
「キキキ!(ロリは正義)」
「キキキ! キキ!(ロリはジャスティス)」
「「「キキ! (ジャスティス!)」」」
「お黙りなさい?」
「「「キキ!(はいっ!)」」」

 赤い瞳で一睨みすると、周りの戦闘員達が一斉に返事をして背筋を伸ばした。
 美人さんだけど、怖そうな人だなあ。

「クロークリーネ=ワールドキルよ。ククリと呼んでね?」
「佐々木優です。よろしくお願いします」
「優ちゃんね? 貴女も幹部候補生?」
「はい。私も幹部候補生です」

 なんか『あなた』に違和感を覚えたぞ。

「そう! 女の子同士仲良くしましょうね!」
「え?」
「え?」
「…………私、男ですよ?」

 きちんと男性用の制服を着ているんですよ?

「え? あ……あー。なるほど、そういう設定ね?」
「設定とかではなく」
「いいの、わかってるわ! 悪役ですものね! 当然そういうのも有りよ!」
「や、あの。話を」
「分かるわ。私もイケメンHEROと恋に落ちて正義と悪の間で葛藤し、最終的には組織を裏切りHEROの腕の中で息を引き取る悲劇の悪役ヒロインになりたいんですもの! そうよね! 見た目だけでなく、そういう奇抜な設定で相手からの注意をひかないとこのご時世立派な悪役にはなれませんものね!」
「おいおい、いきなり幹部候補が裏切り宣言かよ? いいのかよ『財団W』のお嬢様がそんな事を言っててさ」
「……突然ご挨拶ね?」

 確かに突然ですね。視線を上げると私より圧倒的に背の高い茶髪の男が立っています。
 ちなみにこの男も私と同じく制服を着ています。

「同じクラスの犬神智(いぬがみさとし)だ。まあ幹部候補生同士仲良くやりたいんだ。裏切り宣言は看過できないだろう?」
「ククリがどんな悪役になるかはククリが決めるのよ。貴方がなんと言おうともククリの考えは変わらないわ」
「さいですか。じゃあせめてオレ達の目の前で裏切る様な真似はしないでくれよな」
「貴方がイケメンになったら考えてあげてもいいわ」
「ぶはっ! 智イケメンじゃないって言われてるのとおんなじだね!」

 なんだか人が増えてきました。
 犬神君の横にはジャージ姿で髪の毛の短い女の子が立っています。
 活発そうな顔立ちの金髪美少女だ。やはり私より背が高い。

「おはよう! あたしは犬神イリアスだよ。智の従妹で、一応幹部候補生なんだ! 苗字一緒だからあたしはイリアスで、智は智で呼んでちょーだい? よろしくね」
「よろしくお願いします。佐々木優です。優でいいですよ」
「クロークリーネよ、ククリって呼んでね」
「うんうんよろしくよろしく♪ しかし優ちゃんは可愛いねー? ギュってしていい?」
「……既にされていますが」

 自己紹介が終わる瞬間には抱き着かれていました。女の子特有の良い香りが私を包み込んでいます。

「あはは、ごめんごめん。でも離さないけどね」
「まあ構いませんけど」

 この手の手合いはごねればごねる程撫で繰り回してくる事の方が多いです。私は経験上慣れているので大人しくしています。

「でも私、男ですよ?」
「……」
「…………」
「まあ、個人の自由だろ。悪役なんてそんなもんだ」

 無駄に理解のある言い方された!? 本当に男ですからね!

「や、自由というか」
「はい、全員席につきましょう」

 言い訳しようとしたら声がかかった。私の近くにみんなが座り、行儀よく入口付近に視線を向ける。

「先生の鬼蜘蛛です。よろしくお願いします」

 そこにいたのは人型の蜘蛛怪人だった。流石悪役学園、先生も見事な仕上がりっぷりだと心底思いました。

「鬼蜘蛛先生、先生はまさか……あの『破面ライダー』と死闘を繰り広げたSランクの賞金首の!?」
「ええ、まあ……まだ懸賞は生きていますので、人間界に行ったら大変なんですよね」

 人の(?)良さそうな笑みを複数ある瞳に浮かべながら6本ある腕の一つで頭を掻いて鬼蜘蛛先生が言葉を続けます。

「先生は破面ライダー1stとの激闘で爆散したと聞いたのですが、無事だったのですか?」

 智君から質問が飛びました。

「ええ、ええ。見事に爆散しましたよ。 あれは痛かったですねー、破面キックは何度喰らっても慣れませんね。 ええと、先生は復活怪人なので吹き飛ばされても核が無事なら再生可能なんです」
『おおー』

 復活怪人とは、体内の怪人核が無事に残れば再び再生することが出来る怪人の総称です。
 基本的に自走出来る訳ではないので仲間に核を回収してもらい専用の再生ポッドに入る必要がありますが、それで再生処理を施して貰えば元通りに復活をしたり更に強力な肉体に再生させることも可能な怪人たちにも人気の能力です。

「では、先生は以前と同様に復活を?」
「少しパワーアップして貰いましたよ。ですが歳のせいですかね? 最近蜘蛛糸の出が悪くてですね、爆散して倒された事もあって引退したんですよ。さいきん仙人様に声をかけて頂いたのでこうして教員として雇って貰うことも出来ました。学生の頃に教員免許を取っておいたのが功を奏しましたね」

 免許必要なんだ……。

「そういう訳で、出席を取りますね。まずは戦闘員達からです。戦闘員A」
「キキ、はいキキ」
「戦闘員B」
「キキ(はい)」
「戦闘員C」
「キキ(はい)」

 先生が順番に出席確認を行っていきます。どうでもいいですが、このクラスの戦闘員達がA~Zだとしたら、他のクラスの戦闘員達はなんて呼ばれているのでしょうか?

「はい。本日登校前に見事に潰されたワニ乃進君以外は全員いますね。おや、佐々木君は人間ですか、他の怪人や食性生物達に気を付けて下さいね」
「ありがとうございます。気を付けます」

 入学前に潰される生徒までいるとは、さすが魔界です。
 実際、今日も登校前に変な爬虫類型怪人に襲われかけて地面の染みにしてしまいました。
 がぶがぶ煩かったですね。
 あまり殺さないように気をつけることにします。

「はい、良い返事です。何かあったら先生に言ってくださいね」
「分かりました」
「優ちゃんは人間なのね? 何かあったらククリにも言うのよ? そんな輩がいたら一族郎党、場合によっては組織ぐるみで潰すからね?」
「ありがとうございます。まあ私もそこそこ戦えますから」
「魔界に単身で乗り込んでくる人間は珍しいからな、この辺りは学校のおかげで治安はいいから問題は起きないだろうけど。寮か?」
「いえ、実家から通いです」
「へー、どこのゲート使ってるの?」
「近所に『The 越後屋』があるのでそこからです」
「そうなんだ?」
「幹部候補の特待生は授業料減額に加えて交通費の支給もありますから、ゲート利用のパスを購入してあります。学校にも近いですから歩いて30分くらいで来れますよ」
「越後屋からなら大通りだから安心だな」
「ええ、通りが広かったので通りの方々に迷惑をかけず撃退出来ました」
「え?」
「え?」

 考え方をしながら歩いていたら攻撃されたので思わず手が出てしまいました。鱗が柔らかかったのか地面に叩きつけた瞬間にめり込んで肉の塊に変わってしまって…その前のお店の人に謝罪したところ『こっちでやっておくからいいよ。学校に遅刻しないでね』と、にこやかに対応してくれました。あの精肉店の店長さんはとても優しい方でした。

「ま、まあ。無事なら何よりだわ」
「今から配る学生バッチを目立つところにつけて置けば、狙われにくくなると思いますよ? 先生達が頑張ったのでこの辺りで我々学園の者に手を出す輩は大分減りましたから」

 Sランク怪人に迫られたらそりゃあ大人しくなりますよね。

「それでも人間はあまり魔界にはいませんから、皆さんも気にかけてあげてください。先生のクラスでまた死人がでたら悲しいですから、特に戦闘員達は身を挺して守る事。幹部を守るのは戦闘員の立派な仕事ですからね」
「「「キキ(はい!)」」」

「今日は生徒手帳や学生バッチの配布を終えたら終了です。後ろに回してください……はい、全員受け取りましたね。それでは本格的な授業は明日からですから、今日は、皆さん早めに帰ってゆっくり体を休めてください。そうですね、佐々木君、号令を」
「はい。起立」

『ザッ』

「礼」

 先生に頭を下げると、先生も礼を返してくれました。

「では皆さん、明日からよろしくお願いします」
「「「はい」」」
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