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呪詛
力量差
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彼女はいた。塵も焼き尽くす炎を浴び、人間界屈指の戦士の一撃をその身に受けてもなお、涼しい顔で、彼等の前に立ち塞がっていた。
戦士に驚愕の表情が浮かぶ。確かに一撃を叩き込んだはずだった。この手に残った感触。これまでの敵は全て、先程の一撃の手応えで倒してきた。
しかし、彼女はまるでそれが幻であったかのように、すぐ目の前に立っている。そして、呆けている戦士に一瞬で近づき、その胸を横薙ぎに斬り裂いた。
「ぐぼっ」
屈強な戦士は奇妙な声を上げ、胸から鮮血を撒き散らしながら、黒髪の男の目の前まで吹っ飛んできた。深く刻まれた斬撃の痕は、通常であれば明らかな致命傷である。溢れる鮮血がそれを物語っているように、男の蒼い眼から生気が失われていく。黒髪の男は戦士の横に膝立ちになり、傷口に手を翳す。
『上級回復魔法!』
黄色い光が戦士を包むと、みるみるうちに傷が塞がり、蒼い目に生気が蘇っていく。それを見た黒い髪の男は僅かに安堵の息を吐き、彼女へと向き直る。
「助かったぜ、アンフィニ」
「気にするな、ノワール」
上級回復魔法でも、流れた血はすぐには戻らない。それが可能であるのは、極大回復魔法のみである。しかし、それを使える者は、この城の途中の戦闘で息絶え、既にパーティーにはいない。蒼い髪の戦士、ノワールはふらふらと、戦斧の柄を杖代わりにして立ち上がり、彼女を忌々しげに睨みつけながら再び戦斧を構える。彼女は悠然と、微笑みながらその様子を見ていた。
一人でダメなら二人でと、戦士ノワールと黒髪の男、アンフィニが同時に駆け出す。二人とも、やや弧を描きながら彼女への距離を詰め、ほぼ同時にノワールは左肩から袈裟斬りに、アンフィニは右脇腹からの斬り上げを放つ。
だが、鈍い金属音が間髪なく連続で響いたかと思えば、アンフィニが地面に這いつくばり、ノワールは吹き飛ばされ、その身体を部屋の壁にしたたかに叩きつけられていた。
彼女は一瞬の早業でどちらの斬撃が先に身体に到達するか見極めた上で、それぞれの武器に大剣を叩きつけ、身を守ったのだ。
受け身に回っていた彼女が、ついに動いた。凄まじい速度で魔法使いの女性に迫ると、上段から、叩き割るように大剣を振り下ろす。
魔法使いの女性は非力であったため、装備も軽いものが多く、その貧弱な装備では、確実にその命が刈り取られるほどの一撃だった。否、たとえ彼女の身体が鋼鉄の塊であろうとも、結果は変わらないであろう。
しかし、魔法使いの女性、ミリアもただの人間ではない。この世界屈指の魔力と頭脳を持つ魔法使いである。
常識の範疇の実力しか持たない人間であれば、大剣の勢いと彼女の殺気に気圧され、微動だにもできず真っ二つになるはずだった。だが、ミリアは凶刃に臆さず、一瞬で杖を構え、呪文を詠唱する。
『極大氷冷魔法ッ!』
杖から、マグマすら凍らせるであろう冷気が迸った。それは数多の氷の刃を形成し、凶刃にまとわりつくことで勢いが殺され、ミリアに刃は届くことはなかった。なおかつ猛吹雪が彼女を襲い、猛吹雪と氷の刃に飲み込まれる形になり、その勢いで彼女の小さい身体が後方に飛ばされる。
魔法使いは、その光景を見ながらも杖にありったけの魔力を注ぎ続けた。この城ごと彼女を氷像にせんとばかりに、ミリアの魔力によって、周囲が氷の世界に豹変していった。
気温が下がったことによって、三人の吐く息も白くなっていく。視界にも、もやがかかり、彼女の姿は視認できない。
ミリアは、杖に注ぐ魔力を弱めていき、極大氷冷魔法は完成を迎えた。しかし、男達は戦闘態勢を緩めない。
すると、一面の氷世界が突如として強い閃光を発し、全ての氷が弾けた。ダイヤモンドダストがキラキラと輝きながら、ハラハラと舞い降りる。
アンフィニは歯噛みした。
彼女はまたもや無傷。カウンター気味に入った氷の刃も、氷の世界を作り出すような最高峰の氷冷魔法すら彼女には通用していなかったのだ。
確かに彼女の身体に氷の刃が突き立った光景を見たにもかかわらず、彼女はまるで何事もなかったように微笑みを浮かべながら立っているのだ。
それに対し、アンフィニは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、鋭い瞳で彼女を射抜いていた。
その瞬間、ノワールが彼女に向かって駆ける。決して諦めない。男の背中はそう語っていた。それに鼓舞されたように黒髪の男も、その右手に持つ名剣を構えながら飛び出した。
戦士に驚愕の表情が浮かぶ。確かに一撃を叩き込んだはずだった。この手に残った感触。これまでの敵は全て、先程の一撃の手応えで倒してきた。
しかし、彼女はまるでそれが幻であったかのように、すぐ目の前に立っている。そして、呆けている戦士に一瞬で近づき、その胸を横薙ぎに斬り裂いた。
「ぐぼっ」
屈強な戦士は奇妙な声を上げ、胸から鮮血を撒き散らしながら、黒髪の男の目の前まで吹っ飛んできた。深く刻まれた斬撃の痕は、通常であれば明らかな致命傷である。溢れる鮮血がそれを物語っているように、男の蒼い眼から生気が失われていく。黒髪の男は戦士の横に膝立ちになり、傷口に手を翳す。
『上級回復魔法!』
黄色い光が戦士を包むと、みるみるうちに傷が塞がり、蒼い目に生気が蘇っていく。それを見た黒い髪の男は僅かに安堵の息を吐き、彼女へと向き直る。
「助かったぜ、アンフィニ」
「気にするな、ノワール」
上級回復魔法でも、流れた血はすぐには戻らない。それが可能であるのは、極大回復魔法のみである。しかし、それを使える者は、この城の途中の戦闘で息絶え、既にパーティーにはいない。蒼い髪の戦士、ノワールはふらふらと、戦斧の柄を杖代わりにして立ち上がり、彼女を忌々しげに睨みつけながら再び戦斧を構える。彼女は悠然と、微笑みながらその様子を見ていた。
一人でダメなら二人でと、戦士ノワールと黒髪の男、アンフィニが同時に駆け出す。二人とも、やや弧を描きながら彼女への距離を詰め、ほぼ同時にノワールは左肩から袈裟斬りに、アンフィニは右脇腹からの斬り上げを放つ。
だが、鈍い金属音が間髪なく連続で響いたかと思えば、アンフィニが地面に這いつくばり、ノワールは吹き飛ばされ、その身体を部屋の壁にしたたかに叩きつけられていた。
彼女は一瞬の早業でどちらの斬撃が先に身体に到達するか見極めた上で、それぞれの武器に大剣を叩きつけ、身を守ったのだ。
受け身に回っていた彼女が、ついに動いた。凄まじい速度で魔法使いの女性に迫ると、上段から、叩き割るように大剣を振り下ろす。
魔法使いの女性は非力であったため、装備も軽いものが多く、その貧弱な装備では、確実にその命が刈り取られるほどの一撃だった。否、たとえ彼女の身体が鋼鉄の塊であろうとも、結果は変わらないであろう。
しかし、魔法使いの女性、ミリアもただの人間ではない。この世界屈指の魔力と頭脳を持つ魔法使いである。
常識の範疇の実力しか持たない人間であれば、大剣の勢いと彼女の殺気に気圧され、微動だにもできず真っ二つになるはずだった。だが、ミリアは凶刃に臆さず、一瞬で杖を構え、呪文を詠唱する。
『極大氷冷魔法ッ!』
杖から、マグマすら凍らせるであろう冷気が迸った。それは数多の氷の刃を形成し、凶刃にまとわりつくことで勢いが殺され、ミリアに刃は届くことはなかった。なおかつ猛吹雪が彼女を襲い、猛吹雪と氷の刃に飲み込まれる形になり、その勢いで彼女の小さい身体が後方に飛ばされる。
魔法使いは、その光景を見ながらも杖にありったけの魔力を注ぎ続けた。この城ごと彼女を氷像にせんとばかりに、ミリアの魔力によって、周囲が氷の世界に豹変していった。
気温が下がったことによって、三人の吐く息も白くなっていく。視界にも、もやがかかり、彼女の姿は視認できない。
ミリアは、杖に注ぐ魔力を弱めていき、極大氷冷魔法は完成を迎えた。しかし、男達は戦闘態勢を緩めない。
すると、一面の氷世界が突如として強い閃光を発し、全ての氷が弾けた。ダイヤモンドダストがキラキラと輝きながら、ハラハラと舞い降りる。
アンフィニは歯噛みした。
彼女はまたもや無傷。カウンター気味に入った氷の刃も、氷の世界を作り出すような最高峰の氷冷魔法すら彼女には通用していなかったのだ。
確かに彼女の身体に氷の刃が突き立った光景を見たにもかかわらず、彼女はまるで何事もなかったように微笑みを浮かべながら立っているのだ。
それに対し、アンフィニは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、鋭い瞳で彼女を射抜いていた。
その瞬間、ノワールが彼女に向かって駆ける。決して諦めない。男の背中はそう語っていた。それに鼓舞されたように黒髪の男も、その右手に持つ名剣を構えながら飛び出した。
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