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最終章

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「蒼、炎先輩。私、白虎先輩がどこにいるかわかるかもしれません」

「そうなのか?」

「はい。蒼炎先輩と契約したことによって力も安定して使えるようになったみたいで。白虎先輩は学校のどこかにいるみたいです」

「なら、さっさと見つけて始末しないとな」

「物騒なことしちゃダメです! そんなことしたら蒼炎先輩がヴァンパイアだって今度こそバレちゃいますよ」

「話し合いで解決なんて出来るわけない。ここまできたら殴り合いの喧嘩でもしねぇと、俺の気がおさまらねぇ」

私のことで怒ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり駄目だ。
手を汚すのは私だけでいい。元々、私が白虎先輩に女だとバレたのが原因なんだから。

「喧嘩は私がするので蒼炎先輩は隣で見てるだけでいいです。さぁ、行きましょう?」

「あ、あぁ」

これまで散々助けてもらったんだ。次は私が蒼炎先輩に恩を返さないと。

~屋上~

「来るのが遅かったねぇ紫音ちゃんと蒼炎」 

「白虎先輩、今すぐあの張り紙の事実を取り消してください」 

「どうやって?」 

「貴方なら全校生徒の記憶操作くらい簡単でしょう?」

「出来るけど、そんなことすると思ってるの?」

「だったら貴方を殺すことになりますが、それでもいいですか?」

「おい紫音。これだとお前の手が汚れるだけだろ! なんの解決にもなってない」 

「蒼炎先輩は一旦黙っててください」 

「っ……ああ」

私は静かな殺気を蒼炎先輩に向けた。

向ける相手を間違ってるんじゃないかって? そうかもしれないね。
敵は目の前に居る白虎先輩なんだから。

だけどこれ以上、蒼炎先輩には汚れてほしくないから。

「蒼炎と契約したんだねぇ。ヴァンパイア殺しの目を出してオレを殺すつもりぃ?」

「そうだといったら?」

「それでキミはいいの? 罪悪感は? 優しいキミのことだ。それなりに翼と仲の良かった友人を殺すのは多少なりとも情がわくはず。そんなオレを殺せるの?」

「だから話し合いに来たんです」

「それに応じると思ってる?」

「ここに約1ヶ月分の私の血が瓶に入ってます。白虎先輩は私の血がほしくてたまらない。それなら、これで交換条件としては十分でしょう?」

「おまっ、紫音……!」 

無茶をするなと言いたそうな目ですね。蒼炎先輩。

血を取るのは注射器だから簡単だったけど、さすがに貧血気味にはなった。
今にも倒れそうだけど、私はまだ倒れるわけにはいかないから。

「直接吸わせない代わりに小瓶に入れたわけねぇ。本当は半年分くらい貰いたいところだけど、今回はいいよ。それで交渉に応じてあげる」

「ありがとうございます白虎先輩」

「でも忘れないこと。オレ以外にもキミを狙うヴァンパイアはいくらでもいることを」

「そんなのわかってますよ。でも蒼炎先輩が隣にいてくれたら私は大丈夫なので」

「そう。じゃあこれはもらっていくね? 記憶は明日には全て消えてるからさ。またどこかで会う機会があればいいね、紫音ちゃん」

屋上から飛び降りて姿を消した白虎先輩。あの高さからでも死ぬことはないだろう。

「紫音っ……! お前本当に無茶苦茶だ。あれで白虎が応じなかったら、どうするつもりだったんだ!?」

「白虎先輩も言ってたとおり、半年分の血を一気に渡すしか」  

「それでお前が倒れたりしたら……俺は……」

「倒れるかもしれませんが、私は死にませんし」 

「そういう問題じゃねえよ。紫音、お前はもっと自分を大事にしろ」

また抱きしめられてしまった。

震えている蒼炎先輩。

私が消えるとでも思ったのかな?
こんなので簡単に死ねたらよかったのに、ね。

なんて、蒼炎先輩に言ったら怒られてしまうだろうから黙っておこう。

「俺よりも強いヴァンパイアがお前を狙ったとしても俺はお前を守り抜くから」

「ありがとうございます蒼炎先輩。けど、もしかすると私は蒼炎先輩よりも強いかもしれませんよ?」

「それはそうかもな」 

「ふふっ。でも、その気持ちだけで嬉しいです。蒼炎先輩は大丈夫ですか? お腹空いてないです?」

「あんなことがあって今からお前の血を吸ったらそれこそ倒れるだろ」

一時期にはそうだろうけど、私は蒼炎先輩が困ってるなら自身を差し出しても良いって思っちゃう。

「蒼炎先輩に吸われるなら悪くないかもしれませんね」

「お前の血も、お前の初めてもすべて俺だけのものだからな。だから今後は他のやつに簡単に渡すなよ?」

「わかりました」

「俺はもうお前の先輩じゃない。これからは分かるだろ?」

「蒼炎、好き」

「俺も愛してるぞ。紫音」

私は首筋を蒼炎に見せる。蒼炎は私の首に牙を立てた。

そう、彼は翼お兄ちゃんが言っていた通り、とても優しい。
それでいて誰よりも美しく、壊れそうな、そんなヴァンパイア。

私は彼と契約をすると同時に蒼炎の恋人になった。

☆     ☆     ☆


翌日、彼らの記憶から私が女であることは消えていた。


「紫音、起きろ朝だぞ」

「う~ん」

「早く起きないとおはようのキスするからな」 

「蒼炎になら毎日でもしてほしいな」

「っ……! お前、少し性格変わってないか?」

「もうガキだって言われないように、少しでも大人らしくしようと思って」

「そんなのしなくても、もう言わねぇよ。だってお前は俺の大事な恋人なんだから」

「蒼、……。んっ……」

名前を最後まで言う前に唇を塞がれてしまった。

ヴァンパイア殺しの目をもつ化け物のような私を蒼炎は愛してるといってくれた。私もそんな蒼炎が好き。

人間だとかヴァンパイアだとか、愛するのに種族は関係ない。お互いに好きって気持ちが大事なんだから。

蒼炎は私にそれを教えてくれた。ありがとう、蒼炎。私と出会ってくれて。

「紫音。これからも俺から離れるなよ」

「うん。私はこれからも蒼炎から絶対に離れたりしないから」

私たちは愛を囁きあう。2人だけの秘密の部屋で。

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