転生奴隷チートハーレムの後は幸せですか?

文字の大きさ
11 / 34

第11話 回想前

しおりを挟む
「よし!」

 どうにか鎮静化に成功したと、カーサは一息ついていた。
 雁字搦めで身動きの取れない二人はしばらくの間もがいていたが、次第に落ち着きを取り戻していた。観念したとも言う。
 奇跡だ、二度とやりたくは無い。カーサはほとぼりが冷めた後のことは考えないようにしていた。

「お見事!」

「観てただけの奴に言われたくはないわよ」

「手厳しいなぁ……」

 ソウタは立ち上がると、木屑を払いながら、

「で、これからどうするの?」

「どうしようかしら?」

「……二人に殺されるかもよ?」

 かもね、とカーサは小さく笑う。
 そして、

「傷ついた女を慰めるのも男の甲斐性じゃないかしら?」

 真正面に立つソウタはきょとんと目を丸くしていた。

「甲斐性か。そう言われると弱っちゃうな」

 表情を苦笑に変えた彼は、カーサの横を通り過ぎ、拘束されている二人の元へと向かっていた。
 鬼化も獣化も解いた二人は体力を使い果たしたようにぐったりとしている。その巻きついた帯にソウタは人差し指と中指を合わせていた。
 指でハサミの形を作るだけで、切れるはずのないものが切れていく。反則じみた行動も彼なら出来てしまう。
 拘束を解くと投げ出されたように二人は床に転がっていた。食べられなかった食材たちを潰して、服を汚す。

「さてと」

 ソウタは二人に手を当てていた。淡い青の煌めきが降り注いだ。
 それだけで傷は癒え、吹き飛んだ部位も元に戻る。妖精族やエルフ族の使う秘術をいとも簡単に行う様子に、

「デタラメね」

「これくらいできないと千年戦争を止めることは出来ないからね」

「説得力あるわぁ」

 カーサは揶揄するように笑みを向けていた。




 気絶してしまった紫鬼とエメリアは女衆を呼んで片付けて貰っていた。
 廃墟の方がまだ綺麗と思えるほどぐちゃぐちゃになった部屋を出て、三人は近くの部屋に移っていた。

「さてと、困ったことになったね」

 部屋について椅子に座るなり、ソウタはそう切り出した。

「困ったこと?」

 座りなよと言われ、カーサとアポロも席に着く。その部屋は椅子しかなく、それも大会場にあったものよりも上等で、カーサは深く身を沈めていた。

「ああ。千年も争いの歴史を築いてきたんだ、遺伝子レベルでその臭いは染み付いている。好感度を上げるスキルでどうにかしようと思ってたんだけど予想より根が深かったってことかな」

「……何を言っているの?」

 遺伝子、好感度、スキル。知らない言葉の羅列にカーサは首を捻っていた。
 何かしているということだけはわかった。人が争わないように何かをして、それを自分をきっかけに台無しにしたということだけが。

「うーん、この世界の人には伝わりにくいんだけど。とにかく皆が僕のことを好きになりやすくなるようにしたってことだね」

「洗脳じゃない」

 声を荒らげて椅子を叩く。
 どうりでと合点が行く。後宮での処遇、待遇に不満の声が少ない理由がわかって、カーサはむくれていた。
 しかしソウタは首を振り、

「いや、そんな万能なものじゃないし。精々初対面でも友達の友達くらいの親しみを持つっていう程度だから。後は立場とか功績とか種族のしがらみとかで不満を抑えているだけだし」

「……それはそれで杜撰じゃない?」

 最終的には本人の良心に任せるやり方に、カーサはため息を着く。
 洗脳よりはよっぽどましだがどこまで行っても綱渡りでは支障もあるだろう。元々無理があるものを形だけは体裁を整えているにすぎなかった。
 よく持ってるわ……
 そこが主上の凄いところなのかもしれない。ぶち壊した本人が言うことでは無いが。

「まぁ、一箇所爆発したら連鎖するだろうからね。やだなぁギスギスするの」

「だ、大丈夫ですか?」

「えっと、アポロちゃんだっけ?」

「はい!」

「君みたいな子がいることが癒しだよ、ほんと」

 それを聞いてアポロは照れくさそうに笑っていた。
 ……イチャつくな。
 二人の馴れ合いにカーサはもう一度椅子を叩き、

「で! これから千年戦争がまた始まるかもしれないけど主上としてはどうするの?」

「そうだなぁ……」

 ソウタは顎を持ち上げて思考に耽ていた。
 しばらく無言が続いたあと、

「カーサ」

「いやよ」

「命令なんだけど」

「それでも嫌、っていうか無理でしょ。明日出来上がる死体がひとつ増えるだけよ」

 カーサは首を激しく横に振って拒絶していた。
 冗談じゃないわ!
 止めて収まるような生ぬるいものでは無い。未だに特定の種族を強く恨んでいるものだっている。主上という背景が初めて成り立つものを、なんの立場もないただの小人族の小娘がどうにかできる問題ではなかった。

「いや、そんなに烈しいことにはならないと思うよ?」

「ほんとう?」

「……たぶん」

 カーサの中でまた主上の株が下がっていた。

「ひとつ、聞かせなさいよ」

 呆れながらもカーサは声を投げかける。それにソウタは表情を柔らかくして、

「何かな?」

「あんたの最終目標は何処なのよ。こっちはそれがわかんなくて気持ち悪い思いをしてんの」

 後宮を作ったことも、子供を作らないことも、諸々合わせて言わせないと気が済まない。
 ソウタは、問われ眉を寄せていた。深く椅子に座り直してから長く息を吐き、

「そうだね……すこし長い話になるから何か飲みながらでもいいかな」

「昔話?」

「あ、うん。先に言われちゃうとあれだけどお決まりだろう?」

 そういうものだろうかとカーサは疑問に顔をしかめる。その間にソウタは手を鳴らしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...