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わくわくのダンジョン研修

第31話 わくわくのダンジョン研修 5

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 オリエンテーションが終わり部屋から出ると、セナさんと見たことのない30代前半の男の人が並んで私を待っていました。

「お疲れ様でした、オリエンテーションはどうでしたか?」
「(バライティ番組としては)面白かったですよ?」
「それはよかったです、それでは早速お買い物としますか」

 あれ? この声はもしかして。

「私です、先生です」
「ああ、やはりそうでしたか。聞いたことのある声だと思いました」
「先生はこう見えて賞金首ですからね。人間の、特にこういった場所ですと色々と面倒ごとに巻き込まれてしまいますから、上から人型スーツを被っているんです」
「便利な道具なんですね」
「ええ、この時の私は村雲と呼んで下さい」
「わかりました村雲先生」

 中肉中背の美形の先生は、普段と同じくスーツを着こなしています。普段より心なしか身長が低くなっているのは人型スーツの効果でしょうか。

「ではセナさん、買い物の準備と佐々木くんの冒険者登録を」
「わかりました。冒険者登録から始めますね」
「でしたらこちらを。浦安と有明のダンジョンには登録してあるんですよね」

 私はお財布の中から以前作った冒険者登録証を取り出してセナさんへ渡した。

「あら、ゴールド会員! そうでしたか、それならば手続きもすぐですね。では先に買い物をしてしまいますか」

 セナさんはカウンターの近くにいた別の女性スタッフに私の冒険者カードを渡し、私たちを横のカウンターへと連れて行ってくれます。

「以前も冒険者として活動されていたのでしたら、細かい説明はいらないですか?」
「そうですね、買いたい物は大体決まっております」
「そうだったんですか。佐々木くんは意外と行動的…と意外ではないですね。停学二回目ですし」
「いやあ」

 照れますね。

「停学?」
「なんでもないです。それよりも買い物ですが…」

 カウンターの外の棚を珍しそうに鬼蜘蛛…村雨先生はいくつかのアイテムを手に持ってこちらに渡してきます。

「これが復活の札に、帰還の札。回復アイテムももちろんいるとして」
「先生。研修の三日間ずっとダンジョンの中に篭っていていいんですよね?」
「そうですね…研修期間とはいえ夜間は活動させませんから佐々木くんも夜間の活動は自粛してください」
「パーティを組む場合は難しそうですけど、極力気をつけます。それじゃあアイテムはそちらの札ではなく出すね…」

 私はセナさんのいるカウンターの後ろにあるアイテムに目を向ける。

「不壊の付与のかかっている復活の腕輪と同じく帰還の指輪を。それと一番小型の、このダンジョン限定でいいのでトラップサーチャー。あと導きの石版系のアイテム、%で回復を促す魔力回復ポーチョン、ポータルメモは上書きタイプでいいです」
「はい、在庫を確認しますね」
「あ、それとレスキューサーチャーも不壊の付与のタイプの物があるなら欲しいですね。マッパージャンパーはここては使用できますか?」
「て…手馴れてますね」
「初めて入るダンジョンですからね。準備しすぎて困る物でもないでしょうし。あ、万能薬ありますか?」
「これと、これと…あ、申し訳ありません。魔力ポーションは在庫が3つしかないですね。それと万能薬は売り切れで在庫がありません」
「しかたないですね。では毒と麻痺と石化と凍結と帯電と怠惰と暗闇と火傷の回復できるアイテムを各3つづつ。中級の物でいいですよ」
「かしこまりました。結構な量になりますので、お部屋までお運びいたしますね」
「お部屋?」
「ああ、そうですそうです。伝え忘れていました。佐々木くんはモンスタービレッジに泊まれないご様子でしたので、冒険者用のホテルをとっておきました。そちらに宿泊してください」
「この後ご案内致しますね。それとこのダンジョンでは怠惰の状態異常を撃ってくる敵はいませんのでこちらはご用意がありません」
「そうでしたか、ならば必要ないですね」
「移動手段としてホバーボードもお勧めですけど」
「そちらは自前のものがあるので平気です」
「それでしたらお会計になりますね。ホテル代も一緒にお会計でよろしいですか?」
「ええ、お願いします」
「はい、それでは合計で252万5000円となります」
「え!? もう一度いいですか!?」
「252万5000円です」

 にこやかに金額を伝えるセナさんに凍りつく鬼…村雲先生。

「思ったよりも安いと思ったのですが」
「大手のダンジョンと比較すればウチは良心価格ですよ、少なくともポーションや状態異常アイテムは他所より安いですし。この手のアイテムはウチのダンジョン内で生成できるアイテムが入手できますからね」
「問題があるようでしたら私が自分で払いますけれども」
「生徒には払わせられませんよ…えーっと…カードで…」
「はい、お支払いはご一括ですね」
「領収書下さい」

 なんでそこはキリッと言うんですか。

「経費で落ちなかったらどうしましょう。妻に殺されます…はあ、ではセナさん。あとはお願いしますね。先生は皆さんのところに戻りますので、佐々木くん頑張って下さいね」

 先生はそういうと裏手通用口に消えて行きました。

「あの、すいません」
「はい?」
「この冒険者証って…」
「えーっと、すいません。最後に使ったの5年くらい前ですから写真が古いですね」
「いえ、それはいいんですけれども。この経歴、本当に?」
「もちろんです」
「どうしましたか…あら?」
 
 先ほど私の冒険者証を受け取った係員のお姉さんが戻ってきました。

「これは見事な経歴ですね。ゴールド会員なのも頷きです」
「有難うございます」
「ではお部屋にご案内しますね? 鞄もお預かりいたします」
「有難うございます」

 セナさんは購入したアイテムと私の鞄を台車に乗せると、部屋まで案内してくれました。
 準備をしたら早速出発です。
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