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十章 柊黒炎
87話
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俺は美羽さんの服を強く掴み、静かに泣いた。
「さっきは冷たい態度をとってごめんなさい。本当は家出してきたんだ。だけど、あの家には帰りたくない」
「無理して全てを話そうとしなくていいわ。……じゃあ、私達の家で一緒に暮らさない?」
「でも……」
あまりに唐突な提案に俺は戸惑うばかりだった。血の繋がりもない、ましてや今会ったばかりでそんなことをしてもらうわけにはいかない。
「却下。美羽姉さん、人間一人を育てるのにどれだけの養育費がかかると思って」
「紅蓮。貴方だって本当は心配してるんでしょう?」
「……それなりに、ね。こんな場所で野垂れ死にされても迷惑なだけだから」
心配してくれているんだろうか。この頃の会長は今みたいに堅苦しくなかった。落ち着いてはいたけど、まだ中学生なんだなという感じで。
俺は美羽さんに誘われるがままに家に行くことになった。少しは申し訳ない気持ちと罪悪感にかられることもあった。が、小学生のガキが親の援助なしに暮らすのは不可能だから甘えることにした。
美羽さんと会長は俺にとって命の恩人だった。働けるようになったら、ちゃんと礼を返さないといけないと心の中で決めていた。
こうして、俺は如月家に住むことになった。
「紅蓮、黒炎、食事が出来たわよ」
俺が如月家で暮らし始めて、三ヶ月が経った。美羽さんは俺を弟のように可愛がってくれて愛情も注いでくれた。
まだ高校生だから、母親みたいだというと怒られそうなので姉が出来たみたいだった。会長とは少しだけ距離が遠いけど、それなりに仲良くしている。
「やっぱり美羽さんの手料理は美味しいです」
「黒炎。手料理を褒めて、美羽姉さんに媚びてるつもり?」
「違うよ。本当に美味しいと思っただけ」
二人は俺を本当の家族のように接してくれた。それがとても嬉しくて、なにより嘘の世界で生きてきた俺には今の生活が凄く幸せだった。
未だに俺の名字も家庭のことも聞いてこない。気を遣っているのだろうか。俺が如月家にお世話になってすぐの頃、会長が自分の家庭について話してくれた。
なんでも両親は早くに死んで、今は親戚にお世話になっているらしい。けれど、美羽さんの身体が弱いせいで迷惑をかけていると親戚とは別々の家で暮らしているとか。
高校卒業までの養育費は出すと約束はしてくれたものの、二人のことをあまりいいように見ていない。会長が美羽さんのことをいつも気にかけているのが、その話を聞いて納得できた。
「さっきは冷たい態度をとってごめんなさい。本当は家出してきたんだ。だけど、あの家には帰りたくない」
「無理して全てを話そうとしなくていいわ。……じゃあ、私達の家で一緒に暮らさない?」
「でも……」
あまりに唐突な提案に俺は戸惑うばかりだった。血の繋がりもない、ましてや今会ったばかりでそんなことをしてもらうわけにはいかない。
「却下。美羽姉さん、人間一人を育てるのにどれだけの養育費がかかると思って」
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「……それなりに、ね。こんな場所で野垂れ死にされても迷惑なだけだから」
心配してくれているんだろうか。この頃の会長は今みたいに堅苦しくなかった。落ち着いてはいたけど、まだ中学生なんだなという感じで。
俺は美羽さんに誘われるがままに家に行くことになった。少しは申し訳ない気持ちと罪悪感にかられることもあった。が、小学生のガキが親の援助なしに暮らすのは不可能だから甘えることにした。
美羽さんと会長は俺にとって命の恩人だった。働けるようになったら、ちゃんと礼を返さないといけないと心の中で決めていた。
こうして、俺は如月家に住むことになった。
「紅蓮、黒炎、食事が出来たわよ」
俺が如月家で暮らし始めて、三ヶ月が経った。美羽さんは俺を弟のように可愛がってくれて愛情も注いでくれた。
まだ高校生だから、母親みたいだというと怒られそうなので姉が出来たみたいだった。会長とは少しだけ距離が遠いけど、それなりに仲良くしている。
「やっぱり美羽さんの手料理は美味しいです」
「黒炎。手料理を褒めて、美羽姉さんに媚びてるつもり?」
「違うよ。本当に美味しいと思っただけ」
二人は俺を本当の家族のように接してくれた。それがとても嬉しくて、なにより嘘の世界で生きてきた俺には今の生活が凄く幸せだった。
未だに俺の名字も家庭のことも聞いてこない。気を遣っているのだろうか。俺が如月家にお世話になってすぐの頃、会長が自分の家庭について話してくれた。
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