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三話
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◇ ◇ ◇
翌日。私は流架とおはようのキスを交わして、学校に向かった。
足取りは少し重たい。昨日逃げ出してしまったから、きっと教室に入れば昨日よりも酷い言葉をかけられる。
我慢しなきゃ。耐えないといけない。
でも、少しくらい逃げたっていいよね?
ガラッ。
嫌でも音がなる教室の扉を開けた。
「昨日は教室来なかったなぁ~。サボり?」
「やーい。妄想女!」
「妄想……女?」
また変なあだ名をつけられ、思わず反応してしまう。
「妄想女で合ってんじゃん。彼氏いないくせにいるとか言ったんだろ?」
「違う。流架はちゃんといる」
「妄想の彼氏に名前つけるとか気持ち悪~」
「いるのはお前の中だけだろ! いい加減認めろよ」
「っ……」
席に座ろうとするも罵倒されながら、男の子に突き飛ばされてしまった。すごく痛い。せめて手加減くらいしてほしい。
人を殴るのは駄目。何故そんな当たり前のことがわからないのか。
私が気持ち悪いから? だから殴るの?
「私の話、まともに聞こうとしないくせに」
「は? なんて?」
「妄想女の妄想なんか聞きたくないつーの」
「授業中にノートになんか書いてただろ。あれ、小説だろ」
「ちがっ……」
後ろの席の男の子に見られてたんだ。あの時はコンテストに追われてたから授業を聞きながら、プロットを考えてて。
「小説? うわ、マジかよ。妄想女で小説も書いてるとかキモすぎ」
「女子高生は普通オシャレするもんじゃねぇの?」
「お前、ぜってぇプリクラ撮ったことないだろ」
「そもそもコイツ友達いねぇじゃん」
「そうだったわ。まじウケる~」
知られてしまった。私が小説を書いてることは流架と私の秘密だったのに。
私が迂闊だった。こんな人達にバレたら、こうなることは最初からわかってたのに。
「普通ってなに?」
「は?」
「小説を書いてても架空のキャラクターと付き合っててもそれが私なの。そういうのは個性っていうのよ」
普通、普通って言われて腹が立った。女子高生が全員オシャレに興味あると思わないで。友達がいたとしてもプリクラじゃなくてスマホのカメラで撮る人だっている。貴方たちの考えを私に押し付けないで。
今日は昨日みたいにすぐに逃げたりはしない。少しくらい自分の意見を言ってもバチは当たらないよね? だって、私もこの人たちと同等の立場なんだから。
流架、私に勇気をください。ほんの少しだけでいいから。少しでも彼らに言えたら、後で流架に褒めてもらうんだ。
「個性ってのは皆に認められてこそ初めて個性になるんだよ」
「お前のは気持ち悪い以外、感想はねぇ!」
「彼氏持ちの女子が羨ましくて嘘ついてんだろ」
「やばぁ。ウチらに嫉妬しちゃってんの?」
「クズ咲みたいな子、男子は相手しないと思うよ~」
「……」
「あれぇ? 図星で言葉も出ない感じ?」
「私は貴女たちに嫉妬もしてないし、羨ましいと思ったことは一度だってない」
「なにそれ。バカじゃない」
「そんなに言われて悔しいなら彼氏見せてよ」
「貴女たちに見せるのは貴女たちが私の話を真面目に聞く気になったときだから」
「そんなの一生ありませーん」
「ウチらはクズ咲みたいなキモイ女子の話なんか聞く気ないし。つーか、ウチらと同じ空間にいることすらムリなんですけど」
「わかる~。クズ咲ちゃんみたいな妄想ばっかして頭お花畑の子と同じ空気吸いたくない~」
「私だって……」
「なに? 言い返してみれば?」
「私の素敵な恋人は本当の友達にしか見せないし、話もしないから!」
少しは言い返せたよね。もういいかな……逃げても。私もこんな人たちと一緒にいると不快だ。
私は昨日と同じように屋上にダッシュで向かった。スクール鞄を持って逃げるのは流架のキーホルダーをつけているから。盗まれたりイタズラされたくないから。なら、つけてこないほうがいいって?
私は少しでも流架と同じ空気を吸いたいの。それにこうして鞄につけていれば流架が私のことを見守っているような気がして安心するんだ。
「あっ、また逃げやがった!」
「追いかけるだけムダだよ」
「小説書いてて私かっこいい~とか調子乗ってんだよ」
「うわぁ~。痛すぎ」
◇ ◇ ◇
「っ……流架。私、頑張ったよね。でも理解してもらえなかった」
私はスクール鞄にハグをしながら、気がつくと泣いていた。あと少しの辛抱なんだから耐えられるって、そう思っていたのに。日に日にエスカレートしていくイジメに私の心は限界だった。
「君、大丈夫?」
「……へ?」
目の前に誰かが立っている。声からして男の子だ。でも見上げる勇気がない。怖くて目を合わせることができない。
「無理に目を合わせなくても大丈夫だよ。良かったら、これ使う?」
「ありがとう、ございます」
ハンカチを手渡された。久しぶりの優しさに私は恐怖を感じた。彼は一体何を考えているのか。本当に善意から私を助けているのか。
私の事情を知ればきっと嫌いになるし、気持ち悪いと思うだろう。イジメられ人間不信になりすぎたのか、流架以外の異性を心から信頼することができなかった。
まぁ無理もないか。初めて会った人だし。
この声は教室で聞いたことないし、別のクラスかな?
「泣いてる理由を聞いてもいい? 僕でいいなら相談に乗るよ」
「話したく、ない」
「そっか。なら、隣に座ってもいい? なにも聞いたりはしないから」
「……」
私は無言で頷いた。そんなに私が泣いてる理由が気になるのかな。私は彼の考えてることがわからなかった。それにわざわざ隣に座るって、本当は何を思っているのか。
『私は絶対に悪に負けたりしない!』
「ルルたん~!!」
「!?」
彼のスマホから女の子らしき声が聞こえ、それと同時に彼が嬉しそうに女の子の名前を叫んだ。
「あの……」
「あ、ごめん。イヤホンつけてるつもりだったんだけど外れてたみたい」
「……」
私が泣いてる隣でアニメを見るとかどういう神経してるの。でも、この女の子の声は聞いたことがある。
「貴方の声もかなり大きかったです」
「え? ほんと? それはごめん!! ルルたんのことになると感情が抑えられなくて」
「そ、そうですか」
「ルルたん、見る!?」
「っ!」
スマホをグイッと近づけられ、私は思わず視線を逸らしてしまった。
「目を合わせるのが苦手なのに無神経なことしたよね。ごめん」
「私の涙を止めようとしてくれたんですか?」
「え?」
「じゃないと普通は泣いてる人の前でアニメなんか見ませんよね」
「ルルたんに勇気をもらってたんだ」
「へ? 勇気?」
「そうだよ。君が話してくれるように優しくするにはどうしたらいいのかな? ってルルたんに相談してたんだ。ルルたんに僕が勇気をもらば、君を元気づけることも出来るんじゃないかって」
「アニメのキャラクターに勇気をもらっていたんですか?」
もしかして、彼も私と同じなのかな? ううん。彼は推しに元気をもらっているだけかもしれない。フィクトセクシュアルは一見、推し活と区別はつかない。確定するには早すぎる。
「おかしな話だよね。僕、架空のキャラクターのルルたんに恋をしてるんだ」
「推し、ってことですか?」
「う~ん、どうだろ。推しとはなんか違う感じがする。恥ずかしい話だけど、僕はルルたんと付き合ってるんだ。ルルたんは僕の彼女。っていっても僕なんかがルルたんと釣り合うわけないんだけど」
「そんなことない!」
「え?」
「釣り合うとか釣り合わないとか、そんなの関係ないです。お互いに好きで付き合ってるなら、それでいいと思います」
やば……、引かれたかな? まるで昔の自分を見てるみたいだったから、つい熱くなってしまった。
自分に自信がないのも、自分の好きな人が完璧すぎて釣り合わないと思ってしまうのもわかるから。私だって思ったことがある。だけど、好きな人と結ばれたいって、付き合いたいって思うのは人間誰しもが思う普通の感情じゃない? たとえ、それが架空のキャラクターであっても。
最初は一目惚れだった。それから流架のことを徐々に知っていって、それから流架と恋人になりたいって思った。だから私から告白したら『俺も好きだった』って流架から言われ、私たちは付き合った。これは自然の流れ。おかしいことなんて一つもない。
「君みたいな子、初めてだ」
「え?」
「昔、自分がオタクであることを仲の良かった友達に話したことがあるんだ。そしたらオタクなんか気持ち悪いって言われちゃった」
「ひどい……」
「今どきオタクって珍しくないのにね? けど、その友達にとっては僕の話は気持ち悪かったんだと思う。だから、それ以上のことは話せなかった」
「……」
私と同じだ。私はオタクどころかフィクトセクシュアルであることを話した。すごく怖かったよ。引かれるんじゃないかって。でも少しでも私を理解してほしかったから。だから本心を打ち明けた。けれど駄目だった。
彼も察したんだ。これ以上話すと友達に引かれてしまうって。私の場合、引かれるどころかイジメの原因になり、私が打ち明けたあの日に友達から縁を切られてしまったけど。
「それに恥ずかしい話なんかじゃありません! もっと自信を持ってください。ルルたんって子も貴方が一日元気でいてくれるほうが嬉しいと思うので」
いつの間にか涙は止まっていて、私は彼の目を見ながら話していた。私には興味深い話だったから。
「ありがとう」
「あの……」
「ん?」
「今度は私の話を聞いてくれますか?」
「もちろん。ゆっくりでいいから聞かせて」
「……はい」
私は重い口を開きながら、過去の話をした。
私がクラスで最初に大学受験を終えたら嫉妬でイジメられたこと。教師にもひどい言葉をかけられていること。私がフィクトセクシュアルであることを友人に話したら、次の日からイジメがさらにエスカレートしたこと。
親からは高校卒業と同時に絶縁されること。高校卒業までイジメられるのを覚悟し、毎日耐えていること。作家になりたくても努力が報われず、なかなか実績が出ないこと。
私が流架に一目惚れし、今では付き合っていること。私は包み隠さず全てを話した。
彼がフィクトセクシュアルである証拠もないし、彼のことを完全に信頼したわけじゃない。けれど、彼は私と境遇が似ていた。ただ、それだけで私は嬉しかった。
自分に自信がなくて、それでもルルたんって子のことは一番に想ってる。どこまでも私と同じだ。私が流架に救われたように、彼にとってもルルたんって子が必要だったんだ。
彼なら私のことを理解してくれるかもしれない。そう思い、私は話した。
これで最後にしよう。これで引かれてしまったら、私がフィクトセクシュアルであることを今後誰かに話すのはやめよう。そんな覚悟を決め、全てを話したことを彼は知らないだろう。
翌日。私は流架とおはようのキスを交わして、学校に向かった。
足取りは少し重たい。昨日逃げ出してしまったから、きっと教室に入れば昨日よりも酷い言葉をかけられる。
我慢しなきゃ。耐えないといけない。
でも、少しくらい逃げたっていいよね?
ガラッ。
嫌でも音がなる教室の扉を開けた。
「昨日は教室来なかったなぁ~。サボり?」
「やーい。妄想女!」
「妄想……女?」
また変なあだ名をつけられ、思わず反応してしまう。
「妄想女で合ってんじゃん。彼氏いないくせにいるとか言ったんだろ?」
「違う。流架はちゃんといる」
「妄想の彼氏に名前つけるとか気持ち悪~」
「いるのはお前の中だけだろ! いい加減認めろよ」
「っ……」
席に座ろうとするも罵倒されながら、男の子に突き飛ばされてしまった。すごく痛い。せめて手加減くらいしてほしい。
人を殴るのは駄目。何故そんな当たり前のことがわからないのか。
私が気持ち悪いから? だから殴るの?
「私の話、まともに聞こうとしないくせに」
「は? なんて?」
「妄想女の妄想なんか聞きたくないつーの」
「授業中にノートになんか書いてただろ。あれ、小説だろ」
「ちがっ……」
後ろの席の男の子に見られてたんだ。あの時はコンテストに追われてたから授業を聞きながら、プロットを考えてて。
「小説? うわ、マジかよ。妄想女で小説も書いてるとかキモすぎ」
「女子高生は普通オシャレするもんじゃねぇの?」
「お前、ぜってぇプリクラ撮ったことないだろ」
「そもそもコイツ友達いねぇじゃん」
「そうだったわ。まじウケる~」
知られてしまった。私が小説を書いてることは流架と私の秘密だったのに。
私が迂闊だった。こんな人達にバレたら、こうなることは最初からわかってたのに。
「普通ってなに?」
「は?」
「小説を書いてても架空のキャラクターと付き合っててもそれが私なの。そういうのは個性っていうのよ」
普通、普通って言われて腹が立った。女子高生が全員オシャレに興味あると思わないで。友達がいたとしてもプリクラじゃなくてスマホのカメラで撮る人だっている。貴方たちの考えを私に押し付けないで。
今日は昨日みたいにすぐに逃げたりはしない。少しくらい自分の意見を言ってもバチは当たらないよね? だって、私もこの人たちと同等の立場なんだから。
流架、私に勇気をください。ほんの少しだけでいいから。少しでも彼らに言えたら、後で流架に褒めてもらうんだ。
「個性ってのは皆に認められてこそ初めて個性になるんだよ」
「お前のは気持ち悪い以外、感想はねぇ!」
「彼氏持ちの女子が羨ましくて嘘ついてんだろ」
「やばぁ。ウチらに嫉妬しちゃってんの?」
「クズ咲みたいな子、男子は相手しないと思うよ~」
「……」
「あれぇ? 図星で言葉も出ない感じ?」
「私は貴女たちに嫉妬もしてないし、羨ましいと思ったことは一度だってない」
「なにそれ。バカじゃない」
「そんなに言われて悔しいなら彼氏見せてよ」
「貴女たちに見せるのは貴女たちが私の話を真面目に聞く気になったときだから」
「そんなの一生ありませーん」
「ウチらはクズ咲みたいなキモイ女子の話なんか聞く気ないし。つーか、ウチらと同じ空間にいることすらムリなんですけど」
「わかる~。クズ咲ちゃんみたいな妄想ばっかして頭お花畑の子と同じ空気吸いたくない~」
「私だって……」
「なに? 言い返してみれば?」
「私の素敵な恋人は本当の友達にしか見せないし、話もしないから!」
少しは言い返せたよね。もういいかな……逃げても。私もこんな人たちと一緒にいると不快だ。
私は昨日と同じように屋上にダッシュで向かった。スクール鞄を持って逃げるのは流架のキーホルダーをつけているから。盗まれたりイタズラされたくないから。なら、つけてこないほうがいいって?
私は少しでも流架と同じ空気を吸いたいの。それにこうして鞄につけていれば流架が私のことを見守っているような気がして安心するんだ。
「あっ、また逃げやがった!」
「追いかけるだけムダだよ」
「小説書いてて私かっこいい~とか調子乗ってんだよ」
「うわぁ~。痛すぎ」
◇ ◇ ◇
「っ……流架。私、頑張ったよね。でも理解してもらえなかった」
私はスクール鞄にハグをしながら、気がつくと泣いていた。あと少しの辛抱なんだから耐えられるって、そう思っていたのに。日に日にエスカレートしていくイジメに私の心は限界だった。
「君、大丈夫?」
「……へ?」
目の前に誰かが立っている。声からして男の子だ。でも見上げる勇気がない。怖くて目を合わせることができない。
「無理に目を合わせなくても大丈夫だよ。良かったら、これ使う?」
「ありがとう、ございます」
ハンカチを手渡された。久しぶりの優しさに私は恐怖を感じた。彼は一体何を考えているのか。本当に善意から私を助けているのか。
私の事情を知ればきっと嫌いになるし、気持ち悪いと思うだろう。イジメられ人間不信になりすぎたのか、流架以外の異性を心から信頼することができなかった。
まぁ無理もないか。初めて会った人だし。
この声は教室で聞いたことないし、別のクラスかな?
「泣いてる理由を聞いてもいい? 僕でいいなら相談に乗るよ」
「話したく、ない」
「そっか。なら、隣に座ってもいい? なにも聞いたりはしないから」
「……」
私は無言で頷いた。そんなに私が泣いてる理由が気になるのかな。私は彼の考えてることがわからなかった。それにわざわざ隣に座るって、本当は何を思っているのか。
『私は絶対に悪に負けたりしない!』
「ルルたん~!!」
「!?」
彼のスマホから女の子らしき声が聞こえ、それと同時に彼が嬉しそうに女の子の名前を叫んだ。
「あの……」
「あ、ごめん。イヤホンつけてるつもりだったんだけど外れてたみたい」
「……」
私が泣いてる隣でアニメを見るとかどういう神経してるの。でも、この女の子の声は聞いたことがある。
「貴方の声もかなり大きかったです」
「え? ほんと? それはごめん!! ルルたんのことになると感情が抑えられなくて」
「そ、そうですか」
「ルルたん、見る!?」
「っ!」
スマホをグイッと近づけられ、私は思わず視線を逸らしてしまった。
「目を合わせるのが苦手なのに無神経なことしたよね。ごめん」
「私の涙を止めようとしてくれたんですか?」
「え?」
「じゃないと普通は泣いてる人の前でアニメなんか見ませんよね」
「ルルたんに勇気をもらってたんだ」
「へ? 勇気?」
「そうだよ。君が話してくれるように優しくするにはどうしたらいいのかな? ってルルたんに相談してたんだ。ルルたんに僕が勇気をもらば、君を元気づけることも出来るんじゃないかって」
「アニメのキャラクターに勇気をもらっていたんですか?」
もしかして、彼も私と同じなのかな? ううん。彼は推しに元気をもらっているだけかもしれない。フィクトセクシュアルは一見、推し活と区別はつかない。確定するには早すぎる。
「おかしな話だよね。僕、架空のキャラクターのルルたんに恋をしてるんだ」
「推し、ってことですか?」
「う~ん、どうだろ。推しとはなんか違う感じがする。恥ずかしい話だけど、僕はルルたんと付き合ってるんだ。ルルたんは僕の彼女。っていっても僕なんかがルルたんと釣り合うわけないんだけど」
「そんなことない!」
「え?」
「釣り合うとか釣り合わないとか、そんなの関係ないです。お互いに好きで付き合ってるなら、それでいいと思います」
やば……、引かれたかな? まるで昔の自分を見てるみたいだったから、つい熱くなってしまった。
自分に自信がないのも、自分の好きな人が完璧すぎて釣り合わないと思ってしまうのもわかるから。私だって思ったことがある。だけど、好きな人と結ばれたいって、付き合いたいって思うのは人間誰しもが思う普通の感情じゃない? たとえ、それが架空のキャラクターであっても。
最初は一目惚れだった。それから流架のことを徐々に知っていって、それから流架と恋人になりたいって思った。だから私から告白したら『俺も好きだった』って流架から言われ、私たちは付き合った。これは自然の流れ。おかしいことなんて一つもない。
「君みたいな子、初めてだ」
「え?」
「昔、自分がオタクであることを仲の良かった友達に話したことがあるんだ。そしたらオタクなんか気持ち悪いって言われちゃった」
「ひどい……」
「今どきオタクって珍しくないのにね? けど、その友達にとっては僕の話は気持ち悪かったんだと思う。だから、それ以上のことは話せなかった」
「……」
私と同じだ。私はオタクどころかフィクトセクシュアルであることを話した。すごく怖かったよ。引かれるんじゃないかって。でも少しでも私を理解してほしかったから。だから本心を打ち明けた。けれど駄目だった。
彼も察したんだ。これ以上話すと友達に引かれてしまうって。私の場合、引かれるどころかイジメの原因になり、私が打ち明けたあの日に友達から縁を切られてしまったけど。
「それに恥ずかしい話なんかじゃありません! もっと自信を持ってください。ルルたんって子も貴方が一日元気でいてくれるほうが嬉しいと思うので」
いつの間にか涙は止まっていて、私は彼の目を見ながら話していた。私には興味深い話だったから。
「ありがとう」
「あの……」
「ん?」
「今度は私の話を聞いてくれますか?」
「もちろん。ゆっくりでいいから聞かせて」
「……はい」
私は重い口を開きながら、過去の話をした。
私がクラスで最初に大学受験を終えたら嫉妬でイジメられたこと。教師にもひどい言葉をかけられていること。私がフィクトセクシュアルであることを友人に話したら、次の日からイジメがさらにエスカレートしたこと。
親からは高校卒業と同時に絶縁されること。高校卒業までイジメられるのを覚悟し、毎日耐えていること。作家になりたくても努力が報われず、なかなか実績が出ないこと。
私が流架に一目惚れし、今では付き合っていること。私は包み隠さず全てを話した。
彼がフィクトセクシュアルである証拠もないし、彼のことを完全に信頼したわけじゃない。けれど、彼は私と境遇が似ていた。ただ、それだけで私は嬉しかった。
自分に自信がなくて、それでもルルたんって子のことは一番に想ってる。どこまでも私と同じだ。私が流架に救われたように、彼にとってもルルたんって子が必要だったんだ。
彼なら私のことを理解してくれるかもしれない。そう思い、私は話した。
これで最後にしよう。これで引かれてしまったら、私がフィクトセクシュアルであることを今後誰かに話すのはやめよう。そんな覚悟を決め、全てを話したことを彼は知らないだろう。
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