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トパデの街へ

ジャック

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 トパデの街は、ミザリー地方近辺にある世界有数の商業都市である。中でも目を引くのは、街の中央にある巨大な建造物。それはミザリー城より一回り小さいものの、充分な巨大さを誇っていた。それは百貨店と呼ばれ、施設内には、様々な商店が立ち並んでいる。
 以前は百貨店の影響もあり、各国から百貨店で買い物をしようと、観光客で栄えていた街であるが、ここ数年は魔物の凶暴化に伴い、観光客も減少し、経済状況は落ち目といったところであった。

 翌朝、ゼロ達は宿屋を出た後、まずは街の責任者の家を訪ねることにした。街の責任者ともあれば、街の中のみならず、周辺の地域の情報を掴んでいると目論んだためだ。街を歩く住民に、責任者の家の所在を尋ね、二人は責任者の家の前に辿り着いた。
 責任者の家は所謂、豪邸であった。厳重な門が建てられ、門の中には様式美を感じられるような建物。三階建てであり、いかにも裕福な者がその資金力を示す為に建てたようなものであった。
 ゼロ達は門扉を開け、豪華な玄関のドアノッカーを三回叩いた。がちゃり。と音を立て、現れたのは女中であろう若い女性。

「どちら様でしょうか……?」

 女中は、ゼロ達を見るや否や表情が強張り、恐る恐る尋ねた。無理もないだろう、腰に剣を提げた者が訪ねてくるなど只事ではない。ゼロは女中の不安を拭う為答えた。

「私達は、旅の者です。暗黒の女帝を倒すための旅をしています。是非御主人に御挨拶をしたく参りました」

「はぁ……。主人に話をして参りますので、少々お待ち頂けますか?」

「はい」

 女中はゼロに一礼し、玄関の扉を閉める。待つこと数分。再び玄関の扉が開かれた。現れたのは恰幅のいい男性。

「おお! 君か! 暗黒の女帝を倒すなどと頭のおかしなことをのたまう少年は!」

「……はい。ゼロと申します。こちらは───」

「ルージュと申します」

 いきなり不躾なことを言われ、頭に血が昇るが、それは表に出さずに自己紹介をする二人。うんうん。と頷いた恰幅のいい男は、入れ入れ。と二人を手招きし、ゼロはお邪魔します。と豪邸へと足を踏み入れる。
 予想通りではあるものの、豪邸の内装も豪華絢爛。ゼロは置物の価値は分からないが、それがとてつもない高級品だということは察していた。
 二人は応接間に通され、上質なソファに腰掛ける。先程の女中がすかさず、カップに入ったコーヒーをゼロ達に出し、ごゆっくり。と声を掛けてから部屋を出て行った。

「私の名はジャック。もう、我が百貨店には足を運んでくれたかな?」

 テーブルを挟んで向かい側、男性が名乗り、ゼロ達に質問を投げかけた。

「いえ、まだ行っておりません。後程足を運ぼうと思っています」

 そうかそうか。とジャックはまた頷き、続ける。

「冒険の役に立つものを売っている売店も数多く出店している。是非、行ってみてくれ」

「是非伺わせていただきます」

 ゼロの素直な反応に気を良くしたのか、ジャックは満面の笑みを浮かべている。

「して、私に要件とは?ただお喋りをしに来たわけではないだろう?」

 ジャックは、笑顔を崩さぬまま、ゼロに問いかけた。

「はい。この街の責任者であるジャックさんに、この旅の助言を頂きたく参りました。我々はこの辺りの地域に足を踏み入れたことがありませんので、この近辺の地域についてお話を伺いたいのです」

「ふむ、なるほどな。確かに、地図で見るだけでは分からないこともあるだろうしな。私が知っていることであれば全て話そう」

「ありがとうございます」

 ジャックは、まず、近辺で栄えている街の名前を出した。その街の名はカハターン。昼と夜で様相がまるで違う街になるという。港町が近い為、ある程度人の出入りがあるため栄えているということだ。
 また、港町から船に乗って中央大陸へ向かうべきとも。今いるゼロ達の地域は、世界的に見れば西寄りに位置している大きな島である。

(中央大陸か……)

 ゼロにとっては未踏の地。ルージュも同様であろう。ここで、二人の旅のひとまずの目標が定まった。次なる目的地はカハターン。その後は港町を経由して中央大陸へ。目標が決まったことにより、ゼロの心は僅かに躍っていた。
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