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わくわくのダンジョン研修

第53話 わくわくのダンジョン研修 27

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「いたです。負け犬です」
「おいっ!」
「どうでした? 初めての死亡体験は」

 私達はダンジョンの管理事務所に戻ると、先に出てきていた弾君を見つけました。
 死亡した後遺症でかなりフラついています。
 上級の蘇生アイテムを使わないと、この後遺症のせいでその日にダンジョンへ再突入することは困難です。

「…あんた、強いんだな。どの辺が魔法使いなんだよ」
「私の場合はソロで戦い続けてきましたから」
「それも5年も前なんだろ?」
「まあ、その後も鍛え続けています。そもそも日本では満足に魔法が使えませんからね、魔法以外の技術も磨かないと戦ってはいられません。鍛え続けないと」

 色々と抜け道をつかって魔法を行使してますが、最後に信じられるのは自身の肉体です。

「鍛える…か」
「一朝一夕には身につかないですよ」
「だろう、な」
「とりあえず移動するです。なんだか事務所もずいぶん混雑してて居心地悪いです」

 そういえば途中で会った冒険者の、えーっと。なんとかって言う人がこのダンジョン注目されているって言ってましたね。

「帰還報告です。チームゆかな戻ったです」
「え!? 俺らそんな愉快な名前だったのか!」
「あ、私途中で合流した者です」

 言いながら三人、帰還報告カウンターで手続きを済ませます。

「お疲れ様でした。あら、佐々木様は…えっと、そうですね。後ほど宿泊先にスタッフを訪ねさせますね? 前もって戻られたパーティの方々から伝言と報酬を預かっております」

 殲滅高校の方々からです。そういえばあれのせいでこのダンジョン混雑してるんですよね。
 それがわかっているからか、受付の方も言葉を選んでます。

「とりあえず、清算はホテルのPCで出来ますから移動しますか。私の部屋に行きましょう」
「用意がいいです!」
「たまたまですよ。行きましょう」

 私とゆかなさんは別にいらないのですが、色々と入用らしい弾君の為にドロップ品は適当に拾って来ましたので一括で販売しちゃいましょう。

「え? 俺もいいのか」
「清算しないと話になりませんし、お祝いもしなければいけませんからね」
「ですです! ルームサービス頼むです!」
「はあ? 帰るんじゃないのか?」
「それとこれは別です」

 そそくさとその場を離れると、エレベーターを使い宿泊施設に移動します。
 ちなみに移動先は日本だったりします。



「では弾君の、初死亡を祝して」
「「かんぱーい(です)!」」

 ポカンとした表情の弾君、まあそうですよね。私も最初は驚きました。

「え? え? これって祝うことなのか!?」
「勿論です! 初めて死んで復活です! ある意味新しい誕生日です!」
「ダンジョンでは死が蔓延していますからね。こうやって死んだ日を記憶しておいて死に慣れないようにするんです。死んでみてどうでした?」
「どうって、そりゃあ痛かったし、苦しかったし…なんかすげー怖かった」
「当たり前です。死んだですよ?」
「そうだけど! そうなんだけど!」
「その感覚は忘れないほうがいいです。時にHERO続ける気ならです」
「っ!」

 私は飲み物を手に取り口をつけます。
 意外と疲れていたようです。やはりダンジョンは神経を使います。

「以前ダンジョンで組んだHEROがいたです。彼は死の感覚を覚えてからは大活躍です。同じ思いを人にさせてはならないと言ってたです、子供達にこんな辛くて怖い思いをさせるわけにはいかないって言ってたです」
「そうなのか」
「あと逆に死を身近に感じる様にする訓練に使われたりもするです。HERO専用のダンジョンがあるっていう話も聞くです」

 へえ? そんな場所があるんですか。

「実際あるな。最初の頃に先輩に誘われたんだけど…その時は断ったんだ」
「何故です?」
「…正直バカにしてた。HEROがダンジョンで鍛えるだなんて考えてもみなかった。俺はスーツアクターの才能を見込まれて破面を被ったっていうのあるんだけど、腕っぷしには自信があったから訓練なんかいらねえって」
「バカです」
「訓練もせずに戦えるわけないですね」

 やはりこの男嫌いです。

「ダンジョンでは死ねるです、つまり自分がどこまでなら死なずにすむかを安全に測れるんです。HEROたるもの死を恐れずに戦う日が必ず来るです! でもどこまでならいけるか、どこからなら死ぬか、知らなければ命もかけれないです」
「なんかお前の方がHEROっぽいな」
「ゆかなはHEROだなんて偉そうなこと出来ないです。外で怪人にあって何度もぶっ叩いてるですが、勝てないと思ったら即座に逃げるです。周りの事なんか知らないです」
「なるほど」
「ゆかなみたいに逃げる人はHEROじゃないです。世の為人の為なんて無理です。ゆかなはゆかなの為だけにぶっ叩いてぶっ潰すです」

 極論な気もしますが、言わんとしてることはなんとなく分かります。
 私もいずれ成長したときに立派な筋肉を作り、その筋肉を腐らせない為に戦闘訓練を行っているわけですから。
 …悪の組織による肉体改造手術は最終手段です。

「なあ、明日も来ないか?」
「ゆかなです? その先輩と一緒に専用のダンジョンに行けばいいです」
「それは、その」
「あれですね。一度断った手前頼みにくいのですね」
「そうです!」
「あははは、男は阿呆です! まあゆかなはいいですよ?」
「そうか、ありが…そっちはどうだ?」
「私ですか?」
「ああ、あんたの強さをもっと見てみたいんだ。頼めないか?」

 HEROと活動を共にする悪役って…ああ、結構いますね。
 筋肉量の足りないこの男はポンコツと言うべき存在ですので組むのはあまり乗り気にはなれませんが、新しい仲間を募集するのも面倒ですしいいでしょう。

「明日までこちらにいる予定ですので、構いませんよ」
「そうか! じゃあ明日な!」
「まあまあ、焦らなくてもいいです。とりあえずルームサービス食べるです。清算したお金で払うですからほぼほぼ食べ放題です!」

 そんなこんなで3人で打ち上げをしました。
 話によると、弾君は本当にHERO成り立てだった様子。
よかったです、破面ライダーの中ではまだまだ新米。本物の破面ライダー達は本気で化け物染みている話がきっちり聞けました。
 てかゆかなさん無茶苦茶食いますね。
 どこにそんなに入るのですか。
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