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研究
研究1
しおりを挟む誰もが知ってる有名大学が卒業校だと噂される高橋先生の授業は、独特のボソボソ声で淡々と進み、授業が始まると、ものの五分で生徒の大半が眠りに落ちる。
幸か不幸か、授業内容なんてほぼ聞いていない私は、この高橋先生の眠りの魔力の範疇にはおらず、その場に起こる力のシステムを客観視する事ができた。
どの先生の授業だろうが、あっという間に眠り出す数名は論外として、彼等以外は他の先生の授業で居眠りする事などない。
なのに、この時間だけは、居眠りのイメージが湧かない女子男子、挙句、真面目グループの面々でさえも、うつらうつらと居眠りを始める。
唯一、生徒会役員の優等生、堤さんだけはピシッと背を伸ばし、ノートにペンを走らせる。
高橋先生が授業で話す声のトーン、響き、揺らぎ、ここに眠りを誘うメカニズムがあり、授業を聴かない私と、集中して聴く堤さんは効果が薄い。
色々要素を抜き出して、放課の何気ない車座の会話で試してみると、最初は何ともなかったのが、あれこれ調整するにつれ、極々微細なある一点、響き、揺らぎ、声量、其々(それぞれ)が組み合わさるその点で、皆の瞼がフワッと重くなる一瞬があり、その一点にフォーカスして会話を続けると、全員が虚ろになり、内三人がカクンと寝落ちした。
その後の研究で、高橋先生と同じトーンで質問し、会話を続けると、眠りの効果が更に増し強力になる事が分かり、もっぱらこの効果の見極めに集中した。
ある日の質疑応答で、
「先生~、備前、備中、備後は~東からですかぁ~、西からですかぁ~?」
『東からぁ~並んでまぁすよ~』
というやり取りの後、
【バタリ】
という音がして、堤さんが陥落した。
いつも授業と同時に寝始める島田の鼾(いびき)と、高橋先生の板書の音が響く教室をさておき、今し方完成した眠りのレシピを脳内空間に持ち帰り再検証に没頭し、ふと気がつくと既に三限目の授業が終わろうとしていた。
後にクラスメイトから聞いた話では、没頭している私がフリーズする事はちょくちょくあったようで、黒板を直視したまま、終業、始業の挨拶も、休み時間も微動だにしないらしく、最初の数度はちょっとした騒動になったようですが、結局、先生も含め放置というところで意見がまとまったようです。
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