30 / 37
人知れずの妖魔
29話 黄緑対ボス
しおりを挟む
「あ、ありえないよ……ボクちゃんの術にはまっていたはず……」
妖魔のボスは今起きた出来事が信じられない様子だった。
そんな相手に黄緑はどや顔。
「愛の力は全てを凌駕するってこと。憶えといたほうがいいよ」
何がなんだかわからない。今入ってきた青春達はそんな様子だった。
「あーおくん」
こんな状況で黄緑は青春を抱き寄せる。青春は少し照れながらも聞く。
「お姉さん、とりあえず無事みたいでよかったよ。ところで何がどうしたの?」
「こいつ、どうやら相手に幻覚見せれるみたいなの」
「幻覚?」
ボスの能力は対象に幻覚を見せ、本来とは違う景色と誤認させるというもの。血まみれの景色や、あらゆる人物が化け物に見えたのはそれが原因。
相手から聞こえる言葉も謎の言語に聞こえるため、能力を受けた相手はあらゆる人物を化け物と誤認してしまうわけだ。
だから能力を受けた黄緑と尾浜は互いに化け物と誤認したのだ。
ボスはそうやって相手を仲間割れさせ、互いに殺し合わせてきたというわけだ。自分の手を汚さずに。
元々ここに調査に来た理由の猟奇殺人鬼発生理由、それの種がボスの能力だったのだ。
犯人とされた人物達はあらゆる人物を化け物と誤認した。そして恐怖のあまり自分の身を守ろうとして、人々を殺し尽くしたのだ。
犯人達が供述していた化け物を殺しただけというもの。それは誤認させられていたからだったわけだ。
そんな悲劇をこいつは遊び感覚的で繰り返してきていた。まさに万死に値する妖魔だ。
黄緑の説明を聞き、だいたいの事は察する青春。
だがしかし、わからない事がある。
「なんで急にボスに攻撃できたの? あと、僕の事も化け物に見えてたはず……」
そう、ボスの能力は解けていない。ボス自身は見えないようになっていたうえに、青春の事も妖魔に見えてかつ、声もわからなかったはずだ。
「だから、愛の力だよ」
「は?」
「ワタシの青くんに対する愛が、化け物ではなく、青くんだと教えてくれたの。そして元凶の場所もね」
なに言ってんだこいつ。と、思われるだろう。
――しかし、能力を打ち消し、ボスに一撃を加えた。それは紛れもない事実。黄緑の愛はそれほどまでに強く、偉大なのかもしれない。
現に今の黄緑には青春が普通に見えているようだし。
「ワタシの青君への愛は、幻覚や洗脳なんかに負けないってこと。愛は全てを凌駕するの」
「「あ、ありえない……そんなわけのわからない力で、ボクちゃんの能力を打ち消せるわけがない!」」
「打ち消せてるじゃん」
「「何か裏技でも使ったんだろ!」」
「使ってないって。それよりさ」
「「……?」」
黄緑は可愛くウインクする。
「念仏唱えなよ」
黄緑はボスに殴りかかる。
ボスはすかさず距離をとる。
「「わけわからないけど、それなら実力で仕留めるまでさ!」」
ボスの戦闘力はここで倒した妖魔の中でも最強。黄緑が万全ならともかく、秋葉にやられた傷のせいで本調子とはいえない。
青春も冬黒との戦闘で疲弊しているため、協力して倒すのも難しい。
となると、絶望的状況……
なんてことはない。
「お姉さん」
青春は黄緑にナイフを手渡す。
刀身が伸び、剣のようなナイフ。
「それで倒してみせてよ」
青春のおねだりと勘違いした黄緑は、とびきりの笑顔をみせる。
「わかった! お姉ちゃんに任せて! その代わり、後でお姉ちゃんにご褒美ね!」
「いいよ」
……青春はつい、安請け合いしてしまった。
黄緑はナイフをブンブン振るう。魔力をナイフに集中させ、ビームサーベルのような形状にへと姿を変える。
黄緑自身の魔力は落ちている。それゆえに攻撃力も下がっているのだが、このナイフがそれを補ってくれそうだった。
「「ふん、そんなものでボクちゃんを殺せるとでも?」」
「そんなもの? 青くんのナイフに対してその言い種、万死に値するよ!」
黄緑はボスに真っ直ぐ向かい特攻しかける!
「「バカめ。いい的だよ!」」
ボスは自身の体から大量の触手を伸ばし、黄緑めがけて放つ。
対し黄緑は、くるくると自身を回転させる。常人では小さい竜巻かなにかと誤認するほどの速度。
回転量も凄まじい。
そんな回転速度で振り回されるナイフの斬撃は、触手の数々を切り裂いていく。
ならばと、ボスは口を大きく開く。口内からは光る魔力の球体が出現する。
おそらく、魔力のエネルギー砲のようなものを放出するつもりなのだろう。
黄緑はベーゴマのようにグルグル回ったまま。視界もおぼつかないはず……なのだが、突如いきなり大ジャンプ!
エネルギー砲の射程外の上空に飛んだのだろう。
ボスはすかさず口を上に向け、標準を合わせようとするが……
「闇空間」
青春、今日2度めの闇空間発動。黄緑のサポートのつもりだろう。
辺りは漆黒の闇に包まれる……
ボスはその闇の中で身動きを封じられ、エネルギー砲も放てなくなる。
「「は、はあ!? な、なにこれど、どうなってんの!?」」
「残念ながら、ゲームオーバーだよ。……ねえ、お姉さん」
「青くんの言う通り!」
回転したまま黄緑はボスに向かって落下する。――そして、放つ。
「光闇死斬」
黄緑の魔力、青春のナイフが合わさった合体攻撃。
暗闇の闇空間に唯一煌めく斬撃が、ボスの頭と体を一刀両断する。
「「が、ギギギギャアアア!! ぼ、ボクちゃんが! そんなあ……」」
綺麗に右と左に体が分かれ、噴水のように血が吹き出していく。
そして、全く動かなくなる。
一刀両断にしたのだ、当然の事。
青春のサポートありとはいえ、黄緑は見事この地に潜む妖魔のボスを仕留めてみせたのだ。
「お姉さん、お疲れ様。これで殺人鬼が出てくる事はなくなるし、
一件落着だね」
黄緑を労う青春。しかし、黄緑はふらふらしている。
おそらく目が回ったのだろう。尋常じゃないほどくるくる回っていたし。
「お姉さん大丈夫?」
「う、うーん……多分」
「「青春青春」」
青春の影に引っ込んでる妖猫ヒルダが呼び掛けてきた。
「「助けた奴らから報酬もらわないと」」
「ああ、そうだね」
いつもの嫉妬が始まるといけない。といっても助けたといえる人物は和花くらいだが。
いや、命を奪わなかったから冬黒たちもだろうか。
……奴らにはいろいろと聞く必要もある、そう思い青春は冬黒達の元に向かおうとするが……
黄緑にガシっと手を捕まれる。
「なに? お姉さん」
「青くん……。ご褒美」
黄緑には珍しげ小さい声。そして、どことなく黄緑の顔が赤い。
そういえばそんなこと言ってたなと、思い出す青春。
「なにがいいの? デザートでも奢ろうか?」
「チューして」
……
聞き間違いだろう。そう思う青春はもう一度聞く。
「……よく聞こえなかっ「チューして青くん」
……
「……ほ、ほっぺたとか?」
「唇」
……
黄緑の顔は沸騰してるかのように赤い。目はじっと青春を見つめている。……冗談なんかではないマジな目だ。
どことなく、興奮してるようにも見える。
後ずさりする青春。
だが、黄緑に肩を捕まれる。
「じ、自分からするのが……は、恥ずかしいなら、ワタシからするよ?」
い、息が荒い……
「お、お姉さん落ち着いて……」
「前ははぐらかされたけど……。今回はご褒美だから……ね?」
※12話参照。
「いや、ちょっとま、」
「待たない」
青春は、強引に抱き寄せられて……
超、ディープなキスされた……
何秒、キスされただろうか? 青春はわからなかった。
唇だけでなく、ありとあらゆるところもやられた。
精気を吸いつくすサキュバスのように……吸いつくされた気分に青春はなった。
「ちなみに、ワタシも初めてだったんだよ。フフフ。ごちそうさま」
黄緑は青春を離すとペロリと自分の唇を舐めた。
青春は……倒れた。
「キャー! 青くん大丈夫!?」
必死に起こす黄緑。
いや、お前のせいだろと離れて見てた秋葉が思っていた。
♢
――同時刻、ある繁華街。
「おいこらてめえなめてんのか! ぶち殺すぞ!」
ヤンキーらしき男達が、一人のサラリーマン風の男になにやら問い詰めていた。
「いや、ですから……謝ってるじゃないですか」
「うるせえ! 殴られたくなけりゃ金寄越せや!」
「そんな……参ったなあ……あ、そこの方!」
サラリーマン風の男は通りかかった、がたいがでかく、顔に傷の入った男に呼び掛ける。
男が振り返る。その面構えはかなり強面。本職そのものという容姿。
そんな男の顔を見たヤンキー達は震え上がる。
――しかし、サラリーマン風の男は物怖じせず言う。
「申し訳ない、助けてもらえないですか?」
「あ?」
ヤンキー達は内心あせる。こんな奴に出てこられたら……と。
――だが、
「ふざけるな。なんでオレが」
断ってきた。ホッとするヤンキー。
「そんなあ、助けて下さいよ。でないと……」
「あ? でないとなんだ? こいつらの代わりにオレがボコしてやろうか?」
強面の男がサラリーマン風の男に掴みかかる。ヤンキーは便乗しようとするが……
強面の男の動きが止まる。
「はあ……仕方ない。誰も助けてくれないみたいだし、ねえ?」
サラリーマン風の男が静かに言う。強面の男は顔面蒼白、冷や汗が止まらない。
「この場にいる者、皆殺しにするかな」
強面の男の腕、ヤンキー達の足が一瞬で落ちた。音もなく。
「「ギャああ!!」」
全員の悲鳴が周囲に響きわたる。その悲鳴は彼らだけでなく、この場全ての人間の悲鳴に徐々に変わっていく……
「悪かった! 悪かったからあ!!」
「助ける! 今度は助けるから!」
そんな声も聞こえてきたがすぐにまた……
「「ギャああああああああああ!」」
悲鳴に変わった。
――周囲から悲鳴が聞こえなくなると、その場にはサラリーマン風の男のみが立ちつくしていた。
サラリーマン風の男の姿はすでに変わっていた。
ある妖魔の姿へと……
そんな男に、黒く兎のような垂れ耳をした者が近寄ってきた。
男はその者を見ずに言う。
「一兎か。何の用?」
一兎と呼ばれた垂れ耳の者は頭を下げて言う。
「はい。実は猟奇殺人鬼を操っていたあのとるに足らん妖魔軍。壊滅したもようで」
「……ああそう。名前も思い出せないや。サイクロプスを始末した奴かな?」
「おそらく」
「調べてよ。あのバカな教団使ってさ」
「御意……。四鬼様」
人知れずの妖魔編――完。
――つづく。
「ファーストキッス~今度はさらに~フフフ」
「次回は箸休め、またプロフィール回だってさ。先輩の情報とかいらないよね?」
妖魔のボスは今起きた出来事が信じられない様子だった。
そんな相手に黄緑はどや顔。
「愛の力は全てを凌駕するってこと。憶えといたほうがいいよ」
何がなんだかわからない。今入ってきた青春達はそんな様子だった。
「あーおくん」
こんな状況で黄緑は青春を抱き寄せる。青春は少し照れながらも聞く。
「お姉さん、とりあえず無事みたいでよかったよ。ところで何がどうしたの?」
「こいつ、どうやら相手に幻覚見せれるみたいなの」
「幻覚?」
ボスの能力は対象に幻覚を見せ、本来とは違う景色と誤認させるというもの。血まみれの景色や、あらゆる人物が化け物に見えたのはそれが原因。
相手から聞こえる言葉も謎の言語に聞こえるため、能力を受けた相手はあらゆる人物を化け物と誤認してしまうわけだ。
だから能力を受けた黄緑と尾浜は互いに化け物と誤認したのだ。
ボスはそうやって相手を仲間割れさせ、互いに殺し合わせてきたというわけだ。自分の手を汚さずに。
元々ここに調査に来た理由の猟奇殺人鬼発生理由、それの種がボスの能力だったのだ。
犯人とされた人物達はあらゆる人物を化け物と誤認した。そして恐怖のあまり自分の身を守ろうとして、人々を殺し尽くしたのだ。
犯人達が供述していた化け物を殺しただけというもの。それは誤認させられていたからだったわけだ。
そんな悲劇をこいつは遊び感覚的で繰り返してきていた。まさに万死に値する妖魔だ。
黄緑の説明を聞き、だいたいの事は察する青春。
だがしかし、わからない事がある。
「なんで急にボスに攻撃できたの? あと、僕の事も化け物に見えてたはず……」
そう、ボスの能力は解けていない。ボス自身は見えないようになっていたうえに、青春の事も妖魔に見えてかつ、声もわからなかったはずだ。
「だから、愛の力だよ」
「は?」
「ワタシの青くんに対する愛が、化け物ではなく、青くんだと教えてくれたの。そして元凶の場所もね」
なに言ってんだこいつ。と、思われるだろう。
――しかし、能力を打ち消し、ボスに一撃を加えた。それは紛れもない事実。黄緑の愛はそれほどまでに強く、偉大なのかもしれない。
現に今の黄緑には青春が普通に見えているようだし。
「ワタシの青君への愛は、幻覚や洗脳なんかに負けないってこと。愛は全てを凌駕するの」
「「あ、ありえない……そんなわけのわからない力で、ボクちゃんの能力を打ち消せるわけがない!」」
「打ち消せてるじゃん」
「「何か裏技でも使ったんだろ!」」
「使ってないって。それよりさ」
「「……?」」
黄緑は可愛くウインクする。
「念仏唱えなよ」
黄緑はボスに殴りかかる。
ボスはすかさず距離をとる。
「「わけわからないけど、それなら実力で仕留めるまでさ!」」
ボスの戦闘力はここで倒した妖魔の中でも最強。黄緑が万全ならともかく、秋葉にやられた傷のせいで本調子とはいえない。
青春も冬黒との戦闘で疲弊しているため、協力して倒すのも難しい。
となると、絶望的状況……
なんてことはない。
「お姉さん」
青春は黄緑にナイフを手渡す。
刀身が伸び、剣のようなナイフ。
「それで倒してみせてよ」
青春のおねだりと勘違いした黄緑は、とびきりの笑顔をみせる。
「わかった! お姉ちゃんに任せて! その代わり、後でお姉ちゃんにご褒美ね!」
「いいよ」
……青春はつい、安請け合いしてしまった。
黄緑はナイフをブンブン振るう。魔力をナイフに集中させ、ビームサーベルのような形状にへと姿を変える。
黄緑自身の魔力は落ちている。それゆえに攻撃力も下がっているのだが、このナイフがそれを補ってくれそうだった。
「「ふん、そんなものでボクちゃんを殺せるとでも?」」
「そんなもの? 青くんのナイフに対してその言い種、万死に値するよ!」
黄緑はボスに真っ直ぐ向かい特攻しかける!
「「バカめ。いい的だよ!」」
ボスは自身の体から大量の触手を伸ばし、黄緑めがけて放つ。
対し黄緑は、くるくると自身を回転させる。常人では小さい竜巻かなにかと誤認するほどの速度。
回転量も凄まじい。
そんな回転速度で振り回されるナイフの斬撃は、触手の数々を切り裂いていく。
ならばと、ボスは口を大きく開く。口内からは光る魔力の球体が出現する。
おそらく、魔力のエネルギー砲のようなものを放出するつもりなのだろう。
黄緑はベーゴマのようにグルグル回ったまま。視界もおぼつかないはず……なのだが、突如いきなり大ジャンプ!
エネルギー砲の射程外の上空に飛んだのだろう。
ボスはすかさず口を上に向け、標準を合わせようとするが……
「闇空間」
青春、今日2度めの闇空間発動。黄緑のサポートのつもりだろう。
辺りは漆黒の闇に包まれる……
ボスはその闇の中で身動きを封じられ、エネルギー砲も放てなくなる。
「「は、はあ!? な、なにこれど、どうなってんの!?」」
「残念ながら、ゲームオーバーだよ。……ねえ、お姉さん」
「青くんの言う通り!」
回転したまま黄緑はボスに向かって落下する。――そして、放つ。
「光闇死斬」
黄緑の魔力、青春のナイフが合わさった合体攻撃。
暗闇の闇空間に唯一煌めく斬撃が、ボスの頭と体を一刀両断する。
「「が、ギギギギャアアア!! ぼ、ボクちゃんが! そんなあ……」」
綺麗に右と左に体が分かれ、噴水のように血が吹き出していく。
そして、全く動かなくなる。
一刀両断にしたのだ、当然の事。
青春のサポートありとはいえ、黄緑は見事この地に潜む妖魔のボスを仕留めてみせたのだ。
「お姉さん、お疲れ様。これで殺人鬼が出てくる事はなくなるし、
一件落着だね」
黄緑を労う青春。しかし、黄緑はふらふらしている。
おそらく目が回ったのだろう。尋常じゃないほどくるくる回っていたし。
「お姉さん大丈夫?」
「う、うーん……多分」
「「青春青春」」
青春の影に引っ込んでる妖猫ヒルダが呼び掛けてきた。
「「助けた奴らから報酬もらわないと」」
「ああ、そうだね」
いつもの嫉妬が始まるといけない。といっても助けたといえる人物は和花くらいだが。
いや、命を奪わなかったから冬黒たちもだろうか。
……奴らにはいろいろと聞く必要もある、そう思い青春は冬黒達の元に向かおうとするが……
黄緑にガシっと手を捕まれる。
「なに? お姉さん」
「青くん……。ご褒美」
黄緑には珍しげ小さい声。そして、どことなく黄緑の顔が赤い。
そういえばそんなこと言ってたなと、思い出す青春。
「なにがいいの? デザートでも奢ろうか?」
「チューして」
……
聞き間違いだろう。そう思う青春はもう一度聞く。
「……よく聞こえなかっ「チューして青くん」
……
「……ほ、ほっぺたとか?」
「唇」
……
黄緑の顔は沸騰してるかのように赤い。目はじっと青春を見つめている。……冗談なんかではないマジな目だ。
どことなく、興奮してるようにも見える。
後ずさりする青春。
だが、黄緑に肩を捕まれる。
「じ、自分からするのが……は、恥ずかしいなら、ワタシからするよ?」
い、息が荒い……
「お、お姉さん落ち着いて……」
「前ははぐらかされたけど……。今回はご褒美だから……ね?」
※12話参照。
「いや、ちょっとま、」
「待たない」
青春は、強引に抱き寄せられて……
超、ディープなキスされた……
何秒、キスされただろうか? 青春はわからなかった。
唇だけでなく、ありとあらゆるところもやられた。
精気を吸いつくすサキュバスのように……吸いつくされた気分に青春はなった。
「ちなみに、ワタシも初めてだったんだよ。フフフ。ごちそうさま」
黄緑は青春を離すとペロリと自分の唇を舐めた。
青春は……倒れた。
「キャー! 青くん大丈夫!?」
必死に起こす黄緑。
いや、お前のせいだろと離れて見てた秋葉が思っていた。
♢
――同時刻、ある繁華街。
「おいこらてめえなめてんのか! ぶち殺すぞ!」
ヤンキーらしき男達が、一人のサラリーマン風の男になにやら問い詰めていた。
「いや、ですから……謝ってるじゃないですか」
「うるせえ! 殴られたくなけりゃ金寄越せや!」
「そんな……参ったなあ……あ、そこの方!」
サラリーマン風の男は通りかかった、がたいがでかく、顔に傷の入った男に呼び掛ける。
男が振り返る。その面構えはかなり強面。本職そのものという容姿。
そんな男の顔を見たヤンキー達は震え上がる。
――しかし、サラリーマン風の男は物怖じせず言う。
「申し訳ない、助けてもらえないですか?」
「あ?」
ヤンキー達は内心あせる。こんな奴に出てこられたら……と。
――だが、
「ふざけるな。なんでオレが」
断ってきた。ホッとするヤンキー。
「そんなあ、助けて下さいよ。でないと……」
「あ? でないとなんだ? こいつらの代わりにオレがボコしてやろうか?」
強面の男がサラリーマン風の男に掴みかかる。ヤンキーは便乗しようとするが……
強面の男の動きが止まる。
「はあ……仕方ない。誰も助けてくれないみたいだし、ねえ?」
サラリーマン風の男が静かに言う。強面の男は顔面蒼白、冷や汗が止まらない。
「この場にいる者、皆殺しにするかな」
強面の男の腕、ヤンキー達の足が一瞬で落ちた。音もなく。
「「ギャああ!!」」
全員の悲鳴が周囲に響きわたる。その悲鳴は彼らだけでなく、この場全ての人間の悲鳴に徐々に変わっていく……
「悪かった! 悪かったからあ!!」
「助ける! 今度は助けるから!」
そんな声も聞こえてきたがすぐにまた……
「「ギャああああああああああ!」」
悲鳴に変わった。
――周囲から悲鳴が聞こえなくなると、その場にはサラリーマン風の男のみが立ちつくしていた。
サラリーマン風の男の姿はすでに変わっていた。
ある妖魔の姿へと……
そんな男に、黒く兎のような垂れ耳をした者が近寄ってきた。
男はその者を見ずに言う。
「一兎か。何の用?」
一兎と呼ばれた垂れ耳の者は頭を下げて言う。
「はい。実は猟奇殺人鬼を操っていたあのとるに足らん妖魔軍。壊滅したもようで」
「……ああそう。名前も思い出せないや。サイクロプスを始末した奴かな?」
「おそらく」
「調べてよ。あのバカな教団使ってさ」
「御意……。四鬼様」
人知れずの妖魔編――完。
――つづく。
「ファーストキッス~今度はさらに~フフフ」
「次回は箸休め、またプロフィール回だってさ。先輩の情報とかいらないよね?」
10
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
出戻り娘と乗っ取り娘
瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……
「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」
追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。
7歳の侯爵夫人
凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。
自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。
どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。
目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。
王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー?
見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。
23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる