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極道と冒険者ギルド
極道とギルドマスター
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「いただきましたっー!!」
大きな荷物を抱え、足取り軽やかに、スキップしながら、アラクレンダの町を往くのは、スキンヘッドで、左頬に傷がある大男。石動の落書きを注意した人物だ。
この男こそが、アラクレンダの冒険者ギルドを仕切る、ギルドマスター。
稲妻のように素早く、サイクロンの如く大暴れする、そこから付けられた二つ名は、イナズマサイクロン。
大口のクライアントから受けたクエスト依頼、その莫大な成功報酬の集金が済んで、現在、大喜びで、浮かれて、絶頂している。
今は陽気にスキップなんぞをしているが、これでも、一昔前は、泣く子も黙るアラクレンダの暴帝・イナズマサイクロン、そんな異名を欲しいままにしていた。
-
「おやおやっ、随分と、ご機嫌じゃあないですか? ギルドマスター」
声がした方を振り返るギルドマスター、荷物を持つその手にも力が入る。
「誰かと思えば、隊長さんじゃねえかっ、なんだっ、金のニオイでも嗅ぎつけて来たのかっ?」
そこ居たのは、アラクレンダの衛兵隊、その隊長であるイバイ・バンキ。
「こんな大男がニヤついて、スキップなんかしてたら、そりゃあ、目立ちますからねえ」
こういう時には、いつも必ず、どこからともなく現れる衛兵隊長イバイ・バンキ。
「あんたへの袖の下は、ちゃんと、別にとってあるから、まぁっ、後で、取りに来な……」
そこまで言って、突然、何かを思い出したギルドマスター。
「そうだっ」
「あんたんとこの若いのが、うちの連中に、随分と、舐めた口を聞いてくれたらしいじゃねえかっ」
先日の、冒険者のお戯れを止めようとした新米衛兵の話を、ルカビから聞いていたのだ。
長年、アラクレンダの町で、暴帝として君臨して来たギルドマスターとしては、この町で冒険者が舐められたとあっては、示しがつかない。このまま、黙って見過ごす訳にはいかないのだ。
「まぁっ、そいつは、私の命令に逆らったので、もう処罰しましたがね」
イバイ・バンキもまた、内心では、冒険者達のことを、ただの脳筋として、見下しており、いい金蔓ぐらいにしか思ってはいない。
「後で、あんたの部下も、全員連れて来な、俺が、改めて、冒険者の有り難みを、きっちり、教えてやるからよっ」
「それはそれは、お手柔らかに頼みますよ」
お互いに利害関係が一致しているから、手を組んでいるというだけで、この二人、決して蜜月の関係という訳でもなく、こうしたマウントの取り合いが、常に繰り広げられていた。
-
荷物を抱えた帰路、ようやく見えて来たギルドの酒場。
「妙だな……」
その窓に見え隠れする光景に、違和感を覚えるギルドマスター。
「なんだかっ、やけに肌色が目立つじゃねえかっ」
鮮烈に、目に焼き付きそうなぐらいに、肌色が多過ぎる。
「何やってんだっ? あいつら……」
酒場に近付くにつれて、ハッキリと見えて来る、あまりにも、日常とはかけ離れ過ぎている光景を目にし、ギルドマスターは異変に気づく。
「娼婦でも、大量に呼びやがったのかっ?」
しかし、娼婦らしい女の姿は見当たらず、いつも見慣れた冒険者の連中が、全裸で、汗だくになりながら、店内を動き回っているだけ。
その奇妙な非日常空間を見たギルドマスターの脳裏を過ぎる、嫌な予感。何か、とんでもないことが起こっているのではないかと、ザワザワする胸騒ぎ。
これまでの冒険者としての経験値が、ギルドマスターの本能が、このまま、酒場に足を踏み入れては危険だと、そう警告しているのか。
どうすべきか、思い悩んでいるギルドマスター、そこで、閃きが走る。
「そっ、そうかっ……」
これもまた女神アリエーネの天啓なのか。
「あっ、あいつらっ……」
「女だけじゃあ、飽き足らずに、ついに、男に走りやがったのかっ!?」
思いっきり全力で、間違った方向に走り出す、ギルドマスターの思考。
一度そう思いはじめると、もうそうとしか思えなくなる。
――そうか、そうだったのか……
どうりで、最近、野郎どもが、俺に、妙に熱い視線を送って来やがると思っていたんだ……
この人は、ちょっと、自意識過剰なところがあるのかもしれない。
――いつも、いやらしい下卑た笑いでニヤつき、野獣のようなギラギラした目で、殺気を放ってやがったのも……
それも、すべては、恋の駆け引きだったってえことか……
だが、切った張ったを、惚れた腫れたに変換して考えると、辻褄が合うことも多く、合点が行く。
そう思ったら、居ても立っても居られなくなったギルドマスター。
「しかも、俺が留守にしている隙を見計らって、こんな大乱交までしてやがるだなんて……」
「ちくしょうっ、俺としたことが、なんで、今まで全く、気づかなかったんだ……」
ブツブツ言いながら、足早に、ギルドの酒場へと歩を進めて行く。
――最近、これまでのパーティーを解散して、新しいメンバー同士でパーティーを組む連中が増えて来たと、気になってはいたが……
それも、色恋が関係してやがったに違えねえ……
もうすでに、そんなに、ただれちまってるのかい、あいつらの恋模様は……
バンッ!
ウエスタンドアを勢いよく開け放ち、怒鳴るギルドマスター。
「てっ、てめえらっ、ここをハッテン場にしてやがったんだなっ!?」
この思い込みの激しさは、若干病んでいるのではないかと、心配にならなくもない。
-
「ギッ、ギルドマスターッ!?」
この惨状を救ってくれる、最後の頼みの綱であったはずのギルドマスターまでもが、意味不明なことを言い出していて、困惑しかない、全裸の冒険者達。
「こんなのが、教会にバレてみろっ!」
一応、ギルドマスターが、これだけ、慌てふためいているのにも、理由がない訳ではない。
「てめらだって、大陸統一教会が、同性愛を禁止してるのを知らねえ訳じゃあねえだろっ!」
「魔女狩りされて、火炙りにされちまうぞっ!」
とんでもなく屈強なマッチョ、小汚くて、むさ苦しい男達、約二十名をつかまえて、魔女というのはいかがなものであろうか。もはや、この世界では『魔女』は、概念か何かなのか。
-
「おいっ、なんだっ? 同性愛禁止ってえのはっ?」
ちょうど、その声が聞こえた石動は、店の奥から出て来て、カウンターに居るバオカに尋ねた。
「あんた、いくら、余所者だからって、大陸統一教会を知らねえ訳じゃあねえだろ?」
女神アリエーネを信仰し、絶対神として崇め奉る大陸統一教会。それは、この国のみならず、人間領すべての国に、ネットワークを構築している一大組織。
ある意味で、アロガエンス王国よりも力を持った最大勢力。
そして、このアラクレンダの暴帝ですら、ビビるほどの、信徒兵という名の軍事力を有している。
この世界の人間が、それを知らないというのは、どう言ってみたところで、さすがに無理がある。
「いやっ、知らねえなあっ」
その返答を訝しがるバオカ。
「あんた、余所って、まさか、魔王領からでも来たのかい?」
「……」
その問いに、ダンマリを決め込む石動。
今はまだ、別世界から来た人間だと、明かさないことに決めていた。
女神の都合で、勇者として指名され、勝手に異世界に転生させられて来たが、まだ、自分の意志で勇者になると決めた訳ではない。だから、今は、自らを勇者と名乗ることもしない。
「まあいい……」
深追いをして、機嫌を損ねたくないバオカは、それ以上は聞くのを止め、話を続ける。
「この大陸で最も権力のある、大陸統一教会は、同性愛を禁止してやがんだよ」
「宗教都市マジアリエンナの司祭、ムクロガレイアンが、新訳の教典ってえのを出してからな、人間領じゃあ、同性愛は禁止ってことになってんのさ」
その話に、石動は顔をしかめる。
「それもまたっ、気に入らねえ、話だなっ」
石動が所属していた組、威勢会、そこの弟分には、武闘派のオネエキャラ、アイゼン(本名鉄太郎)が居る。
アイゼンもまた、真央連合との抗争で死に、この世界に転生して来ているはずで、そのことが石動の脳裏を過ぎった。
――まぁっ、いずれ、その教会とやらとも、対立することになるんだろうなっ
石動には、そんな予感がしてならなかった。
「……で、あれが、あんたが会いたがっていたギルドマスター、イナズマサイクロンだが……」
そう言われて、改めて、怒れる声の主であるギルドマスターを見やる石動。
「あぁっ、あいつは、さっきのハゲじゃねえかっ」
大きな荷物を抱え、足取り軽やかに、スキップしながら、アラクレンダの町を往くのは、スキンヘッドで、左頬に傷がある大男。石動の落書きを注意した人物だ。
この男こそが、アラクレンダの冒険者ギルドを仕切る、ギルドマスター。
稲妻のように素早く、サイクロンの如く大暴れする、そこから付けられた二つ名は、イナズマサイクロン。
大口のクライアントから受けたクエスト依頼、その莫大な成功報酬の集金が済んで、現在、大喜びで、浮かれて、絶頂している。
今は陽気にスキップなんぞをしているが、これでも、一昔前は、泣く子も黙るアラクレンダの暴帝・イナズマサイクロン、そんな異名を欲しいままにしていた。
-
「おやおやっ、随分と、ご機嫌じゃあないですか? ギルドマスター」
声がした方を振り返るギルドマスター、荷物を持つその手にも力が入る。
「誰かと思えば、隊長さんじゃねえかっ、なんだっ、金のニオイでも嗅ぎつけて来たのかっ?」
そこ居たのは、アラクレンダの衛兵隊、その隊長であるイバイ・バンキ。
「こんな大男がニヤついて、スキップなんかしてたら、そりゃあ、目立ちますからねえ」
こういう時には、いつも必ず、どこからともなく現れる衛兵隊長イバイ・バンキ。
「あんたへの袖の下は、ちゃんと、別にとってあるから、まぁっ、後で、取りに来な……」
そこまで言って、突然、何かを思い出したギルドマスター。
「そうだっ」
「あんたんとこの若いのが、うちの連中に、随分と、舐めた口を聞いてくれたらしいじゃねえかっ」
先日の、冒険者のお戯れを止めようとした新米衛兵の話を、ルカビから聞いていたのだ。
長年、アラクレンダの町で、暴帝として君臨して来たギルドマスターとしては、この町で冒険者が舐められたとあっては、示しがつかない。このまま、黙って見過ごす訳にはいかないのだ。
「まぁっ、そいつは、私の命令に逆らったので、もう処罰しましたがね」
イバイ・バンキもまた、内心では、冒険者達のことを、ただの脳筋として、見下しており、いい金蔓ぐらいにしか思ってはいない。
「後で、あんたの部下も、全員連れて来な、俺が、改めて、冒険者の有り難みを、きっちり、教えてやるからよっ」
「それはそれは、お手柔らかに頼みますよ」
お互いに利害関係が一致しているから、手を組んでいるというだけで、この二人、決して蜜月の関係という訳でもなく、こうしたマウントの取り合いが、常に繰り広げられていた。
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荷物を抱えた帰路、ようやく見えて来たギルドの酒場。
「妙だな……」
その窓に見え隠れする光景に、違和感を覚えるギルドマスター。
「なんだかっ、やけに肌色が目立つじゃねえかっ」
鮮烈に、目に焼き付きそうなぐらいに、肌色が多過ぎる。
「何やってんだっ? あいつら……」
酒場に近付くにつれて、ハッキリと見えて来る、あまりにも、日常とはかけ離れ過ぎている光景を目にし、ギルドマスターは異変に気づく。
「娼婦でも、大量に呼びやがったのかっ?」
しかし、娼婦らしい女の姿は見当たらず、いつも見慣れた冒険者の連中が、全裸で、汗だくになりながら、店内を動き回っているだけ。
その奇妙な非日常空間を見たギルドマスターの脳裏を過ぎる、嫌な予感。何か、とんでもないことが起こっているのではないかと、ザワザワする胸騒ぎ。
これまでの冒険者としての経験値が、ギルドマスターの本能が、このまま、酒場に足を踏み入れては危険だと、そう警告しているのか。
どうすべきか、思い悩んでいるギルドマスター、そこで、閃きが走る。
「そっ、そうかっ……」
これもまた女神アリエーネの天啓なのか。
「あっ、あいつらっ……」
「女だけじゃあ、飽き足らずに、ついに、男に走りやがったのかっ!?」
思いっきり全力で、間違った方向に走り出す、ギルドマスターの思考。
一度そう思いはじめると、もうそうとしか思えなくなる。
――そうか、そうだったのか……
どうりで、最近、野郎どもが、俺に、妙に熱い視線を送って来やがると思っていたんだ……
この人は、ちょっと、自意識過剰なところがあるのかもしれない。
――いつも、いやらしい下卑た笑いでニヤつき、野獣のようなギラギラした目で、殺気を放ってやがったのも……
それも、すべては、恋の駆け引きだったってえことか……
だが、切った張ったを、惚れた腫れたに変換して考えると、辻褄が合うことも多く、合点が行く。
そう思ったら、居ても立っても居られなくなったギルドマスター。
「しかも、俺が留守にしている隙を見計らって、こんな大乱交までしてやがるだなんて……」
「ちくしょうっ、俺としたことが、なんで、今まで全く、気づかなかったんだ……」
ブツブツ言いながら、足早に、ギルドの酒場へと歩を進めて行く。
――最近、これまでのパーティーを解散して、新しいメンバー同士でパーティーを組む連中が増えて来たと、気になってはいたが……
それも、色恋が関係してやがったに違えねえ……
もうすでに、そんなに、ただれちまってるのかい、あいつらの恋模様は……
バンッ!
ウエスタンドアを勢いよく開け放ち、怒鳴るギルドマスター。
「てっ、てめえらっ、ここをハッテン場にしてやがったんだなっ!?」
この思い込みの激しさは、若干病んでいるのではないかと、心配にならなくもない。
-
「ギッ、ギルドマスターッ!?」
この惨状を救ってくれる、最後の頼みの綱であったはずのギルドマスターまでもが、意味不明なことを言い出していて、困惑しかない、全裸の冒険者達。
「こんなのが、教会にバレてみろっ!」
一応、ギルドマスターが、これだけ、慌てふためいているのにも、理由がない訳ではない。
「てめらだって、大陸統一教会が、同性愛を禁止してるのを知らねえ訳じゃあねえだろっ!」
「魔女狩りされて、火炙りにされちまうぞっ!」
とんでもなく屈強なマッチョ、小汚くて、むさ苦しい男達、約二十名をつかまえて、魔女というのはいかがなものであろうか。もはや、この世界では『魔女』は、概念か何かなのか。
-
「おいっ、なんだっ? 同性愛禁止ってえのはっ?」
ちょうど、その声が聞こえた石動は、店の奥から出て来て、カウンターに居るバオカに尋ねた。
「あんた、いくら、余所者だからって、大陸統一教会を知らねえ訳じゃあねえだろ?」
女神アリエーネを信仰し、絶対神として崇め奉る大陸統一教会。それは、この国のみならず、人間領すべての国に、ネットワークを構築している一大組織。
ある意味で、アロガエンス王国よりも力を持った最大勢力。
そして、このアラクレンダの暴帝ですら、ビビるほどの、信徒兵という名の軍事力を有している。
この世界の人間が、それを知らないというのは、どう言ってみたところで、さすがに無理がある。
「いやっ、知らねえなあっ」
その返答を訝しがるバオカ。
「あんた、余所って、まさか、魔王領からでも来たのかい?」
「……」
その問いに、ダンマリを決め込む石動。
今はまだ、別世界から来た人間だと、明かさないことに決めていた。
女神の都合で、勇者として指名され、勝手に異世界に転生させられて来たが、まだ、自分の意志で勇者になると決めた訳ではない。だから、今は、自らを勇者と名乗ることもしない。
「まあいい……」
深追いをして、機嫌を損ねたくないバオカは、それ以上は聞くのを止め、話を続ける。
「この大陸で最も権力のある、大陸統一教会は、同性愛を禁止してやがんだよ」
「宗教都市マジアリエンナの司祭、ムクロガレイアンが、新訳の教典ってえのを出してからな、人間領じゃあ、同性愛は禁止ってことになってんのさ」
その話に、石動は顔をしかめる。
「それもまたっ、気に入らねえ、話だなっ」
石動が所属していた組、威勢会、そこの弟分には、武闘派のオネエキャラ、アイゼン(本名鉄太郎)が居る。
アイゼンもまた、真央連合との抗争で死に、この世界に転生して来ているはずで、そのことが石動の脳裏を過ぎった。
――まぁっ、いずれ、その教会とやらとも、対立することになるんだろうなっ
石動には、そんな予感がしてならなかった。
「……で、あれが、あんたが会いたがっていたギルドマスター、イナズマサイクロンだが……」
そう言われて、改めて、怒れる声の主であるギルドマスターを見やる石動。
「あぁっ、あいつは、さっきのハゲじゃねえかっ」
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