私たちはリアルを愛せない

星空永遠

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五話

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◇  ◇  ◇

 それから私は毎日のように昼休みと放課後は天馬くんと話をした。ある日は私の恋人である流架の話を聞いてもらったり、またある時はルルたんや流架の出るアニメをスマホで一緒に見たり。

 普通、数週間も経てば友達からランクアップして相手のことを気になったり、好きになったりしてもおかしくない。私たちは年頃だし、気がつけば恋に落ちるなんてことも不思議ではない。

 だが、私たちは違う。お互いに恋人がいるから。私たちは同じフィクトセクシュアルであり友達だ。それ以上でもそれ以下でもない。けれど、まわりは私が人気者の天馬くんと友達になることを許さなかった。

「クズ咲。最近、調子乗りすぎなんだよっ!」
「いっ……」

 普段使われていない空き教室で私はイジメにあっていた。わかっていたことだ。見つかればどうなるかくらい。

 今日の昼休みも天馬くんと会う約束をしてるのに……。今日はルルたん鑑賞会をするんだって目がキラキラしてた。
 私もそれが楽しみで、屋上に向かおうとしていた矢先、クラスの女の子に無理やり腕を引っ張られ、空き教室まで連行された。

「あんた。雷人様とどういう関係なわけ?」
「と、友達です」

「どうせクズ咲から誘惑したんでしょ?」
「そんなことしてな……いたいッ、離して」

 髪を引っ張られた。髪ゴムを強引に取られ、私は腰まである長い髪を晒すこととなった。また前のように「髪を切る練習」とか言って、私の髪で遊ぶのだろうか。

「天馬クンがアンタみたいな子、本気で相手するなんてありえないから」 
「友達だと思ってるのはクズ咲だけじゃない?」

「っ……」

 やっぱり、私なんかが天馬くんと話すなんてダメだったかな? 友達として相応しくないのかな?

「そんなことよりクズ咲」
「な、なに」

「これ、なーんだ」
「なっ……! 返して!!」

「返すわけないじゃん」

 複数人が私を押さえつける中、リーダー格の女子が持っていたそれは私にとって大事なもの。

 いつも取られるかもしれないと思って、スクール鞄を持ち歩いていたけど、空き教室に強引に連れてこられたときに取られていたなんて。

「なに? この気持ち悪いキーホルダー」
「やめて! それに触らないでっ……!」

 流架のキーホルダーを見て、鞄をその場に落とされた。踏まれてしまう。流架が汚される。そんな想像をしただけで私の意志とは関係なしに涙が溢れ出した。

 杞憂ならいいの。でも、この人たちは流架のことを物としてしか見ていない。いや、それ以下かもしれない。だからこれは想像なんかじゃなくて、今から起きること。

「コイツ、ガチ泣きしてんじゃん」 
「泣いて許してもらえるのは可愛い子だけだって授業で習いませんでしたぁ?」

「お願い……流架を離して」

「じゃあ土下座してよ」
「え?」

「アンタのフィクトなんとかっていう気持ち悪い病気はアンタの妄想でしたって、ウチらに謝罪して」
「妄想なんかじゃ……」

「謝罪する気がないなら、この鞄、踏むよ?」
「いやっ……。わかった。謝る、謝るから」

「それから、天馬クンには今後一切近付きません。フィクトなんとかは、この世で私しかいません。気持ち悪い妄想で貴方たちを傷つけてしまってごめんなさいって謝罪して」
「え……」

「それともコレが踏まれてもいいの?」 
「別にウチらはクズ咲の大事にしてるキーホルダーが壊れても痛くも痒くもないんだよ」

「っ……」

 なんで私がこの人たちに謝らないといけないのだろう。天馬くんとはただの友達で、それ以上の関係は今後もならないと誓えるのに。

 フィクトセクシュアルは私の妄想なんかじゃない。世の中にはいるはずだもん。私のように悩んでる人が。天馬くんだってその一人だって言えたらどんなに楽だろう。けれど天馬くんを私の事情に巻き込めない。これは私の問題だから。

 それに今まで傷つけられてきたのは私のほう。自覚がないイジメほど怖いものはない。この人たちは私に対して虐めているという認識は一ミリもないのだろう。

 自分たちは正しい。自分たちの正義を押し付けるために私を制裁して気持ちよくなっているのか。そうに違いない。

「早くしてくれる? ウチらもヒマじゃないんだけど」
「三~二~……」

「土下座する。土下座するから、流架をいじめないでっ」

 この世で最も嫌なカウントダウンをされ、私は焦りと流架を傷付けられるのが怖くて土下座することを選んだ。

「それで、なんていうんだっけ?」
「クズ咲が謝罪するとこ動画に撮って拡散しちゃお~」

「うぅ……わ、私は……」

 何人もの女の子たちからスマホを向けられた。

 逃げたい。一刻も早くこの場から去りたい。消えてなくなりたい。けど、流架を置いて逃げることはできない。

 流架、待っててね。私が今、助けてあげるから。

「フィクトセクシュアルは、わ、私だけの妄……」
「僕も君たちが気持ち悪いと思ってるフィクトセクシュアルだけど、何か問題ある?」

「!? て、天馬く……」

 女の子たちの後ろから低い声が聞こえた。と、思ったら、そこにいたのは天馬くんだった。どうしてここに居るの?

「雷人様!? 嘘、なんでここに?」
「天馬クン。私たちは遊んでただけだし?」 

「クズさ……じゃなかった。真白さんがウチらに推しを紹介してくれる~って言うから」

「フィクトセクシュアルと推し活ってよく間違われるんだよね。って、これは真白からの受け売りなんだけど。それと流架くんは真白の推しじゃなくて恋人だ」
「天馬くん。私……」

「真白、大丈夫? ……はい、これ。鞄は取り返したから」
「ありがとう天馬くん。流架、ごめんね。苦しかったよね。あとで怪我がないか確かめるからね」

「気持ち悪……っ。クズ咲のヤツ、キーホルダーに話しかけてんの?」
「雷人様がこんなヤツと一緒だって嘘ですよね!? コイツに騙されて友達ゴッコをして、フィクトなんとかを演じてるだけでしょ!」

「フィクトセクシュアルだ」

 その声は今まで聞いた中でも一番低かった。今、天馬くんは本気で怒っている。私にも痛いほど伝わってきた。

 ……そうだよね。本当にフィクトセクシュアルなのに演じてきたとか言われたら傷付くよね。ルルたんと出会って愛し合ってきたのは、ただの妄想なんかじゃなく現実なんだから。

 それを否定されることを言われたら私だって怒る。仮に私が天馬くんの立場だったとしても、同じ行動を取るだろう。

「へ?」
「よく知りもしないで馬鹿にするのはやめろ。僕の大事な友達にこれ以上ひどい言葉をかけるなら、僕も黙ってないけど、どうする?」

「っ……! 雷人様の馬鹿っ!」
「天馬クンがフィクトなんとかだって信じないから!!」

「行こっ。クズ咲一人ならいいけど、雷人様が来たんだったら話は別よ」
「クズ咲。覚えておきなさいよ!」

 女の子たちは捨てセリフを吐いて、空き教室から出て行ってしまった。

「真白、怪我はない?」
「私は大丈夫。でも、流架が……」

「流架くん、ごめん。君の大事な恋人を助けに来るのが遅くなって。真白は僕にとっても大切な友達なのに」
「……天馬くん」

 その言葉がなにより嬉しかった。私のことを大切な友達って言ってくれたことが。そして、私と同じように流架にも優しく声をかけてくれることも。

「天馬くんは悪くないから謝らないで。流架も天馬くんには怒ってないと思うから。それよりも約束してたのに行けなくてごめんね。怒るなら私を……て、天馬くん?」

「真白が約束の時間に遅れるなんてこと今までなかったから。だから学校中探し回ったんだ。助けるのが遅くなって本当にごめん。でも君が無事で本当に良かった」

「っ……うん」

 これだけ優しい言葉をかけられたら好きになってしまうだろう。本当は私のこと好きなんじゃないか? なんて勘違いもしてしまう。けれど、私たちにはそれがない。天馬くんは友達として私のことを心配しているだけ。

「僕がフィクトセクシュアルって言ったの、あの子たち信じてないよね」
「そりゃあ天馬くんみたいに完璧な人が私と同じには見えないだろうね。でも、天馬くんはルルたんが好きだもんね?」

「そうだね。ルルたんは僕の中で一番の美少女だから。それに……」
「ん?」

「あの子たちの中で認められなくても、真白に認められればそれでいい。だから、これからもルルたんの話を聞いてくれる?」
「……もちろん」

「流架くんの話も聞かせて。昨日の夜はどうだったの?」
「実はね?昨日の夜、流架とデートして……」

 私たちは特別な関係で繋がっている。まわりからは付き合っているとか今後は変なウワサが流れるかもしれない。
 けれど、私たちにはお互いに好きな人がいて、世界で一番愛している人と付き合っている。お互いがお互い、それを理解しているならそれでいい。

 まわりに何を言われても、私たちはお互いを「友達」だと胸を張って言える。その日も私たちはお互いに好きな人の話で盛り上がった。

 あれから私のイジメは収集がつかないほど悪化するものだと思っていた。が、エスカレートすることはなかった。もちろん、いじめが完全になくなったというわけではない。

 あの日、私をいじめていた女の子たちに天馬くんが何かを言ったらしい。本人からはあとで聞いた話なのだが、「今後、真白を虐めることがあるなら僕が許さない」って言い放ったそうだ。

 もちろん勘違いをされたらしい。「やっぱり付き合ってんじゃん!」とか「クズ咲のどこがいいわけぇ?」と私のことをバカにした言葉を放つと、天馬くんのパンチが飛んできたとか。

 どんなことがあっても人を殴ることはしなくないと、パンチは壁にしたらしいのだが……。言うまでもなく、その日の天馬くんの手は血だらけだった。一体どんな力で殴ったのか。

 それを目の前で見ていた女の子たちはさすがに引いたらしく、それ以来、私に対するいじめが少し減った。

 天馬くんはすごい。私はいじめられて当たり前だと思っていたから。天馬くんの一言でいじめが改善されるなんて、天馬くんはルルたんにとってさぞカッコいいヒーローなんだろう。ルルたんが天馬くんに惚れる理由も今なら、なんとなくわかる。
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