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一話
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「千夏さん、久しぶりです!」
「わっ……」
ちょうど仕事が終わり家に帰る途中、名前を呼ばれた。すると返事をする間もなく、いきなり抱きしめられた。
「ちょっ。誰かと間違ってませんか?」
目の前にいる彼は白馬の王子様が降り立ったんじゃないかってくらいカッコよくて。身長はもうすぐ190いきそうなくらい高身長で、スーツだって明らかにオーダーメイドで高そう。
普通の人がスーツを着てても、「ふーん」ってくらいにしか思わないのに……。彼はスーツ越しでも鍛え上げられたであろう筋肉がチラ見えしている。
そんな彼が私の知り合いなはずない。絶対に。
「間違ってません。桜井千夏さんですよね? 今は保育士でしたっけ? 昔、子供が好きだって俺に話してましたし、今の仕事はピッタリですね」
「へ?」
私が保育士だってことを知ってる? 子供は昔から好きだったけど、彼にいつそんなこと話したっけ? 記憶がない。
「あ、すみません。その反応だと俺のこと覚えてないですよね」
「ご、ごめんなさい」
「謝らないでください。無理もないですよ」
「え?」
「だって俺と千夏さんが最後に会ったのは6年も前の話なんですから」
「そんな前に?」
思い出そうとしても思い出せない。なぜだろう? こんなに素敵な人なら記憶の片隅に残っていてもおかしくないはずなのに。
「藤堂樹です。約束通り、千夏さんに相応しい男性になって帰ってきました」
「んっ!?」
「久しぶりの千夏さんの唇、相変わらず甘いですね」
「へっ?」
頭をガシッと押さえられたと思ったら、そのまま彼のほうにグイっと引き寄せられて、強引にキスされた。彼とは初めてキスをするはずなのに、なんだか懐かしいような……。
彼とのキスは初めてじゃない。今まで忘れてしまっていただけ。私にとっては思い出したくない記憶だったから。
「藤堂さん」
「千夏さん、どうしましたか?」
「今更どんな顔して私の前に現れたんですか!?」
私は藤堂さんの胸板を押し、拒否するように距離をとった。
6年前の藤堂さんは今とは身なりも……お世辞にも綺麗とは言えなかった。どちらかといえば小汚い。それが第一印象。
私がそう感じるのも無理はない。出会った頃の藤堂さんはその場暮らしの、所謂ホームレスだったから。それが何故、童話に出てくるような王子様みたいな見た目に変わっているの?
私が保育士をする前、ただのスーパーのバイトをしていた時、私は藤堂さんと出会った。最初は同情からだった。バイトの帰り道、捨てられた仔犬のような格好でうずくまっていたから声をかけて、それから一時的だが私のアパートで一緒に暮らした。
それなりに仲も深まり、私も藤堂さんのことを異性として気になり始めたころ、藤堂さんは突然私の前から姿を消した。せめて次の行先くらい手紙に残してくれたら良かったのに……と私は嘆いた。
私の手料理を食べ、十分な睡眠を取れたから、私は用無しってこと? そんなの、あんまりだ。それとも他の女が見つかったのか。本人に聞こうにも家を出て行ったあとで聞けずじまいだった。
私は藤堂さんという存在を記憶から完全に抹消していた。思い出すだけ私が辛い思いをするだけだから。それなのに、藤堂さんは再び私の前に現れた。私は会いたくなかった。
「6年前はすみませんでした。突然いなくなって千夏さんも驚きましたよね」
「……」
驚くどころか、私にとってはトラウマだ。そのせいで男性に不信感を抱いて、あれから恋人はおろか、男性の影すらない。私はもう28歳。本来なら交際よりも結婚を本気で考える年齢だ。なのに過去が邪魔して前に進めない。
「でも千夏さんも悪いんですよ」
「え?」
「俺を拾って間もない頃に男性のタイプを聞いたら、自分と同じくらい収入が安定してる人が良いとか、自分は家事が得意だから専業主婦が良いとか俺の前でいうから」
「あれは冗談に決まってるでしょ。今時、専業主婦で暮らしていける女性なんているわけない」
「今の俺だったらできます」
「へ?」
「千夏さん好みの男になったから……だから千夏さんの前に現れたんです」
「私は貴方のせいで次の恋愛にいけないのよ…どうしてくれるの?」
押さえていた感情が溢れだし、涙が零れ落ちた。
「そんなに俺のことを想ってくれていたなんて嬉しいです」
「っ」
再び抱きしめられた。嫌なはずなのに。拒絶して突き放せばいいのに……。どうして出来ないんだろう? 鼻をくすぐる柑橘系の匂い。出会った頃とはかなり変わってしまったけれど、一つだけ変わってないところがある。
「千夏さん、大好きです」
私を惑わす甘いマスク。これだけは昔と何も変わっていない。この笑顔に私は堕とされ、昔もキス以上のことをしたっけ。辛い思い出ばかりじゃない。楽しい思い出だってある。中には思い出したくないほど恥ずかしい記憶だって。
「聞いてください千夏さん」
「なんですか?」
「俺と結婚前提に付き合ってください」
「え……えぇ~!?」
両手を握られたと思ったら、婚約指輪を私の指にはめる藤堂さん。私は突然のプロポーズに開いた口が塞がらなかった。
「わっ……」
ちょうど仕事が終わり家に帰る途中、名前を呼ばれた。すると返事をする間もなく、いきなり抱きしめられた。
「ちょっ。誰かと間違ってませんか?」
目の前にいる彼は白馬の王子様が降り立ったんじゃないかってくらいカッコよくて。身長はもうすぐ190いきそうなくらい高身長で、スーツだって明らかにオーダーメイドで高そう。
普通の人がスーツを着てても、「ふーん」ってくらいにしか思わないのに……。彼はスーツ越しでも鍛え上げられたであろう筋肉がチラ見えしている。
そんな彼が私の知り合いなはずない。絶対に。
「間違ってません。桜井千夏さんですよね? 今は保育士でしたっけ? 昔、子供が好きだって俺に話してましたし、今の仕事はピッタリですね」
「へ?」
私が保育士だってことを知ってる? 子供は昔から好きだったけど、彼にいつそんなこと話したっけ? 記憶がない。
「あ、すみません。その反応だと俺のこと覚えてないですよね」
「ご、ごめんなさい」
「謝らないでください。無理もないですよ」
「え?」
「だって俺と千夏さんが最後に会ったのは6年も前の話なんですから」
「そんな前に?」
思い出そうとしても思い出せない。なぜだろう? こんなに素敵な人なら記憶の片隅に残っていてもおかしくないはずなのに。
「藤堂樹です。約束通り、千夏さんに相応しい男性になって帰ってきました」
「んっ!?」
「久しぶりの千夏さんの唇、相変わらず甘いですね」
「へっ?」
頭をガシッと押さえられたと思ったら、そのまま彼のほうにグイっと引き寄せられて、強引にキスされた。彼とは初めてキスをするはずなのに、なんだか懐かしいような……。
彼とのキスは初めてじゃない。今まで忘れてしまっていただけ。私にとっては思い出したくない記憶だったから。
「藤堂さん」
「千夏さん、どうしましたか?」
「今更どんな顔して私の前に現れたんですか!?」
私は藤堂さんの胸板を押し、拒否するように距離をとった。
6年前の藤堂さんは今とは身なりも……お世辞にも綺麗とは言えなかった。どちらかといえば小汚い。それが第一印象。
私がそう感じるのも無理はない。出会った頃の藤堂さんはその場暮らしの、所謂ホームレスだったから。それが何故、童話に出てくるような王子様みたいな見た目に変わっているの?
私が保育士をする前、ただのスーパーのバイトをしていた時、私は藤堂さんと出会った。最初は同情からだった。バイトの帰り道、捨てられた仔犬のような格好でうずくまっていたから声をかけて、それから一時的だが私のアパートで一緒に暮らした。
それなりに仲も深まり、私も藤堂さんのことを異性として気になり始めたころ、藤堂さんは突然私の前から姿を消した。せめて次の行先くらい手紙に残してくれたら良かったのに……と私は嘆いた。
私の手料理を食べ、十分な睡眠を取れたから、私は用無しってこと? そんなの、あんまりだ。それとも他の女が見つかったのか。本人に聞こうにも家を出て行ったあとで聞けずじまいだった。
私は藤堂さんという存在を記憶から完全に抹消していた。思い出すだけ私が辛い思いをするだけだから。それなのに、藤堂さんは再び私の前に現れた。私は会いたくなかった。
「6年前はすみませんでした。突然いなくなって千夏さんも驚きましたよね」
「……」
驚くどころか、私にとってはトラウマだ。そのせいで男性に不信感を抱いて、あれから恋人はおろか、男性の影すらない。私はもう28歳。本来なら交際よりも結婚を本気で考える年齢だ。なのに過去が邪魔して前に進めない。
「でも千夏さんも悪いんですよ」
「え?」
「俺を拾って間もない頃に男性のタイプを聞いたら、自分と同じくらい収入が安定してる人が良いとか、自分は家事が得意だから専業主婦が良いとか俺の前でいうから」
「あれは冗談に決まってるでしょ。今時、専業主婦で暮らしていける女性なんているわけない」
「今の俺だったらできます」
「へ?」
「千夏さん好みの男になったから……だから千夏さんの前に現れたんです」
「私は貴方のせいで次の恋愛にいけないのよ…どうしてくれるの?」
押さえていた感情が溢れだし、涙が零れ落ちた。
「そんなに俺のことを想ってくれていたなんて嬉しいです」
「っ」
再び抱きしめられた。嫌なはずなのに。拒絶して突き放せばいいのに……。どうして出来ないんだろう? 鼻をくすぐる柑橘系の匂い。出会った頃とはかなり変わってしまったけれど、一つだけ変わってないところがある。
「千夏さん、大好きです」
私を惑わす甘いマスク。これだけは昔と何も変わっていない。この笑顔に私は堕とされ、昔もキス以上のことをしたっけ。辛い思い出ばかりじゃない。楽しい思い出だってある。中には思い出したくないほど恥ずかしい記憶だって。
「聞いてください千夏さん」
「なんですか?」
「俺と結婚前提に付き合ってください」
「え……えぇ~!?」
両手を握られたと思ったら、婚約指輪を私の指にはめる藤堂さん。私は突然のプロポーズに開いた口が塞がらなかった。
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