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人知れずの妖魔
19話 現場侵入
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青春はあの後、3バカの集めた情報を聞いた。
だいたい秋葉が言ってた事と同じだった。
唯一の新情報は、ヤクザの抗争より前にも猟奇殺人鬼が出たことがあったということだった。
10年近くも前の事ではあるらしいが、周辺に住んでる方からの情報だから間違いない。
青春は3バカと別れ、夜を待つ。
今回は人質というか、助けを待つ人もいないため、今すぐ行動する必要はない。
ならば、自らの力を発揮できる夜に動くのが妥当。
長引く可能性を考え、夜6時になるタイミングを見計らう。
その間、黄緑とも別れて6時に待ち合わせしようとしていたのだが、彼女は「青くんといる!」
……と言って聞かなかったため、しぶしぶ一緒に時間を潰した。
ゲーセン行ったり喫茶店入ったりして、黄緑の当初の予定通りデートした。
終始ニコニコで遊びに付き合わされた青春だったが、彼の方も意外と満更ではない様子だった。
友人がいないため、こうやって人と遊ぶ経験が皆無だったからだ。
♢
――6時ちょっと前。
2人は現場に戻り、近くの廃ビルを昇る。
黄緑は階段上がりながら聞く。
「なんでこんなところ入るの?」
「簡単な話だよ。上から侵入するため」
「上から?」
ちんぷんかんぷんな黄緑。
「この階くらいでいいか……」
青春は5階で足を止める。
内部は解体途中で工事を止めたかのように、所々瓦礫にまみれている。
足元に注意しながら、壊れた窓付近に近寄る青春。ガラスもなく、サッシはとれかかり、そこから凍える風がビュービューと吹き抜けている。
そこから下を覗き込むと、例の殺人現場が見下ろせる。
「青くん危ない!」
覗き込んだだけで別に危なくないのだが、黄緑はチャンスと言わんばかりに青春に抱きつく。
合法的に抱きつくチャンスは逃さない女だ……
まあ、足を滑らせたらまっ逆さまだから危険は危険なのだが……
青春はまさにそれをしに来たのだ。
「お姉さん。ここから現場に侵入するよ」
「え? 飛び降りるってこと!? 怪我するよ!?」
普通の人間なら怪我どころか即死な高さだから、黄緑の発言も少しズレてる。
青春がその判断をするということは、怪我の心配などないのだろう。
共に普通の人間ではないし当然の話だが。
「今の僕らなら、こんな高さじゃかすり傷一つ負わないから大丈夫だよ」
「でも心配だから、私が青くん抱っこして降りようか?」
「……僕より自分の心配しなよ」
「ワタシは大丈夫! 前に試したけどこれくらいの高さなら、余裕だったよ!」
つまり黄緑は最初から自分ではなく青春の心配をしてたようだ。
……そもそも黄緑と同じく青春も、妖猫ヒルダの力をもつのだから心配無用なのだが。
いや、それを理由に青春に触りたいだけなのかもしれない……
この女ならありうる。
『フフフ。やはり何か企んでたでござるね!』
背後から声が……
この口調からして……
「ウチも混ぜてほしいでござる!」
丸眼鏡の女子高生、秋葉が二人の背後からぬるっと現れた。
「げええ! 秋葉先輩なんで……」
露骨に嫌そうな顔をする黄緑。
秋葉はそんな態度気にせずに、
「ウチだけではないでござる」
「はっ?」
「どうぞどうぞ」
秋葉に手招きされて現れたのは、桃色二つ結びの、おどおどしたかわいらしい女の子……青春の同級生桃泉和花だった。
「え、桃泉さん? なんでここに……」
あまりにも想定外な人物が現れたので、基本無表情な青春すら少し驚いた様子だった。
和花は少し、照れくさそうに言う。
「秋葉先輩が闇野くんの手助けに行くって言うから……あたしも手伝いたくて……」
「彼女、中等部なんでござるけど、お姉さんの真琴氏に連れられてたまにウチの漫研に来るんスよ。今日は休みなのに来てたからついでに誘ったでござるよ」
漫研にそこそこ出入りしてた黄緑はまったくの初耳だった。
黄緑と和花が会ったのは先日の騒動が初めてだったし。
今までは偶然会わなかったのだろう。
ただ、黄緑にとってはそんなことはどうでもいい。
彼女にとって、和花は目の上のたんこぶ。青春に近寄るメスというイメージしかないのだ。
ゆえに、あまりいい印象はない。
現に、黄緑は少しイライラしている。ただ、青春を心配してくれてるというので、邪険にはできないのだが。
とはいえ……
「あの~お二人には悪いんだけど、邪魔というか~戦力外なんで~迷惑というか~」
精一杯オブラートにつつんだつもりで黄緑は断ろうとする。
……全然オブラートにつつまれてないのだが。
「まあ気にしないで。取材したいだけでござるから」
「あ、あたしもなんでも手伝うんで!」
しかし二人は折れない。
黄緑は内心思う。
(うぜえええええええ! 無力な一般人は入ってくるなって言いたいの! こっちは!)
「……この先は命の保証できないよ。僕とお姉さんみたいに力でもあるなら話は変わるけど」
青春もまた忠告。
すると、秋葉が笑いだす。
「ブフフっ! 命の保証? なーに言ってるでござるか! 犯人もいないのに、危険なんてあるわけないでござるよ」
「まあにわかには信じられないだろうけど……実は妖魔っていう、」
「とにかく、何か潜入方法あるんでござろう? まーぜて!」
青春のここから潜入するという言葉を聞き、壊れた窓の先に何かあると推測した秋葉。
そして何を思ったかダッシュして、窓の外へ……
飛び出した!?
「あれ? なにもな……」
「いいいいいいいい!?」
青春と黄緑はあまりにも想定外な行動をした秋葉に驚愕すると、同時に動く!
「お姉さん!」
「わかってる! あのアホ先輩!」
黄緑はすぐに窓の外に飛び込んで、落ちた秋葉を追う。
そして青春は……
「桃泉さん! 僕も後を追うけど、1人で帰れるよね?」
時間はまだ6時前。まだ辺りはそんなに暗くもないし、危険はないと判断。
基本女の子の夜道は危ないと青春は思ってるから、できれば家まで送りたい所。だが今は緊急事態。
ゆえに1人で帰ってもらおうと思ったのだが……
「――!?」
青春は何かの気配を感じる。
(しまった……僕とした事がうかつだった。殺人現場に妖魔がいるなら、その周辺もテリトリーの可能性も考えられただろ!)
複数の妖魔の気配が、今になって露《あら》わになったのだ。
つまり、この廃ビルもまた奴ら妖魔の住みかだった。
……おそらく、猟奇殺人鬼事件を操ってる妖魔の配下。そう青春は推測する。
数は多いが、矮小な妖魔の集団に見えるからだ。
だがいかに矮小でも、ただの人間にとっては恐るべき脅威。
大の大人、いや軍人だとしても、奴ら妖魔の前では無力だ。
そして奴らはおそらく矮小ゆえに、戦闘能力の高い青春と黄緑に警戒していた。だから今まで身を潜め、気配を消していたのだろう。
それが和花1人にでもなってしまえば、彼女は一瞬で餌食になる。
となれば、彼女を1人で帰宅させるわけにはいかなくなる。
ちなみに、今になって青春が気配に気づけたのは妖魔達の油断である。
厄介な者が1人消え、餌となりうる人間の存在。ゆえに目の前の餌に待てと、止められてる犬のような状況になった妖魔達。だから気配が漏れた。
ギリ6時になってないため、青春が夜状態じゃないせいもある。
夜状態なら恐怖で奴らは動く事すら出来なかったはず。
逆に幸いだった。夜状態なら気配が漏れないことで妖魔に気づかず、和花を1人にしてしまっていたかもしれない。
……今からビルの妖魔を殲滅するとしたら時間がかかる。雑魚とはいえ数が多いし、奴らも逃げ惑うはず。
そうしてる間に先に行った黄緑と秋葉に危険が迫るやもしれない。
青春の推測では事件の黒幕の妖魔は、前回のサイクロプス並みはあると思っている。
そうなると黄緑1人では危険すぎる。
となれば……
「桃泉さん、ごめん。触るよ」
「――え!?」
青春は和花を抱き寄せる。そしてその状態で5階から事件現場へと飛び込んだ!
ただの人間の和花を落下の衝撃から守るにはこれしかなかった。
青春は恥ずかしいやら和花に悪いやらの感情が駆け巡るが、仕方なかった。
和花を置いて行けない、黄緑を早く追わなきゃ行けない。
そうなると和花も連れてくしかなかったから。
和花は状況をつかめてなかったが、抱き寄せられた事で顔を赤らめ、満更でもなさそうだった。
青春は落下しながら現場を見渡す。そこからの視点に黄緑と秋葉の姿がない。
移動した?……いや違う。
「……分断、された?」
つづく。
「ああ~!! メス猫!! 抱き寄せられてるんじゃないわよ!!」
「次回 黄緑、秋葉チームの行方。ちょ、ちょっと! 二人きりになってるわけ!? お姉ちゃん認めない!」
だいたい秋葉が言ってた事と同じだった。
唯一の新情報は、ヤクザの抗争より前にも猟奇殺人鬼が出たことがあったということだった。
10年近くも前の事ではあるらしいが、周辺に住んでる方からの情報だから間違いない。
青春は3バカと別れ、夜を待つ。
今回は人質というか、助けを待つ人もいないため、今すぐ行動する必要はない。
ならば、自らの力を発揮できる夜に動くのが妥当。
長引く可能性を考え、夜6時になるタイミングを見計らう。
その間、黄緑とも別れて6時に待ち合わせしようとしていたのだが、彼女は「青くんといる!」
……と言って聞かなかったため、しぶしぶ一緒に時間を潰した。
ゲーセン行ったり喫茶店入ったりして、黄緑の当初の予定通りデートした。
終始ニコニコで遊びに付き合わされた青春だったが、彼の方も意外と満更ではない様子だった。
友人がいないため、こうやって人と遊ぶ経験が皆無だったからだ。
♢
――6時ちょっと前。
2人は現場に戻り、近くの廃ビルを昇る。
黄緑は階段上がりながら聞く。
「なんでこんなところ入るの?」
「簡単な話だよ。上から侵入するため」
「上から?」
ちんぷんかんぷんな黄緑。
「この階くらいでいいか……」
青春は5階で足を止める。
内部は解体途中で工事を止めたかのように、所々瓦礫にまみれている。
足元に注意しながら、壊れた窓付近に近寄る青春。ガラスもなく、サッシはとれかかり、そこから凍える風がビュービューと吹き抜けている。
そこから下を覗き込むと、例の殺人現場が見下ろせる。
「青くん危ない!」
覗き込んだだけで別に危なくないのだが、黄緑はチャンスと言わんばかりに青春に抱きつく。
合法的に抱きつくチャンスは逃さない女だ……
まあ、足を滑らせたらまっ逆さまだから危険は危険なのだが……
青春はまさにそれをしに来たのだ。
「お姉さん。ここから現場に侵入するよ」
「え? 飛び降りるってこと!? 怪我するよ!?」
普通の人間なら怪我どころか即死な高さだから、黄緑の発言も少しズレてる。
青春がその判断をするということは、怪我の心配などないのだろう。
共に普通の人間ではないし当然の話だが。
「今の僕らなら、こんな高さじゃかすり傷一つ負わないから大丈夫だよ」
「でも心配だから、私が青くん抱っこして降りようか?」
「……僕より自分の心配しなよ」
「ワタシは大丈夫! 前に試したけどこれくらいの高さなら、余裕だったよ!」
つまり黄緑は最初から自分ではなく青春の心配をしてたようだ。
……そもそも黄緑と同じく青春も、妖猫ヒルダの力をもつのだから心配無用なのだが。
いや、それを理由に青春に触りたいだけなのかもしれない……
この女ならありうる。
『フフフ。やはり何か企んでたでござるね!』
背後から声が……
この口調からして……
「ウチも混ぜてほしいでござる!」
丸眼鏡の女子高生、秋葉が二人の背後からぬるっと現れた。
「げええ! 秋葉先輩なんで……」
露骨に嫌そうな顔をする黄緑。
秋葉はそんな態度気にせずに、
「ウチだけではないでござる」
「はっ?」
「どうぞどうぞ」
秋葉に手招きされて現れたのは、桃色二つ結びの、おどおどしたかわいらしい女の子……青春の同級生桃泉和花だった。
「え、桃泉さん? なんでここに……」
あまりにも想定外な人物が現れたので、基本無表情な青春すら少し驚いた様子だった。
和花は少し、照れくさそうに言う。
「秋葉先輩が闇野くんの手助けに行くって言うから……あたしも手伝いたくて……」
「彼女、中等部なんでござるけど、お姉さんの真琴氏に連れられてたまにウチの漫研に来るんスよ。今日は休みなのに来てたからついでに誘ったでござるよ」
漫研にそこそこ出入りしてた黄緑はまったくの初耳だった。
黄緑と和花が会ったのは先日の騒動が初めてだったし。
今までは偶然会わなかったのだろう。
ただ、黄緑にとってはそんなことはどうでもいい。
彼女にとって、和花は目の上のたんこぶ。青春に近寄るメスというイメージしかないのだ。
ゆえに、あまりいい印象はない。
現に、黄緑は少しイライラしている。ただ、青春を心配してくれてるというので、邪険にはできないのだが。
とはいえ……
「あの~お二人には悪いんだけど、邪魔というか~戦力外なんで~迷惑というか~」
精一杯オブラートにつつんだつもりで黄緑は断ろうとする。
……全然オブラートにつつまれてないのだが。
「まあ気にしないで。取材したいだけでござるから」
「あ、あたしもなんでも手伝うんで!」
しかし二人は折れない。
黄緑は内心思う。
(うぜえええええええ! 無力な一般人は入ってくるなって言いたいの! こっちは!)
「……この先は命の保証できないよ。僕とお姉さんみたいに力でもあるなら話は変わるけど」
青春もまた忠告。
すると、秋葉が笑いだす。
「ブフフっ! 命の保証? なーに言ってるでござるか! 犯人もいないのに、危険なんてあるわけないでござるよ」
「まあにわかには信じられないだろうけど……実は妖魔っていう、」
「とにかく、何か潜入方法あるんでござろう? まーぜて!」
青春のここから潜入するという言葉を聞き、壊れた窓の先に何かあると推測した秋葉。
そして何を思ったかダッシュして、窓の外へ……
飛び出した!?
「あれ? なにもな……」
「いいいいいいいい!?」
青春と黄緑はあまりにも想定外な行動をした秋葉に驚愕すると、同時に動く!
「お姉さん!」
「わかってる! あのアホ先輩!」
黄緑はすぐに窓の外に飛び込んで、落ちた秋葉を追う。
そして青春は……
「桃泉さん! 僕も後を追うけど、1人で帰れるよね?」
時間はまだ6時前。まだ辺りはそんなに暗くもないし、危険はないと判断。
基本女の子の夜道は危ないと青春は思ってるから、できれば家まで送りたい所。だが今は緊急事態。
ゆえに1人で帰ってもらおうと思ったのだが……
「――!?」
青春は何かの気配を感じる。
(しまった……僕とした事がうかつだった。殺人現場に妖魔がいるなら、その周辺もテリトリーの可能性も考えられただろ!)
複数の妖魔の気配が、今になって露《あら》わになったのだ。
つまり、この廃ビルもまた奴ら妖魔の住みかだった。
……おそらく、猟奇殺人鬼事件を操ってる妖魔の配下。そう青春は推測する。
数は多いが、矮小な妖魔の集団に見えるからだ。
だがいかに矮小でも、ただの人間にとっては恐るべき脅威。
大の大人、いや軍人だとしても、奴ら妖魔の前では無力だ。
そして奴らはおそらく矮小ゆえに、戦闘能力の高い青春と黄緑に警戒していた。だから今まで身を潜め、気配を消していたのだろう。
それが和花1人にでもなってしまえば、彼女は一瞬で餌食になる。
となれば、彼女を1人で帰宅させるわけにはいかなくなる。
ちなみに、今になって青春が気配に気づけたのは妖魔達の油断である。
厄介な者が1人消え、餌となりうる人間の存在。ゆえに目の前の餌に待てと、止められてる犬のような状況になった妖魔達。だから気配が漏れた。
ギリ6時になってないため、青春が夜状態じゃないせいもある。
夜状態なら恐怖で奴らは動く事すら出来なかったはず。
逆に幸いだった。夜状態なら気配が漏れないことで妖魔に気づかず、和花を1人にしてしまっていたかもしれない。
……今からビルの妖魔を殲滅するとしたら時間がかかる。雑魚とはいえ数が多いし、奴らも逃げ惑うはず。
そうしてる間に先に行った黄緑と秋葉に危険が迫るやもしれない。
青春の推測では事件の黒幕の妖魔は、前回のサイクロプス並みはあると思っている。
そうなると黄緑1人では危険すぎる。
となれば……
「桃泉さん、ごめん。触るよ」
「――え!?」
青春は和花を抱き寄せる。そしてその状態で5階から事件現場へと飛び込んだ!
ただの人間の和花を落下の衝撃から守るにはこれしかなかった。
青春は恥ずかしいやら和花に悪いやらの感情が駆け巡るが、仕方なかった。
和花を置いて行けない、黄緑を早く追わなきゃ行けない。
そうなると和花も連れてくしかなかったから。
和花は状況をつかめてなかったが、抱き寄せられた事で顔を赤らめ、満更でもなさそうだった。
青春は落下しながら現場を見渡す。そこからの視点に黄緑と秋葉の姿がない。
移動した?……いや違う。
「……分断、された?」
つづく。
「ああ~!! メス猫!! 抱き寄せられてるんじゃないわよ!!」
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