転生奴隷チートハーレムの後は幸せですか?

文字の大きさ
18 / 34

第18話 回想7

しおりを挟む
 掃除と修繕の依頼を終え、蒼太は他の依頼もこなしていた。
 安くて重労働であっても数をこなせばそれなりな金額になる。仮設トイレの購入金額には遠く及ばないため大赤字であることは変わりないが、蒼太は完了のサインをもらった束を手に緩い笑顔を作っていた。
 収穫はあった。この世界のことを何も知らないという、収穫が。
 元の地球と同じと考えるのは止めた。この世界で生きるならば、子供よりも物を知らない事を自覚しなければならない。
 無知は悲惨な状況を引き起こす。ならばやることは一つと、蒼太は心に決めて斡旋所へと向かっていた。



 夕方の斡旋所は午前と同様に人の姿であふれていた。違うのは立て看板ではなく小屋の中に多く人がいること。また汗や血の匂いであふれかえっていたことだった。
 危険な依頼には多くの報酬が用意されている。一攫千金を求めた人々はその証拠をきつく握りしめて今か今かと立ち並んでいた。
 並んでいると言っても行儀よく一列にではなく、カウンターに群がっていると言った方が正しい様相だった。一人身奇麗な蒼太は最後尾だと思うところから前を眺めていた。
 徐々に人が掃けていく。それに合わせて後ろからも人が押し寄せて、蒼太は押し潰されながらも前に進まざるを得なくなる。若干の息苦しさは視覚や嗅覚によるもので、魔法でも消す手段がなかった。
 まるでバーゲンにでも来たみたいだ。行ったことないけど。
 流れに身を任せているといつの間にかカウンターまでたどり着いていた。横合いから差し込まれる依頼書が先に処理され、うつけていた蒼太の真裏からは舌打ちの音が響いていた。

「すみません、お願いします」

 前の処理が終わり、そのタイミングで自分の依頼書を出す。忙しなく働く男性は握りつぶすようにそれを掴んで目を通していた。

「……はいよ」

 特に何も言われることもなく、淡々とカウンターの上に小銭が置かれる。
 その合計金額をみて、あれっと思い、蒼太は尋ねていた。

「表示より多くないですか?」

 その声に男性は眉間に皺を寄せ、

「依頼人の評価で増減するに決まってるだろ。早くいけ」

 ったく、と悪態をついて手で払うような仕草をしていた。
 邪険に扱われたことを蒼太は気にしてはいなかった。それよりもいい評価を得られたことへの感動で頭がいっぱいになっていた。
 良かった。嬉しい。言葉足らずな感想が頭に浮かぶ。得た報酬は実際よりもずっしりと手の中で重さを感じさせていた。
 同時に罪悪感もあった。魔法を使うことは今更止められない。しかし金銭のコピーまではやりすぎだった。今はまだ生活の基盤が整っていないため頼らざるを得ないが、いずれは自立すべきと考えていた。
 どちらにせよ、仕事初日は紆余曲折ありながらも上々の成果があった。朝よりも軽くなった懐を弾ませながら蒼太は宿へと帰宅していた。




 
 日々依頼をこなし、帰る生活を続けてはや一ヶ月が経過していた。
 慣れ親しんだ宿は依然として継続している。顔馴染みになった女将、イーレイアさんの作る夕食は異国情緒がありながらも絶品で、時折サービスまでしてくれる。創作物ではよくご飯がまずいとあったりするが、地球のコンビニや安い丼物屋よりも圧倒的にクオリティーが高く、まともなものが食べられることに満足していた。
 ベッドメイクもよく、ものが無くなったりもしない。少しくらいの要望なら聞き入れてくれるなど快適過ぎて宿から抜け出せない危惧すら感じていた。
 紹介してくれたあの人には頭が上がらないと蒼太は思う。なかなか会いに行けないが機会を作ってお礼に行かなければと考えていた。
 山のようにあった依頼はひと月の間にほとんどが終わっていた。たまに追加でお願いされることがあり、蒼太は快く受けていた。どうにか生活出来る程度の報酬しか得られないが、懐より心に潤いがあった。
 小銭だがある程度は貯まったお金をもって蒼太は買い物もしていた。ただその多くが本の購入に消えていたのは仕方の無い出費と現実から目を背けていた。あまりにこの世界の常識を知らなすぎるため、得る手段として人に聞くか本を読むしかなかったのだ。
 この世界には多種多様な種族がいる。そしてそれ以上に多くの猛獣やモンスター、魔物と呼ばれる物がいた。ゲームのように自然発生はしないが人々は狭い土地に点々と寄合を作り、外敵からの脅威に晒されながら生活を送っていた。
 必然と依頼もその手のものが多くなる。討伐や採取、キャラバンの護衛など街の外での仕事は危険度が高い。怪我くらいなら珍しくもなく、無茶をすれば簡単に死んでしまう。
 だと言うのに、何故か人同士の争いが終わらない。千年戦争は何ら誇張ではなく、それ以上続いている可能性すらあった。
 ……ありえないだろ。
 共通の敵がいる。それも束になっても敵わないほど強大な敵が。それを前にして悠長に味方を削るような真似をしているのがこの世界の人類だった。
 愚かだ。そう思うのは簡単で、蒼太は首を横に振る。
 何も知らずに頭ごなしに否定するのは止めたのだ。そこに至るまでの歴史を、政治を、風俗を尊重し理解しよう。ここはここを生きるものたちの世界であって、まだ部外者である自分は口出しする権利はない。
 その為に書物を漁り、依頼を完了する日々を送っていた。街の外の仕事と違い中の仕事は安い分、人との交流が多くある。顔馴染みも増えた。それこそ仕事中に挨拶を交わしたり、直接指名で仕事がきたりするなど。
 直接指名の場合、指名料が別途かかる。それは斡旋所に中抜きされない報酬になるため蒼太にとっても嬉しい限りだった。また依頼者も今まで真剣にやってくれる人がいなかった依頼を優先的に、またしっかりとこなしてくれる蒼太が助かる存在となっていた。やる人がいないだけであってやらなくていい仕事ではないからだ。
 今日も仕事が始まる。蒼太はいつものように軽い足取りで宿を出発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...