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一章
七話 それは仮の姿
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「夜更かししたら庵様に怒られてしまうから、そろそろ一緒に寝……」
「あやかしが出たぞー!」
「一部だが、燃えている家もある!」
「女子供は家から出るなー!!」
「!?」
それは住人の叫びだった。
「緋翠! と、子供。大丈夫か!?」
ガラッと戸が開いた。隣の部屋は庵様の寝室だ。
「庵様っ……私と龍くんは無事です。それよりも庵様の国が……」
「住人が叫んでいた通り、女子供は危険だから外には出るな。いいな?」
「庵様はどちらに行かれるのですか?」
しっかりと袋に包まれてはいるが、庵様の手にあるのは刀だ。
「俺は妖退治に行ってくる」
「危険です! 庵様は団子屋なのでしょう!? ここには妖を払う陰陽師はいないのですか?」
ただの団子屋さんがどうして妖を?
たしかに庵様は桜ノ国の中でも住人から慕われていて、この国には庵様の名前を知らない者はいなかった。
でも、それは皆が家族のような存在だから……そう思っていた。
「緋翠」
「なんですか?」
「団子屋は仮の姿だ」
「……え?」
「俺の本来の仕事は、桜ノ国に妖が侵入してきたとき倒すのが役目だ」
その言葉を庵様が発したとき、庵様の翼が一瞬、黒色に変わったような気がした。
……見間違いかしら? 黒は私に怒りや殺意を向けたときなのに。まさか庵様は私を嫌って……?
そんなこと、あるはずない。と、はっきりと口には出来なかった。何故なら庵様とはまだ出会って間もないのだから。
私は本当の庵様を知らない。
妖を倒すのが役目? 団子屋は仮の姿? どれも初めて聞くことばかりで私の頭は混乱していた。
けれど、妖を一刻も早く倒さないといけないのは事実。それだけは変わらない。
退治しないと住人が怪我をする。もしかしたら、死者だって出るかもしれない。……そんなのはいやだ。
「僕、お父さんを探しに行く!」
「龍くん、駄目っ! 今、外に出たら龍くんが怪我しちゃう。お父さんだって、龍くんが危険な目に遭うのは見たくないはずよ。だからお姉さんとここで待ちましょう」
「……うん」
「俺は必ず無事に戻ってくる。だから、ここで俺の帰りを待っててくれるか?」
「……はい」
庵様に聞きたいことはいくらでもあった。でも、今はそんな悠長にしている場合ではないことは私でもわかる。
正直、ここにいるのは怖い。けれど、龍くんはもっと怖い思いをしているはずだ。私が年上なんだから龍くんを守ってあげなきゃ。
「俺は国の皆を守る。この命にかえても」
庵様は全ての住人を守ろうとしている。私なんかよりも多くの命を救おうとしている。
庵様が袋から取り出した、それはやはり刀。それは黄金に輝いていた。
バタンと戸が閉まり、庵様は妖退治へと向かった。
六枚の白い翼に黄金の刀。私にはどちらも眩しすぎる。だけど、どんな姿でも庵様はお美しい。
庵様は必ず戻ってくる。だって、無事に帰ってくると言ったから。だけど、庵様の翼が一瞬、黒になったのが今でも脳裏から離れない。
……胸騒ぎがする。
庵様、どうか無事で帰ってください。私は庵様の帰りを待っていますから……。
「あやかしが出たぞー!」
「一部だが、燃えている家もある!」
「女子供は家から出るなー!!」
「!?」
それは住人の叫びだった。
「緋翠! と、子供。大丈夫か!?」
ガラッと戸が開いた。隣の部屋は庵様の寝室だ。
「庵様っ……私と龍くんは無事です。それよりも庵様の国が……」
「住人が叫んでいた通り、女子供は危険だから外には出るな。いいな?」
「庵様はどちらに行かれるのですか?」
しっかりと袋に包まれてはいるが、庵様の手にあるのは刀だ。
「俺は妖退治に行ってくる」
「危険です! 庵様は団子屋なのでしょう!? ここには妖を払う陰陽師はいないのですか?」
ただの団子屋さんがどうして妖を?
たしかに庵様は桜ノ国の中でも住人から慕われていて、この国には庵様の名前を知らない者はいなかった。
でも、それは皆が家族のような存在だから……そう思っていた。
「緋翠」
「なんですか?」
「団子屋は仮の姿だ」
「……え?」
「俺の本来の仕事は、桜ノ国に妖が侵入してきたとき倒すのが役目だ」
その言葉を庵様が発したとき、庵様の翼が一瞬、黒色に変わったような気がした。
……見間違いかしら? 黒は私に怒りや殺意を向けたときなのに。まさか庵様は私を嫌って……?
そんなこと、あるはずない。と、はっきりと口には出来なかった。何故なら庵様とはまだ出会って間もないのだから。
私は本当の庵様を知らない。
妖を倒すのが役目? 団子屋は仮の姿? どれも初めて聞くことばかりで私の頭は混乱していた。
けれど、妖を一刻も早く倒さないといけないのは事実。それだけは変わらない。
退治しないと住人が怪我をする。もしかしたら、死者だって出るかもしれない。……そんなのはいやだ。
「僕、お父さんを探しに行く!」
「龍くん、駄目っ! 今、外に出たら龍くんが怪我しちゃう。お父さんだって、龍くんが危険な目に遭うのは見たくないはずよ。だからお姉さんとここで待ちましょう」
「……うん」
「俺は必ず無事に戻ってくる。だから、ここで俺の帰りを待っててくれるか?」
「……はい」
庵様に聞きたいことはいくらでもあった。でも、今はそんな悠長にしている場合ではないことは私でもわかる。
正直、ここにいるのは怖い。けれど、龍くんはもっと怖い思いをしているはずだ。私が年上なんだから龍くんを守ってあげなきゃ。
「俺は国の皆を守る。この命にかえても」
庵様は全ての住人を守ろうとしている。私なんかよりも多くの命を救おうとしている。
庵様が袋から取り出した、それはやはり刀。それは黄金に輝いていた。
バタンと戸が閉まり、庵様は妖退治へと向かった。
六枚の白い翼に黄金の刀。私にはどちらも眩しすぎる。だけど、どんな姿でも庵様はお美しい。
庵様は必ず戻ってくる。だって、無事に帰ってくると言ったから。だけど、庵様の翼が一瞬、黒になったのが今でも脳裏から離れない。
……胸騒ぎがする。
庵様、どうか無事で帰ってください。私は庵様の帰りを待っていますから……。
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