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第11話 回想前
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「よし!」
どうにか鎮静化に成功したと、カーサは一息ついていた。
雁字搦めで身動きの取れない二人はしばらくの間もがいていたが、次第に落ち着きを取り戻していた。観念したとも言う。
奇跡だ、二度とやりたくは無い。カーサはほとぼりが冷めた後のことは考えないようにしていた。
「お見事!」
「観てただけの奴に言われたくはないわよ」
「手厳しいなぁ……」
ソウタは立ち上がると、木屑を払いながら、
「で、これからどうするの?」
「どうしようかしら?」
「……二人に殺されるかもよ?」
かもね、とカーサは小さく笑う。
そして、
「傷ついた女を慰めるのも男の甲斐性じゃないかしら?」
真正面に立つソウタはきょとんと目を丸くしていた。
「甲斐性か。そう言われると弱っちゃうな」
表情を苦笑に変えた彼は、カーサの横を通り過ぎ、拘束されている二人の元へと向かっていた。
鬼化も獣化も解いた二人は体力を使い果たしたようにぐったりとしている。その巻きついた帯にソウタは人差し指と中指を合わせていた。
指でハサミの形を作るだけで、切れるはずのないものが切れていく。反則じみた行動も彼なら出来てしまう。
拘束を解くと投げ出されたように二人は床に転がっていた。食べられなかった食材たちを潰して、服を汚す。
「さてと」
ソウタは二人に手を当てていた。淡い青の煌めきが降り注いだ。
それだけで傷は癒え、吹き飛んだ部位も元に戻る。妖精族やエルフ族の使う秘術をいとも簡単に行う様子に、
「デタラメね」
「これくらいできないと千年戦争を止めることは出来ないからね」
「説得力あるわぁ」
カーサは揶揄するように笑みを向けていた。
気絶してしまった紫鬼とエメリアは女衆を呼んで片付けて貰っていた。
廃墟の方がまだ綺麗と思えるほどぐちゃぐちゃになった部屋を出て、三人は近くの部屋に移っていた。
「さてと、困ったことになったね」
部屋について椅子に座るなり、ソウタはそう切り出した。
「困ったこと?」
座りなよと言われ、カーサとアポロも席に着く。その部屋は椅子しかなく、それも大会場にあったものよりも上等で、カーサは深く身を沈めていた。
「ああ。千年も争いの歴史を築いてきたんだ、遺伝子レベルでその臭いは染み付いている。好感度を上げるスキルでどうにかしようと思ってたんだけど予想より根が深かったってことかな」
「……何を言っているの?」
遺伝子、好感度、スキル。知らない言葉の羅列にカーサは首を捻っていた。
何かしているということだけはわかった。人が争わないように何かをして、それを自分をきっかけに台無しにしたということだけが。
「うーん、この世界の人には伝わりにくいんだけど。とにかく皆が僕のことを好きになりやすくなるようにしたってことだね」
「洗脳じゃない」
声を荒らげて椅子を叩く。
どうりでと合点が行く。後宮での処遇、待遇に不満の声が少ない理由がわかって、カーサはむくれていた。
しかしソウタは首を振り、
「いや、そんな万能なものじゃないし。精々初対面でも友達の友達くらいの親しみを持つっていう程度だから。後は立場とか功績とか種族のしがらみとかで不満を抑えているだけだし」
「……それはそれで杜撰じゃない?」
最終的には本人の良心に任せるやり方に、カーサはため息を着く。
洗脳よりはよっぽどましだがどこまで行っても綱渡りでは支障もあるだろう。元々無理があるものを形だけは体裁を整えているにすぎなかった。
よく持ってるわ……
そこが主上の凄いところなのかもしれない。ぶち壊した本人が言うことでは無いが。
「まぁ、一箇所爆発したら連鎖するだろうからね。やだなぁギスギスするの」
「だ、大丈夫ですか?」
「えっと、アポロちゃんだっけ?」
「はい!」
「君みたいな子がいることが癒しだよ、ほんと」
それを聞いてアポロは照れくさそうに笑っていた。
……イチャつくな。
二人の馴れ合いにカーサはもう一度椅子を叩き、
「で! これから千年戦争がまた始まるかもしれないけど主上としてはどうするの?」
「そうだなぁ……」
ソウタは顎を持ち上げて思考に耽ていた。
しばらく無言が続いたあと、
「カーサ」
「いやよ」
「命令なんだけど」
「それでも嫌、っていうか無理でしょ。明日出来上がる死体がひとつ増えるだけよ」
カーサは首を激しく横に振って拒絶していた。
冗談じゃないわ!
止めて収まるような生ぬるいものでは無い。未だに特定の種族を強く恨んでいるものだっている。主上という背景が初めて成り立つものを、なんの立場もないただの小人族の小娘がどうにかできる問題ではなかった。
「いや、そんなに烈しいことにはならないと思うよ?」
「ほんとう?」
「……たぶん」
カーサの中でまた主上の株が下がっていた。
「ひとつ、聞かせなさいよ」
呆れながらもカーサは声を投げかける。それにソウタは表情を柔らかくして、
「何かな?」
「あんたの最終目標は何処なのよ。こっちはそれがわかんなくて気持ち悪い思いをしてんの」
後宮を作ったことも、子供を作らないことも、諸々合わせて言わせないと気が済まない。
ソウタは、問われ眉を寄せていた。深く椅子に座り直してから長く息を吐き、
「そうだね……すこし長い話になるから何か飲みながらでもいいかな」
「昔話?」
「あ、うん。先に言われちゃうとあれだけどお決まりだろう?」
そういうものだろうかとカーサは疑問に顔をしかめる。その間にソウタは手を鳴らしていた。
どうにか鎮静化に成功したと、カーサは一息ついていた。
雁字搦めで身動きの取れない二人はしばらくの間もがいていたが、次第に落ち着きを取り戻していた。観念したとも言う。
奇跡だ、二度とやりたくは無い。カーサはほとぼりが冷めた後のことは考えないようにしていた。
「お見事!」
「観てただけの奴に言われたくはないわよ」
「手厳しいなぁ……」
ソウタは立ち上がると、木屑を払いながら、
「で、これからどうするの?」
「どうしようかしら?」
「……二人に殺されるかもよ?」
かもね、とカーサは小さく笑う。
そして、
「傷ついた女を慰めるのも男の甲斐性じゃないかしら?」
真正面に立つソウタはきょとんと目を丸くしていた。
「甲斐性か。そう言われると弱っちゃうな」
表情を苦笑に変えた彼は、カーサの横を通り過ぎ、拘束されている二人の元へと向かっていた。
鬼化も獣化も解いた二人は体力を使い果たしたようにぐったりとしている。その巻きついた帯にソウタは人差し指と中指を合わせていた。
指でハサミの形を作るだけで、切れるはずのないものが切れていく。反則じみた行動も彼なら出来てしまう。
拘束を解くと投げ出されたように二人は床に転がっていた。食べられなかった食材たちを潰して、服を汚す。
「さてと」
ソウタは二人に手を当てていた。淡い青の煌めきが降り注いだ。
それだけで傷は癒え、吹き飛んだ部位も元に戻る。妖精族やエルフ族の使う秘術をいとも簡単に行う様子に、
「デタラメね」
「これくらいできないと千年戦争を止めることは出来ないからね」
「説得力あるわぁ」
カーサは揶揄するように笑みを向けていた。
気絶してしまった紫鬼とエメリアは女衆を呼んで片付けて貰っていた。
廃墟の方がまだ綺麗と思えるほどぐちゃぐちゃになった部屋を出て、三人は近くの部屋に移っていた。
「さてと、困ったことになったね」
部屋について椅子に座るなり、ソウタはそう切り出した。
「困ったこと?」
座りなよと言われ、カーサとアポロも席に着く。その部屋は椅子しかなく、それも大会場にあったものよりも上等で、カーサは深く身を沈めていた。
「ああ。千年も争いの歴史を築いてきたんだ、遺伝子レベルでその臭いは染み付いている。好感度を上げるスキルでどうにかしようと思ってたんだけど予想より根が深かったってことかな」
「……何を言っているの?」
遺伝子、好感度、スキル。知らない言葉の羅列にカーサは首を捻っていた。
何かしているということだけはわかった。人が争わないように何かをして、それを自分をきっかけに台無しにしたということだけが。
「うーん、この世界の人には伝わりにくいんだけど。とにかく皆が僕のことを好きになりやすくなるようにしたってことだね」
「洗脳じゃない」
声を荒らげて椅子を叩く。
どうりでと合点が行く。後宮での処遇、待遇に不満の声が少ない理由がわかって、カーサはむくれていた。
しかしソウタは首を振り、
「いや、そんな万能なものじゃないし。精々初対面でも友達の友達くらいの親しみを持つっていう程度だから。後は立場とか功績とか種族のしがらみとかで不満を抑えているだけだし」
「……それはそれで杜撰じゃない?」
最終的には本人の良心に任せるやり方に、カーサはため息を着く。
洗脳よりはよっぽどましだがどこまで行っても綱渡りでは支障もあるだろう。元々無理があるものを形だけは体裁を整えているにすぎなかった。
よく持ってるわ……
そこが主上の凄いところなのかもしれない。ぶち壊した本人が言うことでは無いが。
「まぁ、一箇所爆発したら連鎖するだろうからね。やだなぁギスギスするの」
「だ、大丈夫ですか?」
「えっと、アポロちゃんだっけ?」
「はい!」
「君みたいな子がいることが癒しだよ、ほんと」
それを聞いてアポロは照れくさそうに笑っていた。
……イチャつくな。
二人の馴れ合いにカーサはもう一度椅子を叩き、
「で! これから千年戦争がまた始まるかもしれないけど主上としてはどうするの?」
「そうだなぁ……」
ソウタは顎を持ち上げて思考に耽ていた。
しばらく無言が続いたあと、
「カーサ」
「いやよ」
「命令なんだけど」
「それでも嫌、っていうか無理でしょ。明日出来上がる死体がひとつ増えるだけよ」
カーサは首を激しく横に振って拒絶していた。
冗談じゃないわ!
止めて収まるような生ぬるいものでは無い。未だに特定の種族を強く恨んでいるものだっている。主上という背景が初めて成り立つものを、なんの立場もないただの小人族の小娘がどうにかできる問題ではなかった。
「いや、そんなに烈しいことにはならないと思うよ?」
「ほんとう?」
「……たぶん」
カーサの中でまた主上の株が下がっていた。
「ひとつ、聞かせなさいよ」
呆れながらもカーサは声を投げかける。それにソウタは表情を柔らかくして、
「何かな?」
「あんたの最終目標は何処なのよ。こっちはそれがわかんなくて気持ち悪い思いをしてんの」
後宮を作ったことも、子供を作らないことも、諸々合わせて言わせないと気が済まない。
ソウタは、問われ眉を寄せていた。深く椅子に座り直してから長く息を吐き、
「そうだね……すこし長い話になるから何か飲みながらでもいいかな」
「昔話?」
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