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極道と冒険者ギルド
極道とアラクレンダの衛兵隊
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「ごっ、強盗だあっ!!」
リベンジを誓った矢先、窓の外に衛兵隊を見つけたギルドマスターは、大声でそう叫んだ。
――へへっ、こりゃあいい、あの野郎、本当にこの町の衛兵どもを、みんな連れて来やがった
まだ、俺には運がある、女神様は俺を見捨てちゃあいねえっ
町の人々が、何か大事件でもあったのではないかと、振り返って注目するぐらいの大人数。約五十名の衛兵達が、隊列をつくって、向かって来ている。
馬に騎乗して、それを先頭で率いているのは、隊長であるイバイ・バンキ。
この大人数でギルドの酒場を取り囲んで、ギルドマスターに、少し圧でも掛けてやろう、イバイ・バンキからすれば、そんな思惑もあった。もちろん、賄賂の金額アップのために。
「んっ? 強盗っ?」
叫び声に反応するイバイ・バンキ。
「いっ、いかんっ……このままでは、私がもらうはずの金が、盗まれてしまうではないかっ」
こんな時でも、心配するのは賄賂、金のこと。
「たっ、ただちにっ、賊を取り押さえるのだっ!!」
賊が人質を取って、酒場に立て篭もる可能性、そんなものは一切考えていない。もし仮にそうなったとしても、人質の命はガン無視で、全軍突撃を敢行して、賊を取り押さえる、それがこの世界における治安維持クオリティーでもある。
この町の伝説的冒険者イナズマサイクロンが助けを求めるほどの賊が押し入っている、よく考えれば、それがどういう状況なのか分かるはずなのに、金に目が眩んでいるイバイ・バンキは、そのことに全く気づきもしない。
「なっ、なんとしてでも、私の金を守らねばっ……もちろん、部下の力で」
自分の金を、他人の命で守らせようとする小悪党ムーブも忘れない。
-
「なっ、なんかっ、誰か叫んだわよっ?」
「うん、なんかっ、『強盗』とか言ってた?」
その展開にやはり、ビビッているバトゥコタとズッチィ。
そんなことにはお構いなしに、集められたお宝を、均等に山分けしようと、石動は必死だ。
「強盗って、もしかして、僕らのことなんじゃないかな?」
普段は鈍感なムゥジャが、こんな時ばかりは、何故か勘がいい。
「なっ、なんで、あたし達まで、強盗ってことになってんのよっ!」
「うっ、うん、まぁっ、身に覚えが全くないと言ったら、嘘になるけど」
全裸で正座させられている冒険者を前に、集められた金銀財宝を山分けしている一党、状況的には、誰がどう見ても強盗で間違いないだろう。
「そっか、僕ら、賞金首になったりするのかなぁ」
ムゥジャはことの重大さが分かっていないのか。
「まぁっ、気にすんな、放っておけっ」
田舎から出て来て、冒険者になりたかっただけなのに、すぐにレイプされそうになるわ、何故か、今度は勝手に、強盗の仲間扱いされるわ、さらに、クライアントであるはずなのにも関わらず、雇った大男にNOと言うことすら出来ない。
「とっ、都会って、めっちゃっ、コワイとこなんですけどっ」
「うっ、うん、田舎じゃ、とても考えられないっ」
全く生きた心地がしない、バトゥコタとズッチィ。
-
「このっ! 賊どもめっ!!」
「大人しくしろっ!!」
イバイ・バンキに命令された兵士達が大挙して、酒場の入り口へと押し寄せて来る。
「ほっ、ほらぁっ、『ども』って言っちゃってるじゃあないのっ!!」
「うっ、うん、完全に複数形扱いされてる」
完全にテンパって、ギャーギャー喚くバトゥコタとズッチィ。
「うるせえっ」
コンパネを操作して、銃を取り出す石動。
「今、取り込み中だっ」
パァン パァン パァン
そのまま、ノールックで、向かって来た衛兵の群れに発砲する。
眉間を撃ち抜かれて、入り口にバタバタと倒れ込み、血を流して動かなくなる衛兵達。
「失せろっ」
あっという間に、酒場の入り口、ウエスタンドアの前は、屍の山で塞がれた。
「ひぃっ、ひぃぃぃぃぃっ」
『うるせえっ』と言われたのが、自分達だと勘違いしたバトゥコタとズッチィ。
発砲音がする度に、体をビクッとさせてビビり、いつの間にか二人は、怖さのあまりに、お互いに抱きついて、震えていた。
さらには、出来上がった死屍累々を見て、ついに、その場にヘナヘナとへたり込む。
その様は、もはや、ただの怯える小動物のようで、もう本当におしっこでも漏らしそうな勢いでビビッていた、いや、もうすでに、ちょっとぐらいは尿漏れしてしまっているのかもしれない。
「ええっ……」
だが、それは女子二名に限ったことではなく、ギルドマスターをはじめとする、この場に居合せた全裸の冒険者達、みなが同じく、ただ茫然とするばかりだった。
この時はじめて、ようやくと言ってもいいが、ギルドマスターを含めた冒険者達は、これでも相当、石動に手加減されていたという真実に気づいた。
彼らからすれば、魔法なのだか、武器なのだか、よく分からない妙な方法、いずれにしても、それを使えば、ここに居る全員を瞬殺することも可能で、それは容易に想像が出来る。
離れた所から、ほぼノーモーションで連射が可能な、殺傷力の高い武器、この世界には、そんなものは、まだ存在していないのだ。
「……とっ、とりあえず、あっしらも、お手伝いしますよ」
目の前に居る大男に、自分の生死が委ねられており、その男の気分次第で、いつ殺されるかも分からない、そのことに改めて気づいた全裸の冒険者達は、石動と三人組の作業を手伝いはじめる。
力なき弱者には、滅法強いが、自分より強い者には、滅法弱い。それが彼らの生き残る術、サバイバル術でもあるのだろう。
「……そっ、そうですよね、ちゃんと、山分けしないと不公平ですからね」
もはや、生きているだけでも、儲けもの。下手に機嫌を損ねない内に、このまま、お宝を持って、早くここから立ち去って欲しい、そして、この全裸正座から早く解放されたい、それが冒険者達の本音だ。
やはりここでも、ギルドマスターは除くが、冒険者達の心は一つになっていた。
『たっ、頼むから、このまま、早く帰ってくれっ!!』
-
「ええっ……」
命令をするだけして、後方の安全な場所から、傍観していた衛兵隊長イバイ・バンキ。部下達が、見る見る間に、散って往く様に、思わず声を出した。
「もうっ、そんなに死んじゃいましたかっ」
あっという間に、酒場の入り口に、山となって積まれた、部下達の亡骸。
「たっ、隊長っ、賊は、妙な術らしきものを使うようですっ!」
果敢に突撃して行った兵士達も、酒場の入り口が、仲間の死体の山で塞がれた時点で、一度戻って来ていた。しかし、もうすでに、兵力の三分の一近くを損耗している。
「うーん……」
さすがに、そんな光景を見せられては、いくらハイエナの如く、金に意地汚いこの男でも、いささか考えを改めねばならない。
「そっ、そうですねっ……」
この上なく、金は惜しいが、そこはやはり、命あっての物種だ。
「こっ、これはっ、冒険者同士の痴話喧嘩みたいですねっ、私達が関与する案件ではありませんっ」
冒険者同士の喧嘩を、衛兵が止めなくて、誰が止めるというのか? 非武装の一般人が、これを仲裁するというのは、かなり荷が重い話だが。
「彼らのお邪魔をしてもなんですから、今日のところは一旦、帰りましょう、また、日を改めて、出直して来るということで」
謎理論を、さも正当な判断であるかのように部下に語って、イバイ・バンキは、早々に、この場から撤退することに決める。
金の切れ目が縁の切れ目、簡単に言ってしまえば、ギルドマスターを見限って、裏切ったということだ。
「金も惜しいですけど、命はもっと惜しいですからね」
リベンジを誓った矢先、窓の外に衛兵隊を見つけたギルドマスターは、大声でそう叫んだ。
――へへっ、こりゃあいい、あの野郎、本当にこの町の衛兵どもを、みんな連れて来やがった
まだ、俺には運がある、女神様は俺を見捨てちゃあいねえっ
町の人々が、何か大事件でもあったのではないかと、振り返って注目するぐらいの大人数。約五十名の衛兵達が、隊列をつくって、向かって来ている。
馬に騎乗して、それを先頭で率いているのは、隊長であるイバイ・バンキ。
この大人数でギルドの酒場を取り囲んで、ギルドマスターに、少し圧でも掛けてやろう、イバイ・バンキからすれば、そんな思惑もあった。もちろん、賄賂の金額アップのために。
「んっ? 強盗っ?」
叫び声に反応するイバイ・バンキ。
「いっ、いかんっ……このままでは、私がもらうはずの金が、盗まれてしまうではないかっ」
こんな時でも、心配するのは賄賂、金のこと。
「たっ、ただちにっ、賊を取り押さえるのだっ!!」
賊が人質を取って、酒場に立て篭もる可能性、そんなものは一切考えていない。もし仮にそうなったとしても、人質の命はガン無視で、全軍突撃を敢行して、賊を取り押さえる、それがこの世界における治安維持クオリティーでもある。
この町の伝説的冒険者イナズマサイクロンが助けを求めるほどの賊が押し入っている、よく考えれば、それがどういう状況なのか分かるはずなのに、金に目が眩んでいるイバイ・バンキは、そのことに全く気づきもしない。
「なっ、なんとしてでも、私の金を守らねばっ……もちろん、部下の力で」
自分の金を、他人の命で守らせようとする小悪党ムーブも忘れない。
-
「なっ、なんかっ、誰か叫んだわよっ?」
「うん、なんかっ、『強盗』とか言ってた?」
その展開にやはり、ビビッているバトゥコタとズッチィ。
そんなことにはお構いなしに、集められたお宝を、均等に山分けしようと、石動は必死だ。
「強盗って、もしかして、僕らのことなんじゃないかな?」
普段は鈍感なムゥジャが、こんな時ばかりは、何故か勘がいい。
「なっ、なんで、あたし達まで、強盗ってことになってんのよっ!」
「うっ、うん、まぁっ、身に覚えが全くないと言ったら、嘘になるけど」
全裸で正座させられている冒険者を前に、集められた金銀財宝を山分けしている一党、状況的には、誰がどう見ても強盗で間違いないだろう。
「そっか、僕ら、賞金首になったりするのかなぁ」
ムゥジャはことの重大さが分かっていないのか。
「まぁっ、気にすんな、放っておけっ」
田舎から出て来て、冒険者になりたかっただけなのに、すぐにレイプされそうになるわ、何故か、今度は勝手に、強盗の仲間扱いされるわ、さらに、クライアントであるはずなのにも関わらず、雇った大男にNOと言うことすら出来ない。
「とっ、都会って、めっちゃっ、コワイとこなんですけどっ」
「うっ、うん、田舎じゃ、とても考えられないっ」
全く生きた心地がしない、バトゥコタとズッチィ。
-
「このっ! 賊どもめっ!!」
「大人しくしろっ!!」
イバイ・バンキに命令された兵士達が大挙して、酒場の入り口へと押し寄せて来る。
「ほっ、ほらぁっ、『ども』って言っちゃってるじゃあないのっ!!」
「うっ、うん、完全に複数形扱いされてる」
完全にテンパって、ギャーギャー喚くバトゥコタとズッチィ。
「うるせえっ」
コンパネを操作して、銃を取り出す石動。
「今、取り込み中だっ」
パァン パァン パァン
そのまま、ノールックで、向かって来た衛兵の群れに発砲する。
眉間を撃ち抜かれて、入り口にバタバタと倒れ込み、血を流して動かなくなる衛兵達。
「失せろっ」
あっという間に、酒場の入り口、ウエスタンドアの前は、屍の山で塞がれた。
「ひぃっ、ひぃぃぃぃぃっ」
『うるせえっ』と言われたのが、自分達だと勘違いしたバトゥコタとズッチィ。
発砲音がする度に、体をビクッとさせてビビり、いつの間にか二人は、怖さのあまりに、お互いに抱きついて、震えていた。
さらには、出来上がった死屍累々を見て、ついに、その場にヘナヘナとへたり込む。
その様は、もはや、ただの怯える小動物のようで、もう本当におしっこでも漏らしそうな勢いでビビッていた、いや、もうすでに、ちょっとぐらいは尿漏れしてしまっているのかもしれない。
「ええっ……」
だが、それは女子二名に限ったことではなく、ギルドマスターをはじめとする、この場に居合せた全裸の冒険者達、みなが同じく、ただ茫然とするばかりだった。
この時はじめて、ようやくと言ってもいいが、ギルドマスターを含めた冒険者達は、これでも相当、石動に手加減されていたという真実に気づいた。
彼らからすれば、魔法なのだか、武器なのだか、よく分からない妙な方法、いずれにしても、それを使えば、ここに居る全員を瞬殺することも可能で、それは容易に想像が出来る。
離れた所から、ほぼノーモーションで連射が可能な、殺傷力の高い武器、この世界には、そんなものは、まだ存在していないのだ。
「……とっ、とりあえず、あっしらも、お手伝いしますよ」
目の前に居る大男に、自分の生死が委ねられており、その男の気分次第で、いつ殺されるかも分からない、そのことに改めて気づいた全裸の冒険者達は、石動と三人組の作業を手伝いはじめる。
力なき弱者には、滅法強いが、自分より強い者には、滅法弱い。それが彼らの生き残る術、サバイバル術でもあるのだろう。
「……そっ、そうですよね、ちゃんと、山分けしないと不公平ですからね」
もはや、生きているだけでも、儲けもの。下手に機嫌を損ねない内に、このまま、お宝を持って、早くここから立ち去って欲しい、そして、この全裸正座から早く解放されたい、それが冒険者達の本音だ。
やはりここでも、ギルドマスターは除くが、冒険者達の心は一つになっていた。
『たっ、頼むから、このまま、早く帰ってくれっ!!』
-
「ええっ……」
命令をするだけして、後方の安全な場所から、傍観していた衛兵隊長イバイ・バンキ。部下達が、見る見る間に、散って往く様に、思わず声を出した。
「もうっ、そんなに死んじゃいましたかっ」
あっという間に、酒場の入り口に、山となって積まれた、部下達の亡骸。
「たっ、隊長っ、賊は、妙な術らしきものを使うようですっ!」
果敢に突撃して行った兵士達も、酒場の入り口が、仲間の死体の山で塞がれた時点で、一度戻って来ていた。しかし、もうすでに、兵力の三分の一近くを損耗している。
「うーん……」
さすがに、そんな光景を見せられては、いくらハイエナの如く、金に意地汚いこの男でも、いささか考えを改めねばならない。
「そっ、そうですねっ……」
この上なく、金は惜しいが、そこはやはり、命あっての物種だ。
「こっ、これはっ、冒険者同士の痴話喧嘩みたいですねっ、私達が関与する案件ではありませんっ」
冒険者同士の喧嘩を、衛兵が止めなくて、誰が止めるというのか? 非武装の一般人が、これを仲裁するというのは、かなり荷が重い話だが。
「彼らのお邪魔をしてもなんですから、今日のところは一旦、帰りましょう、また、日を改めて、出直して来るということで」
謎理論を、さも正当な判断であるかのように部下に語って、イバイ・バンキは、早々に、この場から撤退することに決める。
金の切れ目が縁の切れ目、簡単に言ってしまえば、ギルドマスターを見限って、裏切ったということだ。
「金も惜しいですけど、命はもっと惜しいですからね」
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