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極道と王様

極道と初期装備

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御意ぎょいにっ!」

その兵士達の声に、呼応したかのように、銃声が幾度となく、とどろき渡る。

パァン パァン パァン パァン パァン

白く輝く、美しい壁には、血飛沫ちしぶきが飛び散り、床には、真っ赤な鮮血が、広がって行く。

つい数秒前まで、血気盛んであった兵士達、十名が、刹那せつなで、血を流して、動かない、むくろと化した。

その場に居る一同、一瞬の出来事に、何が起こったのか、理解が追いついてはいなかった。ただ一人、石動不動いするぎふどうを除いては。

「あーあっ」

「おいっ、どうすんだよっ? 国王さんよおっ」

「あんたの不用意な判断のせいで、
忠実な部下を、こんなに、死なせちまったぜっ?」

自分がやったことでも、他人のせい、そこは極道たる所以ゆえんか。


王もまた、不測の事態に、動揺を隠せない。

「まっ、魔法かっ!?」

だが、石動をよく見れば、先程までは何も持っていなかったはずの手に、何かを持っている。

「いっ、いやっ、武器かっ!」

「こやつっ、見た事もないような武器を、手に隠し持っておるぞっ!」

それは、石動が、異世界に転生する際に、女神アリエーネから与えられた、初期装備の武器、拳銃であった。

-

「こっ、これはっ、由々しき事態でございますぞっ!」

降って湧いた、血の惨劇に、三卿も、体の震えが止まらない。

「セキュリティチェック、身体検査は、ドロリー卿の部下が行った筈ではっ!?」

「そもそもの警備責任者は、トンドル卿ではございませんかっ!」

「いっ、いやっ、この中にいる、勇者の内通者が、渡したのかもしれませぬぞっ!」

しかし、こんな非常時でも、責任逃れが優先順位の第一位、ちゃんと相手を蹴落とすことも忘れない。

実際のところは、アロガ王が、大層なご高説をぶっている間に、石動が、こっそりと、コンパネから、初期装備である拳銃を取り出し、隠し持っていたに過ぎないのだが。

 ――まぁっ、転生とやらの前に、ちゃんと説明を聞いておいて、助かったなっ

-

生き残っている兵士達は、石動に向かい、身構えてはいるが、状況が分かないため、迂闊に動くことすら出来ない。

「あんちゃん達よぉっ、せっかく鎧着てるのに、頭丸出しってのはどういうことだいっ?」

「そんなに死にたいのかっ?」

「まぁっ、俺は、眉間は外さないぜっ?」


「陛下の御前では、頭部装備を外すべきと、強く提言されたのは、ボヤルド卿でございましたなっ!?」

「いっ、いやっ、それは、スパイや陛下のお命を狙う暗殺者が入り込まないよう、顔をしっかり見せるという、セキュリティ対策であって……」

「これはっ、追及責任がございますなっ!」

三卿にとっては、兵士達の命よりも、追及責任優先ということなのか。


「何をしておるっ!早く、その者を捕らえぬかっ!」

苛烈な王は、それでも、力でのごり押しを辞さない、それもまた、覇王としてのプライドなのか。

「まあっ、あれだな、大将が馬鹿だと、あんちゃん達も、大変だなっ」

さすがに、石動も呆れて、兵士達への同情を禁じ得ない。

「まぁっ、しかし、武器持って襲って来る以上、あんちゃん達にもられる覚悟ぐらい、あるよなっ?」

パァン パァン パァン パァン パァン

そう言い終えるや否や、非情にも、再び、銃声が何度も鳴り響く。


弾丸は、兵士達の眉間を貫き、背にする壁の深くまで食い込でいる。

「しかしっ、すげぇ威力だな、この拳銃チャカ
……まぁっ、この威力なら、メット被ってても、無駄だったかもなっ」

 ――やはりっ、こいつは、普通の拳銃チャカじゃあねえんだなっ

 弾数制限がないってのも、便利過ぎるっ

この初期装備の銃は、石動の生命エネルギーを源泉としているために、弾数に制限がない。強いて言うならば、石動の生命エネルギーが尽きた時が、弾切れということになる。

-

いかつい、強面こわもての、極道の集団を相手に、転生の間で開催された、女神による集団レクチャー。そこで、アリエーネは、若干、おびえながら、生命エネルギーについて、説明をしていた。

『みなさんが、転生する世界では、生命エネルギーというのが、非常に重要になります……そして、ここに居るみなさんは、転生先の世界の、どの生命体よりも、遥かに強い生命エネルギーを持っているのです』

『つまり、そもそもの、みなさんの生命力自体が、新たな世界では、チートレベルということになるのです』

『そして、それが、こうした異世界転生が、頻繁に行われる理由でもあります……』

簡単に言ってしまえば、生命エネルギーが強い者達を選抜して、転生と称し、異世界に放り込んでいるということ。それで、今回、生命力が半端ない、極道の集団が大量に、集団転生するハメになったということらしい。

-

「ひえぇぇぇっ」
「ぬっ、ぬぬぬっ」
「あわわわっ」

この場に同席した、護衛の兵士達が、全滅したという事実を前に、部屋の片隅で、小さくなって震えている三卿。

普段は、インテリを気取っているくせに、思考停止してしまっており、冷静さは全く見られない。

「きっ、貴公ら、ワシの後ろに隠れようとするなっ! ワシは、肉の盾ではござらんぞっ」

筋肉マッチのトンドル卿を前面に押し出し、その後ろに隠れようとする、ボヤルド卿とドロリー卿。

「その無駄な肉、いっ、いやっ、鍛えあげられた筋肉の、今こそ出番ではございませんかっ!」

「そうですともっ!我々は脳筋ではないっ!
い、いや、頭を使うのが専門なのですぞっ!」
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